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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第三章/王城の日々
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大国の王太子⑤

リリアンヌ視点



「共有の類のちからを試すのは、こんなにも大変なのか…」



「…あの、ブライアン様。今日はもう、大丈夫です」

リリアンヌは、膝の上でハンカチをぎゅっと握った。



「もう、十分です」



「そんなわけないだろう。まだ、数分しか協力していない」

ブライアンは困ったように眉を寄せた。



「でも、ちからを使うことは大変だから」



「訓練の方が体力を使うと言っているだろう。気にするな」



「…でも」



「それなら、少し休憩を入れますか」


見兼ねたルイージが、そっと口を挟んだ。



「いつものように、休憩がてら雑談をしましょう」



「…私はもちろん、嬉しいです」



「…雑談とは?」

ブライアンは、不思議そうに二人を見比べた。



「この時間を使って、ルイージ宰相が授業をつけてくれるのです」



「授業?へぇ…」



「そんな大それたものではありません。ただ、リリアンヌ殿下の質問に答えているだけです」

ルイージが苦笑しながら答えた。



「でも、いつも為になる話ばかりです」



「ルイージ宰相直々の授業か。それはぜひ、僕も聞きたいな」


姿勢を正したリリアンヌに合わせ、ブライアンも体を正面へ向けた。



「…それでは、リリアンヌ殿下。今日は何を聞きたいですか?」


ルイージは再び苦笑を浮かべながら、同じように姿勢を正した。



「…文官について、教えてくれませんか?」


ずっと気になっていたことを、口にした。



「文官について、何を知りたいのです?」



「ええと…どんな仕事をしているのか、どんな人たちがいるのか、でしょうか」


文官の言葉の意味自体は、分かる。


仕事の内容も、なんとなくは分かる。



だけど、なぜ避けなくてはいけないのか、


なぜ自分へ声を掛けてきたのか、まだ分からない。



「では…できる限り、客観的にお伝えします」

ルイージが、静かに切り出した。



「文官とは、軍事以外の行政事務を遂行する役人のことです。

まあ…あなたのことですから、これくらいはご存じでしょうが」



「文官塔で働かれていることも知っています」

リリアンヌは、こくりと頷いた。



「詳細は省きますが、八つの部署が王都に置かれ、全国の行政事務を取り扱っています」



「えっ…全国?王都だけを扱っているのではないのですか?」



「ええ、もちろん。我が国は、君主制ですから」



「…君主制」


急に、政治の話になってきた。



「この八つの部署で働く文官たちを中央官と言うのに対し、各領で働く文官を地方官と言います」

ルイージは、穏やかに言葉を続けた。



「それとは別に、国から任命された地方長官が、任された領を国王に代わって統治しています。…名目上は、ですが」



「…名目上は?」



「今はもう、地方長官は世襲制になっています。よほどのことがない限り、領地が没収されることもありません」



「あっ…ではもしかして、母方の叔父は、地方長官なのですか?」


母の弟が、隣領を統治していることは知っている。



「ダナン長官ですね。その通りです。アヴェリーン殿下とダナン長官の御父上より引き継ぎ、数年前からユゲラドリル領を統治されていらっしゃいます」



「爵位ではなく、長官と呼ぶのですね…」


また、ひとつ学んだ。



「文官は身分に関係なく、非常に難易度の高い文官試験に合格すれば就くことのできる職業です。

爵位も姓もない者もいますから、統一して名で呼び合うことが通例となっています」



「あ…!騎士も同じですね?」


騎士は、名前で呼び合っている。


そう言われたことを、ふと思い出した。



「騎士に試験はありませんが、まあ、そうです。…こちらも、名目上の話になりますが」



「…どういうことですか?」



「文官も騎士も、平民出身の者が就くことはほぼ不可能ということだ」

ブライアンが代わりに答えた。



「…では、平民出身の方はいらっしゃらないのですか?」



「地方の文官や騎士の方では、多くいらっしゃいますが…」

再びルイージが口を開いた。



「中央は、今はいないに等しいです。優秀な平民出身者が貴族に養子入りし、文官になった者が何名か在籍しています」



「そう…なのですね」


平民と貴族では、学べる内容も量も違いそうだ。


だから、必然的に貴族出身が多くなるのだろうか。



「話を戻しましょう。どんな者が文官にいるかですが…中央官に関しては、頭の良い者が多いです」



「…はい」


難易度の高い試験を突破している人たちなのだから、相当優秀なのだろう。



「共通して言えるのは、そのくらいでしょうか」



「えっ?」



「あとは、中央官は全員、ここにアメシストの石を付けています」

ルイージは、とん、と上衣の襟元を指さした。



「アメシストって…紫の宝石のことですか?」



「そうです。一つ、二連、三連と、石の数が増えるにつれて階級が上がります」



「ルイージ宰相は、ダイヤモンドが三連ですね…」

リリアンヌは、じっとルイージの襟元へ目を向けた。



「あれ…お父様の軍服にも、確か三連が付いていたような…」


軍服の襟元に、三連に光るダイヤモンドを見たことがあった。



「階級の話をすると、また長くなりますので…至極簡単に話しますと、ここにダイヤモンドを付けているのは、高官と呼ばれる者たちだけです」



「宝石の種類でもまた、階級が決まっているのですね?」



「ええ。上から順に、ダイヤモンド、サファイア、アメシスト、エメラルド。それぞれ、三連まであります」



「……」

リリアンヌは、ちらりと隣に目を向けた。



「僕は、真珠だ。これはまだ見習いで、どの階級でもないということを指す」

ブライアンは、襟元の二連の真珠を見せるように身を寄せた。



「へぇぇ…文官の方も騎士様も皆、ここに石を付けているのですか?」



「あとは、一部の兵士も付けています。エメラルドまでですが」

ルイージが素早く付け加えた。



「全然気付かなかった…」


あとで、シャルとムロバンの襟元をこっそり見てみよう。



「外の二人なら、アメシスト一つだろうな」

ブライアンが、さらりと答えた。



「えっ」


思わず顔を上げた。



「彼らはまだ、騎士になりたてだろう。それなら、三等王国騎士のはずだ」



「さ、さんとう、王国騎士…?」



「ふっ…すまない、余計な話をしてしまったな」


戸惑うリリアンヌに、ブライアンが小さく苦笑を漏らした。



「いいえ…ええと…王国騎士って、騎士と違うのですか?」



「もちろん、一緒だ。そうだな…簡単に言うと、文官でいう中央官が王国騎士で、地方官が下級騎士のようなものだ」



「王都で働く騎士を、王国騎士と呼ぶのですね?」



「いや、王国騎士は地方にも派遣されるし、下級騎士が王都で登用されることもある。…説明が難しいな」



「リリアンヌ殿下、騎士になるためには、大きく分けて二通りの方法があるのです」


困るブライアンに、ルイージがそっと助け舟を出した。



「あなたのお兄様やブライアン殿下のように、王都の学院で長年修行を積み騎士となる者を、王国騎士と呼びます。

それに対し、地方にいる騎士のもとで修行を積んで騎士となった者を下級騎士と呼びます」



「なるほど…」


…なんとなく、理解した。



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