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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第三章/王城の日々
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大国の王太子④

リリアンヌ視点



「…すみません、お待たせしました」


扉が開き、ルイージが入ってきた。



「ブライアン殿下、ご足労いただきありがとうございます」



「…いいえ。こういう役でしたら、喜んで引き受けます」


ブライアンが立ち上がり、ソファの方へ進んでいった。


リリアンヌは急いで食事を終わらせ、ブライアンに続いた。




「…今、図書室の前で何があったか、護衛の方たちから報告を受けました」


リリアンヌが腰を下ろすなり、ルイージが口を開いた。



「えっ」



「今までは、時間が被らないから会うこともないだろうと油断していました。申し訳ありません、私のせいですね」



「い、いいえ…!」


何か、大ごとになっている気がする。



「申し訳ありませんが、明日からしばらくは図書室へ行くのを控えてください。読みたい本があれば、ここへ運ばせますから」



「あの…そんなに文官の方と会うことは、避けた方がいいことなのですか…?」


断りきれなかった、自分が悪い。


だけどまさか、文官全員がチャンのような人というわけではないだろう。



「今は特に、そうとしか言えませんね」



「…ルイージ宰相の部下なのに…?」



「…本当ですね。耳が痛い言葉です」

ルイージが、ふっと自虐的な笑みを浮かべた。



「…ごめんなさい。失礼なことを言いました」


やってしまった…。


でもルイージは、王城に出入りしている人たちは、調査済みと言っていたはずなのに。


それとは、また別の話なのだろうか。



「何も失礼なことなどありませんよ。…さて、時間も惜しい。さっそくですが、試していきますか」



「…はい」

リリアンヌは、ちらりと隣へ視線を向けた。



「指示してくれ。いつでもちからを使う」


ブライアンは、すぐに右手をリリアンヌの前に差し出した。




「ではまず、能力向上のちからから試しましょう。ブライアン殿下、加減の方は頼みます」



「能力向上なら…できるだけ抑えて試した方が良さそうですね」



「ええ…リリアンヌ殿下。相手のちからが向上するよう、念じてみてください」

ルイージはモノクルを押し上げながら、リリアンヌへ顔を向けた。



「違うようなら一度離して、また異なる言葉で念じていただけますか」



「…はい」


今はとにかく、集中だ。



しかも、能力向上のちからは一番可能性が高いと思っていたものだ。


もしこれが当たれば、ここで終わる。



「…これくらいか」


ブライアンは左手の人差し指を立てると、ぽっ…と指先に小さな光の球を作った。



「!」


現実のブライアンがちからを使っているところを、初めて見た。


こんなにも簡単に光を灯せるなんて、すごい。


一瞬、黄緑がかって見えたけど、今はもう黄混じりの白い光だけだ。



「リリアンヌ」



「はい、ごめんなさい」


差し出されたブライアンの右手を、そっと両手で包んだ。



ぼうっと見ている場合ではない。


こうしている間にも、ブライアンは体力を使っているのだから。



――ブライアンの光が、もっと溢れますように。



「……」


一度、ブライアンの手を離した。


違ったようだ。



それなら、今度は――


もう一度手を握り、もっと長い間、ちからを使えますようにと念じた。



しっくりこない。



光が増えますように、かな…


またブライアンの手を握り直して、念じた。



何も、変わらなかった。



「三回試したら、一度止めましょう」


ルイージの声に合わせ、ブライアンの指先から光が消えた。



「能力向上のちからは違うようですね。では次は、妨害の方を――」



「…あの、ルイージ宰相」



「はい、何でしょう」



「もう少し…能力向上のちからを試してみてもいいですか?」

リリアンヌは、おずおずと口を開いた。



「…何か感じたのですか?」


ルイージの目が、一瞬鋭くなった。



「そういうわけではないのですが…念じ方をいくつか変えて、もう少し試してみたいのです」


念じ方が少し違うだけでも、ちからは使えないのかもしれない。



“マドカ”は、スノウがいなくても白のちからで異形の存在(ゼノプーパ)を“弱体化”することができた。


スノウがいたから、異形の存在を消し去ることができた…



ちからの段階を上げている…?


ちからは、鍛えれば鍛えるほど強くなるから。



「いつでもいい」


ブライアンが、再び指先に光を灯した。



「…はい」


リリアンヌは、差し出された手をぎゅっと握った。


今度は、ちからの段階を意識して念じてみよう。



――光のちからの段階が、上がりますように。


光のちからを、鍛えたい。


光のちからを、強くしたい。



やはり、変化は起きない。



「…う~ん」


それなら、ちからに何かしらの性質を与えるようなものか…


ブライアンの指に光が灯っていることを確認し、再び心の中で念じた。



――光のちからに、スノウから貰ったちからが加わりますように。


ブライアン自身に、スノウから貰ったちからが宿りますように。



…違う。



――ブライアンのちからが、向上しますように。


ブライアン自身の体力が、向上しますように。


光のちからが、増大しますように。



すべて、違う。


あとは――




「ブライアン殿下。一度、ちからの使用を止めてください」



「…!」


ルイージの鋭い声に、はっと顔を上げた。



「…すまない。加減する方が、意外と体力を使うんだ」


ブライアンの額から、つつ…と汗が滴り落ちた。



「ごめんなさい…っ」


リリアンヌは慌ててハンカチを取り出し、ブライアンの手の上に置いた。



「ブライアン様、ごめんなさい…三回ずつと言われていたのに…」


また、やってしまった。


すぐ自分の世界に入って、周りのことに気を向けられなくなってしまう。



「…ありがとう。だが、これくらい平気だ」


ブライアンは小さく微笑み、ハンカチを優しく押し戻した。



「訓練の方が、よほど死にかけている」



「いいえ…すごく疲れていらっしゃるように見えます」


リリアンヌはハンカチを握った手を伸ばし、そっとブライアンの額の汗を拭った。



「本当に…ごめんなさい」



「…君は、いつもこんな必死に考えて試しているのか?」



「リリアンヌ殿下は、いつでもずっと真剣ですよ」


ブライアンの問いに、ルイージが静かに答えた。



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