大教主の思惑②
スワハマ視点
「ぐふふっ…ああ、彼女が欲しい」
「…お前は、リリアンヌ殿下が欲しいのだな?」
スワハマは、さりげなく尋ねた。
「ええ。彼女を護り、お傍で支えたい」
チャンが即答した。
「ですが、近づくことすら、陛下もルイージ宰相もお許しにならないでしょう」
「馬鹿だな、お前は。ルイージはともかく、陛下は、一切リリアンヌ殿下に関心を持っていないぞ」
スワハマは、はっと馬鹿にするように笑った。
「僕には、そうは見えませんでしたが。陛下は、“俺が使う”とおっしゃっていましたよ」
「あれは、すべて茶番だ。儂にリリアンヌ殿下をとられないためのな」
「…まさか、あなたもリリアンヌ殿下のことを欲しているのですか」
「気色悪いことを抜かすな。儂が欲しいのは、陛下の弱点だ」
「それなら、いいんです」
チャンは、あっさりと引き下がった。
「……」
こいつは、派閥争いに一切興味がない。
そこもまた使いやすい。
「はぁ…また会えないものか…登城していらっしゃるのなら、どこかで…ぐふふっ…」
チャンはぶつぶつと呟くと、恍惚とした表情で宙を見つめた。
「ロデオの娘か…」
スワハマはチャンを無視し、同じように自分の世界へ入った。
一昨日は、勢いのままに懐に引き込もうとしたが、
リリアンヌはどう使えるか。
レックスとロデオは、仲が悪い。
レックスが王座に就いた辺りから、それは顕著になった。
だがそれでも、レックスは弟を軍の頂点に置き、王都に残した。
仲が悪いと言っても、互いの派閥を持っているわけでもない。
もし今、レックスが何かの拍子に死んだら――
王座を継ぐのはブライアンではなく、ロデオだろう。
もしくは、ブライアンが成人するまでロデオが代理で政治を行うか…
それだけは、却下だ。
あの筋肉ばかりの男がその立場にいると考えるだけでも、頭が痛くなりそうだ。
それなら、その位置に立つのが自分である方が何百倍もいい。
ブライアンはまだ、どの派閥にも染まっていない。
手を付けるならブライアン本人が手っ取り早いが、
サイラスと同じように騎士の塔で暮らし、城にはほとんど帰ってこない。
修行のためと名目をつけているが、自分たちを近づかせないためのレックスの策だろう。
やり方が、実に忌々しい。
第二王子から第四王子はまだ幼く、城の南館から出てくることもほぼない。
やっと近づける可能性が出てきたのが、リリアンヌだ。
どう使えるか――
“精霊の加護を持った王弟の娘”というのは、なんとも使いやすそうな付加価値だ。
味方に引き込み、ブライアンと結婚でもさせるか。
従兄妹ならば問題はない。
だが、親がロデオというところが、ぞっとしない話だ。
味方にできないなら、少しでもレックスの王座が怪しくなるよう、一手担ってもらうか。
「…チャン。お前は、リリアンヌ殿下と二人きりになりたいか」
「り、リリアンヌ殿下と、二人きり…?」
チャンは酔ったような表情のまま、ゆっくりとスワハマへ顔を向けた。
「そんな至福の時間が、作れると…?」
「まあ、お前次第だな」
「なんでも協力しましょう」
チャンはすぐに頷いた。
「なんです。今度は、誰を連れてくればいいのです?」
「ふんっ…そんなことはしなくていい。もう、いい」
スワハマは、吐き捨てるように言った。
「協力してやるのは、儂の方だ」
この異常な男が、どこまで頭がおかしいかは分からない。
だが、やりようによっては、レックスの座を揺らせるかもしれない。
あの男が、目障りだ。
このスワハマを、政権の頂点から降ろしたことを後悔させてやりたい。
よい時期に目立ってくれたものだ。
精霊も、
リリアンヌ・エラドリオールも。
使ってやる。
“また”、宰相の座に戻るためなら――
王弟の娘だろうが、なんでも使ってやる。




