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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第三章/王城の日々
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大教主の思惑①

スワハマ視点



「いっ、いくらスワハマ大教主でも、言うことはできません…!」


正面に座る男は、まだ頑なに首を振り続けていた。



「分かっていないようだな、シリル・ビセット。お前には、言う以外の選択はない」


スワハマはソファに深く沈み込み、正面に座る男を睨めつけた。



「儂がこうして話で解決しようとしている間に決断した方が、お前のためだぞ」



「……」



「儂の貴重な時間を煩わすな。早く言え」



「……」



「…時にシリル。お前が三十を過ぎてから授かった、二人の娘は元気か」



「…!」


シリルの表情に、怯えが走った。



「上の子の婚約が、やっと決まったな。ウィンザーのところへ嫁ぐなど、大出世じゃないか」



「…なぜ、それを」



「下の子は、パルミア一族からの婚約の打診を渋っているのか。それは正解だ。あそこの長男は変わり者で、次男は癇癪持ちの豚だ」



「それはっ…誰にも言っていないはず…」


シリルの顔が、さらに青ざめた。



「シリル。儂の遠縁の息子を紹介してやろうか」

スワハマは、にぃっと笑みを浮かべた。



「手が早く、乱暴なところがあるがな…ああ、あと、今年で四十歳だ。

再々婚になるが、まあ、商才があり金もある。問題ないだろう」



「……」



「前妻はどちらも、階段から転落死したようだな。嫁いだ際には、階段に気を付けるよう、下の子に――」



「共有の類です…!」


シリルが、絞り出すような声で叫んだ。



「リリアンヌ殿下のちからは、共有の類のちから…!そう、鑑定が出ました」




「ほう…共有の類か。珍しいな」

スワハマは笑みを消し、静かに顎をさすった。



「何色だった。青か?紫か?」



「…白です」

シリルはぎゅっと目を瞑り、蚊の鳴くような声で答えた。



「白だと?それなら、白のちからではないか!」


それなら、話は早い。



「白のちからの光の色とは違います…青みがかった白ですので、共有の類で間違いありません」



「青みがかった白…知らぬ色のちからだな」



「…も、もういいでしょうか」



「お前は、今までその色を鑑定したことはあるか?」



「ありませんし、記録にも残っていませんでした」



「ふん…まあ、そんなものか」



「…本当に、これ以上のことは分かりません」



「ああ、そうだな」

スワハマは、興味を失ったようにシリルを手で追い払った。



「帰っていい。お前の下の子も、せいぜい良いところに嫁がせてやるんだな」



「…失礼します」


シリルは重い鞄を抱え、逃げるように応接の間から出ていった。



「…ふん」


たったこれだけの情報か。


わざわざ、シリルを大聖堂まで引っ張ってくるまでもなかったか。



いや――だが、共有の類のちからは何でも貴重だ。



「…おい、チャン」



「何でしょう」


スワハマの呼び掛けに、部屋の隅で茶を飲んでいた男が顔を上げた。



「共有の類のちからを、思いつく限り挙げろ」



「ええ、嫌ですよ。百はありますから」



「…代表的なところで言え」



「そうですねぇ…色が明かされていない共有の類でいうと…五感を共有するようなもの、記憶や意識を結ぶようなもの、それから相手の姿やちからを真似るようなもの」


チャンは茶をすすりながら、すらすらと候補を挙げていった。



「ああ、相手のちからを底上げするようなものもあり得そうですね」



「便利なものでは、何だ」



「便利なのは、やはり念じた場所へ移動できる転移のちからでしょう。

あとは、伝説として語られる千里眼のちからか」



「千里眼のちからは、パルミアが言っているだけで存在しないだろう」



「いいえ、確かに昔はいたんでしょう。いいですよねぇ、どこでも見通せるようなちから」

チャンは、にちゃぁ…と下卑た笑みを広げた。



「そうしたら毎日、いつでも、リリアンヌ殿下を僕が見守ってあげられる」



「……」

スワハマは、露骨に顔をしかめた。



「ぐふふ…ルイージ宰相も、僕を使ってくださればいいものを。そうしたら僕が、リリアンヌ殿下を手取足取り、じっくりと調べてさしあげるというのに」

チャンは、構わずに続けた。



「一昨日の、リリアンヌ殿下の勇ましい姿を見ましたか?陛下相手に、震えながらも、懸命に言葉を返していた。ぐふふっ…あんな美しい少女がこの世に存在するなんて、知らなかったなぁ」



「……」



「なぜ、陛下は彼女を責めたんでしょうね。お可哀想に…僕がお慰めしてあげたいくらいだ」



「…変態が」


気持ち悪い男だ。


特別なちからについて異様に詳しいのと、汚れ仕事を買って出るから、側に置いてやっているが。



「チャン、お前は、精霊のことはどうでもいいのか?特別なちからについて詳しいのは、精霊に興味があったからだと言っていただろう」



「それは、人の姿の精霊に興味があったからですよ」


チャンは壁際から移動すると、許可もなく正面のソファに腰掛けた。



「知っていますか?スワハマ大教主。精霊の中には、人の姿をした特別な精霊がいるんです」



「当然だろう。ここにも精霊王オーリアの像がある。側近の像もあるな」



「それだけではありません。あと何人か、絵だけが残されている文献を見たことがあるのです」


チャンは興奮するように、はぁ、はぁと荒い息遣いを漏らした。



「その中のひとりに、僕は一目惚れしたんです。それがまさしく、リリアンヌ殿下にそっくりでしてね…あと数年経って成長すれば、その精霊の姿そのものになってしまう」



「……」

スワハマは、さらに眉をひそめた。


どうすれば、ここまで気持ち悪くなれるのか。



「きっと彼女は、その精霊の生まれ変わりなんです。僕のために、この世に生まれて来てくださった」



だが――


この執着は、使える。



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