加護のちから④
リリアンヌ視点
「…本当は、三人以上で試すのが一番いいのです」
作業を終えたシリルが、軽く紙を整えた。
「第三者が見ていないと、気付かないちからもあります。
あとは攻撃の類か強化の類のちからを持った方がいらっしゃると、より試しやすいです」
「ああ…そうか。相手のちからを増強するようなものも、この系統か」
ルイージが、シリルから資料を受け取りながら呟いた。
「私が同席できれば一番いいのでしょうが…申し訳ありません、この後も仕事がありまして」
「いいえ、十分です。シリル先生、今日はこちらを優先していただき、大変助かりました」
「……」
やっぱり、優先してここに来てくれたらしい。
「いいえ。王族の方を鑑定させていただくほど光栄なことはございません」
シリルは立ち上がると、重たい鞄を持ち上げた。
「リリアンヌ殿下。私からも最後に、ひとつだけ」
「はい、何でしょうか」
「先ほどルイージ宰相もお話しておりましたが、まず、ご自身のちからの限界をしっかりと把握してください」
「…はい。何のちからか分かったら、ですね」
リリアンヌは慎重に返した。
「ちからは、想像よりずっと使うことができません」
「…?」
どういう意味だろう。
「長時間、または何度も使うことができない、ということです。私も、鑑定のちからは一日に三度ほどしか使えません」
「…四度使うと、どうなるのですか?」
「私はそもそも、三度以上使えません。ですからありがたいことに、体力を削ることはありません」
顔を強張らせるリリアンヌに、シリルが苦笑して答えた。
「ただ、多くの“特別なちからを持つ者”が、限界が分かるようにはなっていません。ご自身で気付くしかないのです」
「…分かりました」
まだ、どのちからの限界も分からない。
しかも加護を授かったのだから、また変わっているはずだ。
「それでは…私は、これで失礼させていただきます」
「シリル先生、ありがとうございました」
「どうぞ、お気を付けてお帰りください」
二人が見守る中、シリルが扉から出ていった。
「…さて、さっそくですが…この中で、二人でできそうなものを試してみましょうか」
ルイージは座り直すと、すぐにシリルから貰った資料へ目を落とした。
「あの…ルイージ宰相。私も一枚、見てもいいでしょうか」
「ええ、どうぞ」
「ありがとうございます」
リリアンヌは差し出された一枚に、さっと目を通した。
一枚の紙に、二十ほどのちからの名称と詳細が書かれている。
その中ですでに、十個はシリルのペンにより消されていた。
視覚共有のちから、聴覚共有のちから、記憶共有のちから…
この辺りは、名称でどんなちからなのか分かる。
模倣のちからは、相手のちからを真似するちから。
読心のちからは、相手の心を読むちから。
痛覚共有のちから、なんてものもある。
伝達のちからはどうやら光の色が違うみたいで、消されている。
この紙に書いてあるちからはどれも、スノウのものとは違いそうだ。
どのちからも、異形の存在を消せるようなものではない。
これはすべて違うと言えれば、絞り込みは早いのだろうけれど――
「…ん?」
ふと、ひとつの欄で視線を止めた。
――繋がるちから
詳細は不明
精霊王オーリアが持つちからのひとつとして有名
「…へぇ」
精霊王がそんなちからを持っているなんて、知らなかった。
繋がるちからって…何だろう。
「何か気になるものでもありましたか?」
「あっ…いいえ、ごめんなさい」
リリアンヌは、はっと顔を上げた。
「シリル先生のおっしゃる通り、確かに三人以上で試した方が良さそうなものが多くありますね」
ルイージは、「どうぞ」と他の資料もリリアンヌへ手渡した。
「能力を向上させるちからや、阻害するちからを試す場合は、攻撃か強化の類のちからを持つ協力者が必要だな…」
「あの…ルイージ宰相のちからは公にされていらっしゃらないのですか?」
ふと、疑問が湧いた。
「…なぜ、私が特別なちからを持つ者だと思うのですか?」
ルイージの声が、わずかに鋭くなった。
「まだお若いのに宰相ということは、優秀なちからをお持ちなのかなと思って…」
リリアンヌは言いながら、どんどん声を小さくした。
「ごめんなさい…勝手な思い込みでした」
それに、失礼だ。
まるで、“特別なちからを持つ者”でなければ宰相になれないような言い方をしてしまった。
「まだお若い、ですか」
ルイージは、ははっ…と笑みをこぼした。
「こう見えて、あなたの御父上より年上なのですけれどね」
「えっ…あ、そうなのですね」
「確かに私は、“特別なちからを持つ者”です。ですが、攻撃の類でも強化の類でもありません」
「……」
それならば、共有の類か操る類のちからだ。
ということは…ちからを隠している。




