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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第三章/王城の日々
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ぎこちないはじまり⑥

リリアンヌ視点



「すまない、待たせたな」



「あれ…?今、何時ですか?」

リリアンヌは、きょとんと辺りを見渡した。


窓の外から見える陽は、もう落ちかけていた。



「もうすぐ六時になる。リリィ、おいで。帰ろう」



「お父様…どうしましょう。一旦、客間に戻ると約束していたの」


バルバラに遅くならないと思うと言ったのに、まさかもう六時だなんて。


それに、扉の前では案内の者も待たせてしまっている。



「誰とだ?」

ロデオはわずかに眉を寄せた。



「バルバラ…客間女中長とです」



「ああ…大丈夫だ。私が今寄ったから、戻らないと分かるだろう」



「ごめんなさい。こんなに時間が経っているなんて、気付きませんでした」

リリアンヌは聖典を両手で抱え、そっとソファから立ち上がった。



「スノウ、帰るよ」



「ホ~」


スノウは、まだ窓際にいた。



「リリィ、聖典を持って帰る気か?」



「え?いいえ、持って帰りません」



「なら、置いていけ」



「でも、元の場所に戻さないと」



「お前がそんなことをする必要はない」



「!」


ロデオは聖典を取り上げると、机の上へ無造作に置いた。



「行くぞ、リリィ」

そう言って、すぐにリリアンヌを抱え上げた。



「あ…お、お父様」


まさか、また抱えられたまま家まで帰るのだろうか。



「お前たちも、ここまででいい」



「はっ!」


フーリンとリックは、同時にロデオへ声を返した。



「あ…フーリン、リック…!」

リリアンヌは、ロデオの肩越しに顔を覗かせた。



「今日は、ありがとうございました!また、よろしくお願いします」



「……」


フーリンとリックは何も言わないまま、階段を下りていく二人に敬礼を向けた。



図書室の扉の前には、先ほどの使用人はもういなかった。


礼を、言いそびれてしまった。



「…まさか、お前は今日一日、ずっとその調子だったのか?」


ロデオは図書室を後にしながら、呆れるように尋ねた。



「その調子って、何ですか?」



「屋敷にいる時のように、使用人や護衛たちに話しかけていないな?」



「……」


話しかけた。


それも、自分から何度も。



「それがお前のいいところでもあるが…だが、王族としての権威を示すことも必要だ」

ロデオは溜息混じりに続けた。



「…権威、ですか?」



「まだ習っていないか?王族の役割について」



「…いいえ。習いました」


王族は、国の象徴。


自分の立場を理解して、どれほど貴重な存在かを理解しろ。


そう、習った。



「城で突然ひとりきりにして、寂しい思いをさせていることは分かっている。

気付いてやれず、すまなかったな」



「…いいえ、寂しくありません。ルイージ宰相とも、たくさんお話しました」



「ルイージ以外の奴とは、会っていないな?」



「ええと…はい」


その中に、使用人や護衛は含まれていないのだろう。



「図書室のことは、ルイージから聞いたのか?」



「はい、許可をくださいました。あの…勝手に客間を出てしまい、申し訳ありませんでした」



「いや、図書室ならいい。だが、それ以上北館の奥には入るなよ」



「…高官様や文官様がいらっしゃるからですか?」

リリアンヌはさりげなく尋ねた。



「あいつらに、様など付けるな」

ロデオは、露骨に苦い顔を浮かべた。



「ったく…あいつらのせいで、今日は仕事にならなかった」



「何かあったのですか?」



「いや…こっちの話だ」


短く答えると、ロデオはリリアンヌを抱えたまま王城の入り口へ向かった。



外には、エラドリオール家の紋章が入った馬車が待っていた。


どうやら、今日は馬車で帰るようだ。



ロデオはそのまま乗り込み、リリアンヌを隣に座らせた。



「ルイージと、どんなことをした?」



「何もしていません。ただ、お話をしただけです」



「話だと?」



「はい。特別なちからについて、たくさん教えてくださいました」


まるで、授業を受けているようだった。



「まあ…それもそうか。そうだな、必要なことだ」



「あの…お父様、聞いてもいいでしょうか」



「なんだ?」



「エラドリオール家では…どなたか、特別なちからを持つ者(アニマソムニア)がいらっしゃるのでしょうか?」


ルイージは、王族には“特別なちからを持つ者”が生まれる可能性が高いと言っていた。


自分のことばかりで気にしたことがなかったけれど、家族はどうなのだろう。



「私とアヴェリーンは持っていない。サイラスは、“特別なちからを持つ者”だ」

ロデオは、あっさりと答えた。



「…!そうだったのですね」



「だが、これは公にしていない。屋敷でもアヴェリーン以外、ステファンしか知らない。侍女にも言うなよ?」



「それは、もちろんですが…」

リリアンヌは、わずかに身を乗り出した。



「…どんなちからか、聞いてもいいですか?」



「…すまないな。お前でも、具体的なことは教えてやれない」

ロデオは、少し困ったように笑った。



「強化の類のちからとだけ、言っておこう」



「へぇぇ…」


自身や物を強化するちから――


もしかして兄が持っているのも、跳躍のちからだったりするのだろうか。



「お前も、少し早いが鑑定士に見てもらうか」



「…えっ」


リリアンヌは、ぎくりと肩を強張らせた。



「お前のことだ。加護のちから以外にも、何かちからを持っているかもしれない」



「あ…ええと…」



「鑑定士は、数が少なくてな。王都住まいは、今はひとりしかいない」



「そ、それは、お忙しそうですね…」



「問題ない。お前の鑑定となれば、すぐにでも屋敷に来るだろう」

ロデオは、構わず続けた。



「さっそく明日、手配しておくからな」



「……」


どうしよう。



鑑定士に調べられたら――


白のちからを持っていることを、知られてしまう。



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