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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第三章/王城の日々
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ぎこちないはじまり⑤

リリアンヌ視点



膝の上に聖典を置き、そっと本を開いた。



――感謝を、精霊王オーリアに

この世はすべて、巡り合わせにてなる


あなたがいま人であることを、

精霊であることを感謝し、祈りなさい



一頁目は、たった数行の精霊王への祈りから始まっていた。


ぺらりと、頁をめくった。



――精霊を敬い、愛せ

慈しみ合い、ともに歩め


精霊を敬い、愛せ

あなたは人であり、また精霊なのだから

次の魂の安寧を願い、精霊王オーリアへ感謝を捧げなさい


隣人を敬い、愛せ

ひいてはそれが、あなたの未来に繋がるのだから

弱き者を助け、幸福を分け与えなさい


生涯、ひとりの者と契りを結べ

死がふたりを分かつまで、愛を誓い、添い遂げなさい



この章は、教えについて書かれているみたいだ。


同じような内容が、延々と続いている。


どこか、見覚えのある内容だ。


そこまで引っかかるようなところもない。



次の章では、世界の成り立ちについてまとめられていた。



――この世界は、精霊王オーリアによって創られた


精霊を引き連れ、

この地を支配していたふたつの悪魔を征伐し、安寧をもたらした


精霊王は、この地に四つの種族を生み出し、それぞれに特徴を与えた

人族に、知識を

エルフ族に、命を

獣人族に、力を

ドワーフ族に、技術を

四つの種族は互いに協力し助け合い、精霊と共生していた



教師が話していた内容と、すべて同じだ。


悪魔については、“物語”で一切出てこなかった。


二体ではなく、“ふたつ”と記されている。


人の形をしたものではないのだろうか。


これ以上書かれていないから、分からない。



その次の章は、精霊や加護について触れられている。



――精霊は過去、人々の前に姿を現していた


その体は光り、特別なちからをひとつ以上扱えた

精霊は人々を慈しみ、加護を授けた


加護は、望んで手に入るものではない

奪い傷つけることでは、得られない



良かった…


奪い傷つけてはいけないと、ちゃんと書かれている。



さらに次の章は、聖樹と精霊の関係についてだ。


聖樹は、この世界ができた時から存在したとされている。



――聖樹は、


生命を与える

精霊を助ける

同調する



まったく知らないことだけれど、やっぱり予想通りだ。


聖樹には、精霊を助ける役割があるようだ。



後半は、偉人の伝記だった。


初代セスランディア王が、セスラ大陸を平定するまで。


四代目オットー英雄王の軌跡。


聖騎士ベンドレー・クライアンの武勇伝――



これらも、本当のことかは分からない。


だけど少なくとも、初代セスランディア王についてはまるきりの嘘だ。



百の加護を使い、この地を平和へ導いた…


本当は、そのちからを使って恐怖で支配したというのに。


加護を授けた精霊と共に、安らかに息を引き取った…


ちからを使いすぎて、初代セスランディア王は命を終えたというのに。



スワハマが言っていたのは、この辺りのことだろう。


どの話も、いかに精霊の加護が素晴らしいか強調している。


それに、戦争の話ばかりだ。



ずっと――


戦争のために、加護が使われ続けてきた。




気付けば、分厚い聖典を読み終えていた。


最初の頁に戻して、今度はゆっくりと読み進めた。



異形の存在(ゼノプーパ)について、一切触れられていない。


瘴気のことも、どこにも書いていない。


精霊狩りが行われてきたことも、ない。



それらの原因が、初代セスランディア王にあるからだろうか。


瘴気について記せば、王の暴君が知られてしまうから。



それは…そうだろう。


自国の王のことを、普通は悪く書かない。


しかも、セスランディア王国を創った特別な王だ。



けれど――


瘴気も異形の存在も、確かにこの世にあるのに。



なぜ、瘴気が発生するようになったのか。


瘴気は、何なのか。


誰も気にならないのだろうか。



聖典に書かれている内容も、何か引っかかる。


宗教の教えとしては、ちゃんとした内容なのかもしれない。


精霊や聖樹の存在だって、記されている。



だけど…何か、変だ。


なんだろう…


何が気になるのだろう…



……




……




……



「ここでも、勉強か?」



「!」


聖典に影がかかり、ぱっと顔を上げた。



「いつか、お前自身が本になってしまいそうだな」


朝と同じ格好をした父が、頭の上に現れた。



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