ぎこちないはじまり④
リリアンヌ視点
「うわぁ…」
足を踏み入れた瞬間――思わず、声が漏れた。
なんて幻想的な図書室なのだろう。
広く、天井は見上げるほど高い。
大きな窓には青みがかった硝子が嵌め込まれ、そこから光が差し込んでいた。
壁を埋め尽くす書架は天井近くまで伸び、どの棚にも隙間なく本が詰め込まれている。
室内の中央は大きな吹き抜けになっていて、勉強机が並んでいる。
その奥には螺旋階段があり、上にも書物が置かれていそうだ。
「どんな本をお探しでしょうか?」
どうやらここまで連れてきてくれた使用人が、そのまま図書室も案内してくれるようだ。
「ええと…」
何も考えないまま来てしまった。
どうしようか…
「…オーリア教」
思いつくままに、ぽつりと呟いた。
「オーリア教…?」
使用人が小さく首を傾げた。
「オーリア教に関する書物って、あるかな?」
昨日、玉座の間でのスワハマの反応――
『ことの重大さが分かっていないようですな。精霊、ですぞ!』
『そのちからの素晴らしさは、誰もが習ってきたはずだ』
宗教の名前からして、祀っているのは精霊王オーリアで間違いない。
第二城壁内に大聖堂があるくらいなのだから、オーリア教は国教なのだろう。
一体、精霊のちからについてどう描かれているのか。
どこまでが、本当のことなのか。
まずそこを知らなければ、ルイージにも下手な質問はできない。
「それでしたら…聖典でしょうか」
使用人が、静かに口を開いた。
「オーリア教の教えについて書かれているものです」
「!それで、お願いします」
リリアンヌはすぐに頷いた。
「こちらへどうぞ」
使用人はそう言うと、螺旋階段の横にある本棚へと向かっていった。
「こちらは、オーリア教や精霊に関する書物が置かれた棚になります。聖典は、この列のものでございます」
「えっ…何冊もあるの?続きものということ?」
示された数冊は、すべて厚みも色も違うものだった。
「いいえ。すべて、聖典です。何度か編纂されていまして、古いものから年代順で置かれています」
「そうなのね…」
わずかに逡巡した後、一番新しい聖典を手に取った。
まずは、今のことを知りたい。
「私は扉の前におりますので、また違う本をお求めの場合は、お声掛けください」
使用人は一礼すると、扉の前へと戻っていった。
「…よし」
リリアンヌは小さく意気込み、中央に置かれている勉強机へ向かった。
案内の者を待たせないよう、できる限り早めに読み終えてしまおう。
「…あ」
勉強机の前で、ぴたりと足を止めた。
どうしよう…椅子が高い。
さすがに、薬療院の時みたいに両手をついてよじ登るわけにもいかない。
ニアがいたら抱えてくれたのだろうけれど、騎士に頼むわけにもいかない。
「あの…リリアンヌ殿下」
「はいっ…」
リリアンヌは、びくりと振り返った。
まさか、抱えてくれるというのだろうか。
「…上の階に、低めのソファがあります」
フーリンが、ちらりと螺旋階段の方へ視線を向けた。
「えっ、そうなの?」
てっきり、本が置かれているだけだと思っていた。
「そちらの方で読まれてはいかがでしょうか」
「そうします…!ありがとう、フーリン」
リリアンヌは礼を言うと、すぐに螺旋階段へ向かった。
ゆるやかな階段を、聖典を抱えたまま上がっていった。
「すごい…!」
上の階は、さらに幻想的だった。
大きな窓が壁の多くを占めていて、一階よりも光が差し込んでいる。
中央に低い机が置かれ、その周りを囲むように、ふかふかなソファが並んでいる。
まるで、子供向けに整えられた読書室のようだ。
「こんな良い場所を教えてくれて、ありがとう!」
リリアンヌは振り返り、にこっと笑った。
「いえ…気に入っていただけたなら、何よりです」
フーリンの表情が、少しだけ柔らかくなった気がした。
「ホ~」
スノウが肩から離れ、窓の縁に止まった。
「何か見えるの?」
「ホ~」
「暖かいから、そこがいいんだね。寝ててもいいよ」
スノウに返しながら、柔らかいソファにゆっくり腰掛けた。
階段の手前では、フーリンとリックが静かに控えていた。
どうやら、そこが定位置のようだ。




