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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第三章/王城の日々
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ぎこちないはじまり③

リリアンヌ視点



「…まもなく、案内の者がここへ参ります」


リックが、ぴくりと扉へ視線を向けた。



「えっ…扉の向こうのことが分かるの?」


私には、まだ何も聞こえない。



「…足音がしましたから」

リックが短く答えた。



「足音で、誰か分かるの?」



「ええ…あの歩き方は、先ほどの使用人たちでも、巡回する近衛隊兵のものでもありません」



「すごい…!」

リリアンヌは、きらきらと目を輝かせた。



「私もできるかな」


鍛えれば、足音だけで、歩き方の違いも分かるようになるだろうか。



「できるようになられたら…それは困ります」

リックは目を瞬きながら、真顔のまま返した。



「我々の仕事がなくなってしまいます」



「え?…あはっ…そんなことないでしょう」

リリアンヌは手で口元を隠し、くすっと笑った。



「失礼します。図書室への案内を任されたものですが」


コンコン、と扉がノックされた。



「スノウ、行くよ」



「ホ~」


スノウはソファから離れると、リリアンヌの肩へそっと収まった。



「どうぞ、ご案内いたします」


男性の使用人が、廊下を先に進んでいった。



「図書室は、本館にあるのですか?」

リリアンヌは小走りで、先を歩く使用人の隣に並んだ。



「え…あ、いいえ。図書室は、北館にあります」

使用人はわずかに距離を取ると、前を見たまま答えた。



「王城には、北館と南館があるのでしょう?」



「本館に直接繋がっているのは北館と南館のみですが、王城が第一城壁内を指すのならば、もっと多くの建物があります」



「第一城壁内にどんな建物があるか、聞いてもいいかな?」



「…大きなところでいうと、文官塔と軍事塔でしょうか」


使用人はちらりとリリアンヌへ視線を向けると、歩幅を合わせてゆっくり階段を下りた。



「北館には会議室や文書保管室、高官様の執務室がございます。

それに合わせ、北側には文官の方々が働いていらっしゃる文官塔がございます」



「だから、北館に図書室があるのね」



「はい。文書に関するものの多くは、北側にまとめられています。

逆に本館を挟んだ南側には、軍事に関わる場所が多くございます。

軍事塔をはじめとして、訓練場や、武器を収める保管庫などがございます」



「それらは、南館にはないの?」



「ええ、違います。南館は王家の方が住まわれる場所となりますので、騎士様といえども許可なく入ることはできません。南館の裏側にも、王家の方しか入ることのできない離れがございます」



「へぇ…近寄らないよう、気を付けます」



「南館へ繋がる通路や離れの前には必ず近衛隊の方が立っていますので、迷っても入ることはございません」

使用人は、ふっと笑みを浮かべて続けた。



「他にも使用人の塔や厩舎など、様々な建物が第一城壁内にございますが…申し訳ありませんが、詳しく説明することはできません」



「いいえ、十分です。教えてくれて、ありがとう」



「こちらが、北館に繋がる通路となります」



「!」


使用人の示す先へ、視線を向けた。



廊下の先に、重厚な仕切り扉が据えられている。


今は大きく開かれていて、その扉を挟むように近衛隊の兵たちが立っていた。


あそこが、本館と北館の境目なのだろう。



手前側の近衛隊が、最敬礼で出迎えた。


リリアンヌは使用人から一歩下がり、兵たちに会釈して通路を進んだ。



「人と、こんなにすれ違わないんだ…」


まだ、当番の近衛隊にしか出会っていない。


屋敷ではどこでも使用人たちがいるから、なんだか不思議だ。



「今は昼の時間帯ですので、文官の方も、それぞれ室内にいらっしゃるのだと思います」

使用人が、前を歩きながらそっと答えた。



「文官の方々は、よく王城に出入りするの?」



「本館に繋がるこの通路を使うことはほとんどありませんが、北館の中では多くの文官の方々が行き来しております」



「へぇ…」



「図書室は、この渡り廊下の先です」


通路が終わるところで、使用人は右手に伸びる細い渡り廊下を進んでいった。


片側には壁がなく、小さな中庭が望めた。



「この通路を使う方は、ほとんどいらっしゃいません。この道でしたら、文官の方と出会うこともないでしょう」



「…出会わない方がいいの?」

リリアンヌはそっと尋ねた。


まるで、文官と出会うのが良くないことのようだ。



「…大変申し訳ありません。余計なことを申し上げました」

使用人は気まずそうに口を閉じると、ゆっくりと足を止めた。



「こちらが図書室になります」


渡り廊下の先にある重そうな扉を、ぎぃぃ、と押し開けた。



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