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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第三章/王城の日々
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ぎこちないはじまり②

リリアンヌ視点



「ご昼食の件は、かしこまりました」

バルバラが、小さく頷いた。



「リリアンヌ殿下、他にも何かご要望はございますか?」



「あ…この後は移動するから、紅茶は淹れなくて大丈夫です」



「移動ですか?」


茶器を持っていた使用人が、手を止めた。



「ええ。図書室に行きたいの」



「そうでしたか。図書室の場所はご存知でしょうか?」

再びバルバラが尋ねた。



「いいえ…ごめんなさい、全然分からなくて」


場所をルイージに聞き忘れてしまった。



「何も問題ございませんよ。私が案内の者を呼んで参りますので、少しお待ちいただけますか」



「分かりました。ありがとう」



「図書室には、どれくらい滞在されるご予定でしょうか」



「どうだろう…そこまで遅くはならないと思います」



「それでは、こちらの客間でリリアンヌ殿下のお戻りをお待ちしておりますね」



「お手数をおかけします…」



「ですから、何もお気にならさず結構ですよ」

バルバラは小さく微笑むと、ちらりと使用人たちに目を向けた。


すべての食器が、すでに台車に収められていた。



「我々は一度、退出させていただきます」

丁寧に一礼し、まっすぐ扉へ向かっていった。


台車を押す使用人たちがその後に続き、客間から出ていった。



扉が閉じると同時に、リリアンヌは席を立って扉へ向かった。



「…?」

騎士のひとりが、不思議そうに扉の把手へ手を伸ばした。



「あの、騎士様」



「!」


呼び掛けに、二人の騎士が同時に振り返った。



「今日は護衛をしていただき、ありがとうございます」

リリアンヌは二人に向かい、丁寧にお辞儀した。



「お二人の名前をお伺いしてもいいでしょうか?」



「我々の…名前ですか?」



「…はい」


二人とも、なぜか驚いている。



「…失礼しました。私は、フーリンと申します」


把手から手を離した騎士が、こちらへ体を向けた。


明るい灰白色の髪を、短く刈り上げている。


かなり逞しいけれど、まだ若く見えた。



「フーリン様」



「敬称は不要です。どうぞ、フーリンとお呼びください」



「私は、リックと申します」


もうひとりの騎士が、小さく一礼した。


こちらの人も、若い。


赤毛混じりの茶髪を、後ろでひとつに結んでいる。



「フーリン、リック。今日は、私を護衛していただき、ありがとうございます」



「そのように礼を言われるようなことはしていません」

フーリンが素早く答えた。



「でも…この後も私は図書室に行くだけなので、二人をお待たせしてしまいます」



「敬語も不要です。それが我々の仕事ですから」



「…あまり話しかけない方がいいのかな?」



「いいえ、そういうわけではありませんが…」


フーリンは、わずかに眉を下げた。



「…申し訳ありません。こういう時に、どう答えればいいか分からず…」



「護衛の仕事は、よくあるのでしょうか?」



「……」


リリアンヌの問いに、フーリンとリックがそっと目を合わせた。



「あの…変なことを聞いてしまって、ごめんなさい」


明らかに、困らせてしまっている。



「…“護衛”という仕事は、我々は初めてです」


リックが顔を向け、小さな声で答えた。



「えっ…?でも、昨日も大広間で護衛しているのを見ました」

リリアンヌは、きょとんと首を傾げた。



庭園には真紅の軍服の近衛隊がいて、


大広間には、黒い軍服の国王直属騎士団がいたはずだ。



「それに、玉座の間にもいらっしゃいました」



「どちらも、王家の方がいらっしゃる場所を護り固める警固の仕事です」

再びリックが答えた。



「じゃあ、パレードで町に王家の方が行く場合は?それは護衛と言わないの?」



「それは、警戒し護る、警護です」



「…なるほど」


どれも同じような気がするけれど、


きっと、騎士たちにとっては護り方が大きく違うのだろう。



「王城では、誰かを護衛することはないの?」



「常に護衛をつけているのは、陛下だけです」



「えっ」



「エドガー団長とアランフォース副団長が、普段その役についています」

リックが淡々と続けた。



「……」


アランフォースが、国王の護衛だなんて。


…知らなかった。



「…初めての護衛とはいえ、油断するつもりはありません」

フーリンが、そっと口を開いた。



「ご不安かもしれませんが、殿下の安全は必ず護りますので心配なさらないでください」



「!?い、いいえ…!逆です」

リリアンヌは、慌てて首を振った。



「…逆?」



「その…私のためだけに、騎士様の時間を使うことが申し訳ないなって」


正直に白状した。



「だって、ただ食事をして、図書室で本を読むだけなのに…」


大勢の客を招く時なら、まだ分かるけれど、


あの最強集団の騎士が、二人も私についてくれるなんて。



「…警固も同じです」

フーリンが、再び静かに切り出した。



「宴や茶会でも、ただ誰かが話しているのを見ているだけです」



「ええ…?大勢の人たちが訪れるから、違うでしょう?」



「変わりません。周囲を警戒しているのは、今も同じです」



「私しかいないのに?」



「今この瞬間も、窓から侵入者が現れるかもしれませんから」



「…え」


フーリンの視線に合わせ、慌てて振り返った。


ソファの背もたれで、スノウが眠そうにしているだけだった。



「…申し訳ありません、例えばの話です。それに警戒するのは我々の役目ですので、殿下はどうか普段通りになさってください」



「…ありがとう。とても心強いです」


窓から侵入者が現れるなんて、考えたこともなかった。


窓から、飛び降りることはあっても。



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