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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第三章/王城の日々
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ぎこちないはじまり①

リリアンヌ視点



「ではリリアンヌ殿下、私は失礼させていただきます」


ルイージが扉の前で一礼し、部屋から出ていった。


入れ違いに、黒い軍服を着た者たちが二人、客間に入ってきた。



「…!」


国王直(フィデリス)属騎士団(グラディウス)の騎士たちだ。


騎士二人は扉の左右に立つと、素早く室内へ目を向けた。



「失礼します」


今度は、料理の載った台車を押す使用人たちが入ってきた。


昨日も客間で見かけた使用人たちだ。



「リリアンヌ殿下、恐れ入りますが、テーブルの方へご移動いただけますか」



「…あ、はい」


一番年かさの女性が、リリアンヌを食卓用テーブルへ案内した。


座ると同時に、目の前に次々と料理が置かれていった。



「あの…私は、こんなに食べられません」



「えっ…あ」


料理を並べる使用人が、はっと顔を上げた。



「…どうぞ、この中でリリアンヌ殿下のお好きなものだけを召し上がってください」



「…分かりました」


残った料理は、どこへ行くのだろう。


せめて、誰かが食べてくれればいいのだけれど。



「ホ~」



「…あ」


スノウが肩から離れ、ソファの背へ向かっていった。



「…!」


騎士も使用人も、一斉に精霊へ目を向けた。



「…ただ休んでいるだけなの。攻撃しないから、大丈夫です」


スノウは、ずっと機嫌が良い。


ここにいる誰も警戒していない。



「…失礼しました。どうぞ、ごゆっくり召し上がってください」


使用人たちが台車を引いて、壁際まで退いた。


騎士や使用人に見守られる中、リリアンヌはひとり食事についた。



本当に…すごい量だ。


スープが、二種類もある。


チキンに、パイ包み、生ハムにチーズ。


ふわふわのパンが、四種類も並んでいる。


その横には、果物、タルトの洋菓子と、さらにクリームを挟んだ焼き菓子まである。


グラスが三つ並び、水と葡萄の果汁と牛乳が、それぞれに注がれていた。


どれも美味しいけれど――



「……」


とても、気まずい。


全員が壁際に立ち、自分が食べ進めるのを見ている気がする。


スプーンを置く音ひとつですら、やけに響いて聞こえた。


屋敷でもひとりで食事することはあるけれど、こんな気を張ることはなかったはずだ。



並べられた食事を半分食べたところで、そっと食器を置いた。



「ええと…食べ終わりました」

リリアンヌは座ったまま、おずおずと振り返った。



「!」


声を掛けられた使用人たちが、さっと台車をテーブルまで進めた。



「…リリアンヌ殿下。ひとつ、よろしいでしょうか」


年かさの使用人が、静かにリリアンヌの横に立った。



「はい、なんでしょうか」


昨日も声を掛けてくれた人だ。


他の人たちとは、服装も少し違う。



「侍女の方は、連れてきていらっしゃらないのでしょうか」



「ええ、連れてきていません。私がひとりで登城すると、お父様にお願いしたの」

リリアンヌはすぐに答えた。



「それはまた…なぜでしょう」

使用人は、不思議そうに首を傾げた。



「ええと…」


これ以上、ニアを巻き込みたくないからだ。


父には、話を聞かれたくないからひとりで行きたいと我儘を言った。


渋っていたけれど、護衛をつけるならと最終的には許可をくれた。


これを、どう伝えたものか…



「…差し出がましい真似を、失礼しました」



「あっ…いいえ…!そ、その方が気楽だと思ったから…っ」


しまった。


黙っていたことで、気を遣わせてしまった。



「…気楽、ですか」



「自邸でも、ひとりの時間は多かったの」


一年半前までは、だけれど。



「…それでは、我々のせいなのでしょうね」



「えっ…何がでしょうか?」



「リリアンヌ殿下。我々への気遣いは、一切無用です」

年かさの女性は、きびきびと言った。



「準備も片付けもこちらで判断いたしますので、どうか、もっとおくつろぎください」



「…邪魔してしまって、ごめんなさい」

リリアンヌは、しゅんと眉を下げた。



「いいえ、そういうことではありません。ご自邸で過ごされる時と、同じようになさってほしいということです」



「自邸では、もっとみんなに話しかけているの…」



「それなら、遠慮せず話しかけていただいて結構です」

使用人は、ふっと微かに笑みを浮かべた。



「ありがとうございます。ええと…」



「申し遅れました。私は、客間女中長を務めておりますバルバラと申します。どうぞ、バルバラとお呼びください」


バルバラはそう言って、丁寧にお辞儀した。



「いろいろと、ありがとうございます」


まさか、女中長が直々に料理を運んでくれていたとは。



「バルバラ、さっそくお願いしたいことがあるのだけれど」



「なんでしょうか」



「恐らく、明日も私は登城することになります」



「…ええ。しばらく、こちらの部屋へお越しになられると伺っております」

少し間を置いて、バルバラは小さく頷いた。



「昼食のことも、決まっているのでしょうか?」



「はい。何か苦手な食材でもありましたでしょうか」



「いいえっ…そうではなくて、もっと簡単なものでお願いしたいの」

リリアンヌは、ふるりと首を振った。



「例えば、具を挟んだパンとか、スープとか…」



「軽食ということでしょうか?」



「そう…!ひとつのお盆に載るようなものを、お願いできないかな」


さすがに、毎日こういう料理が出るのは申し訳がない。


準備も大変だし、今も半分近く残してしまった。



「……」



「…もし変更が大変なら、今まで通りで大丈夫です。ごめんなさい」


困らせてしまっただろうか。


黙ってしまった。



「!いいえ…申し訳ありません、驚きのあまり、返す言葉が遅れました」

バルバラが、はっと口を開いた。



「…変なお願いだからでしょうか?」


増やしてほしいではなく、減らしてほしいと言われるのは珍しいのだろうか。



「違います。同じような要望をされる方のことを、思い出していただけです」



「へぇ…お客様でいらしたのですか?」



「いいえ、王城に暮らしていらっしゃる方です」



「えっ、そうなの?」


さすがに、王家の人ではないだろう。


王家以外で、王城に暮らしている人がいるのだろうか。



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