登城のはじまり④
リリアンヌ視点
「リリアンヌ殿下、今日はここまでにしておきましょうか。もう、十二時です」
ひと区切りついたところで、ルイージは両手をぽんっと膝の上に置いた。
「えっ、もう?」
九時に、この部屋に来たはずなのに。
「ええ、私も驚きました。あなたとの時間は、あっという間に過ぎてしまいますね」
「ルイージ宰相、貴重なお時間をいただきましたこと、感謝申し上げます」
リリアンヌはソファから立ち上がり、その場で丁寧にお辞儀した。
「大変、勉強になりました。本当にありがとうございました」
調べられるどころか、授業のようにいろいろと教えてくれた。
しかも、国一番の重職者直々にだ。
「…ロデオの気持ちが分かる気がするな」
ルイージがぽつりと呟いた。
「え…?ごめんなさい、何とおっしゃったのですか?」
「いえ、なんでもありません。リリアンヌ殿下、昼食はこちらへ準備させますので、ゆっくりと召し上がってください」
「あの…午後は何をすればいいのでしょうか」
ルイージとの話し合いが午前で、昼食を王城で食べるということは、
この後も誰かと話をするのだろうか。
「いいえ。特には、何も」
「えっ」
「ですから、本来はここでご帰宅いただいて結構なのですが」
ルイージは、ふっと苦笑を漏らした。
「あなたの御父上が、ご自身で迎えに来ると譲らないものでして。申し訳ございませんが、このまま夕方まで王城で過ごしてもらいます」
「はい、分かりました」
リリアンヌは、素直に頷いた。
「できればこのまま客間でお待ちいただきたいのですが、どこか行きたいところはありますか?」
「王城で…ですか?」
客間と庭園と玉座の間以外、行ったことがない。
他にどんな所があるのかも知らない。
「そうですね…リリアンヌ殿下が行ける場所は、庭園か、温室か、図書室か…」
「…!図書室に行ってもいいのですか…!?」
リリアンヌの目が、一気に輝いた。
「…ええ。護衛をつけることになりますが、構いません」
「では、昼食後に図書室へ行ってきます」
王城の図書室なら、エラドリオール邸よりも多くの書物があるはずだ。
もっと多くの知識を得られる。
「本当に…あなたは、勉強熱心ですね」
「えっ?」
「それに理解力が高く、大変聡い。想像以上です」
ルイージは感心するように、まじまじとリリアンヌを見つめた。
「でも…質問ばかりしてしまいました」
リリアンヌは、気まずそうに目を伏せた。
「それは、まだ習っていないことを尋ねただけでしょう。私は今日、ほとんど言い回しに気を遣わなかった。殿下が八歳だということを、すっかり忘れていました」
「あ…ええと」
「幼馴染みに…よく似ています」
「…幼馴染み、ですか?」
「ええ。彼もまた、幼い頃から頭の回転が早く、誰よりも賢かった」
ルイージはそう言うと、ゆっくりとソファから立ち上がった。
「まあ…性格は、まったく似ていないようですが」
「…?」
その幼馴染みは、私でも知っている人なのだろうか。




