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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第三章/王城の日々
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登城のはじまり①

リリアンヌ視点



「はぁ、なるほど…それではリリアンヌ殿下は、精霊の考えていることが分かるのですね」


正面に座る男は、じっと肩に目を向けていた。



「はっきりとは分かりません。こんなことを望んでいるのだろうなと、漠然と理解できるだけです」

リリアンヌは、正直に答えた。



「その現象は、加護を授かってからとおっしゃっていましたね」



「はい。加護を授かった瞬間から、スノウと繋がりを感じるようになりました」



「本当に、不思議ですね…」

男は、くいっとモノクルを押し上げた。



「加護とは一体、どういう仕組みなのか…」



「…あの、ルイージ宰相」

リリアンヌは、正面に座る男の名を慎重に呼んだ。



「どうしました?」



「この後…私は、どこかに連れて行かれるのでしょうか?」



「え?いいえ、今日は私と話していただくだけです」



「えっ…あ…そうなのですね」



「ああ…申し訳ありません。先に、その話をするべきでしたね」


ルイージはスノウから目を離すと、ソファの上で姿勢を正した。



「これからリリアンヌ殿下には、私と話をしながら、少しずつ加護のちからについて解き明かしていただきます」



「…話をするだけですか?」



「そうですね…まずは、午前の時間を使って私と話をしていただきます」

ルイージは、ふっと苦笑いをこぼした。



「こんな怪しげな男と二人きりで不安かとは思いますが、何卒お付き合いください」



「い、いいえっ…」

リリアンヌは、小さく首を振った。



「その…貴重なお時間をいただいてしまって、申し訳ありません」



「リリアンヌ殿下…どうか、気を遣わないでください。思うように話をしていただいて結構ですから」



「……」


そんなわけにはいかない。


相手は、宰相なのだから。



だけど…正直、拍子抜けだ。



精霊の加護を授かった、翌日――


一体、どんな調べ方をされるのだろう、


どんな人たちに問いただされるのだろう、と考えていたのに。



ただ、宰相と二人きりで穏やかに話をしているだけだった。



「話を戻しましょう。リリアンヌ殿下、何かちからを得た感覚はあるのでしょうか?」



「…いいえ。何も感じません」

間を置いて、リリアンヌは首を振った。



「加護を授かると、その精霊が持つちからを使うことができると言われています。ですから、リリアンヌ殿下は何かしらちからを得てはいるのですが…」



「……」


ルイージの言葉は――半分、合っている。



精霊の加護を授かると、


“自分が持っているちからの底上げ”と、“精霊が持っているちから”を使うことができる。



スノウがどんなちからを持っているのかは、“物語”ではっきり描かれていない。


昨日スノウが放った火花による反撃は、ちからとは別ものだ。



“物語”でマドカが異形の存在(ゼノプーパ)の大群を消し去ったのは、スノウのちからによるものだった。


スノウが消えた後は、もう異形の存在を消し去ることはできなくなった。



けれどその後も、マドカは白のちからで異形の存在を“弱体化”することができた。


どちらも、異形の存在に働きかけるようなちからだ。


白のちからとスノウの持つちからは、似たものなのかもしれない。



これを、ルイージに説明することは難しい…


白の使い手であることを隠しているし、異形の存在の名を出していいのかも分からない。



それに…スノウのちからは、できる限り使いたくない。


ちからを使いすぎると、精霊は消えてしまう――



「…ごめんなさい。何も分からないです」


だから、こう答えるしかない。



「謝らないでください。我々も、何も分からないのですから」

ルイージが穏やかに言った。



「一緒に、ゆっくり探っていきましょう」



「…はい」


ルイージは、驚くほど優しい。



「リリアンヌ殿下は、特別なちからについて、どこまで習っていらっしゃるのでしょうか」



特別なちからを持つ者(アニマソムニア)という言葉は、習っています」

リリアンヌは、すぐに答えた。



「過去に加護を授かった者の子孫の中から、同じちからを使える者が生まれることがあるのですよね」



「ええ、その通りです。初代セスランディア王は、百近い加護を授かったと言われています。ですから、王族の血を引く者からは“特別なちからを持つ者”が生まれる可能性が高いのです」



「あ…なるほど」


もしかして、白のちからも跳躍のちからも、初代セスランディア王が持っていたちからのひとつなのだろうか。



「それでもやはり、時代の流れと共に、“特別なちからを持つ者”が生まれることは少なくなっています。精霊が見えなくなったとされる四百年前に比べたら、使えるちからも弱まりました」



「あの…ルイージ宰相、質問をしてもいいでしょうか」



「どうぞ、いくらでもしてください」



「なぜ、四百年前から精霊が見えなくなってしまったのでしょうか?」


理由は、知っている。


精霊狩りが続き、精霊が消えていってしまったから。



けれど教師は、長い年月を経てちからが弱まったからだと話していた。


まるで、精霊狩りなどなかったように。



「精霊自体のちからが弱まってしまったからと言われています」

ルイージは、あっさりと答えた。



「そう…ですか」


やっぱり、教師と同じ答えだ。



「精霊のちからが弱まった原因は、瘴気にあると言われています」



「…!」

リリアンヌは、ぴくりと顔を上げた。


それは、初耳だ。



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