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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第二章/“仲間”と精霊
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まだ誰も知らない真実①

リリアンヌ視点



「スノウ。ここが、私の部屋だよ」



「ホ~」



「ええと…精霊って眠るのかな。鳥と一緒なら、止まり木とかあった方がいいのかも」

リリアンヌは、きょろりと部屋を見渡した。



「とりあえず、窓辺に――あ」


スノウが、ぱたぱたと羽ばたいて肩から離れた。


そのまま、ベッドの枕の横にちょこんと止まった。



「そこでも大丈夫なの?」



「ホ~」



「それなら、一緒に寝られるね」



「ホ~」



「ふふっ…可愛い」

リリアンヌはベッドの端に座り、精霊をそっと撫でた。



「元気になってくれて、良かった」


本調子かどうかは分からないけれど、


少なくとも昼間よりは、光が強まっている。



「…ね、もう一度、白のちからを送ってもいい…?」



「ホ~!」


スノウは、嬉しそうに羽をばたつかせた。



「白のちからが、好きなのかな?」

リリアンヌはふふっと微笑むと、スノウを両手で持ち上げた。



なんて可愛いのだろう。


真っ白な柔らかい羽毛に、ほんのり青みを帯びた白い光に包まれている。


黒いつぶらな瞳で、こちらを見つめている。



――この子が、ずっと元気でいてくれますように。



リリアンヌは願いを込めて、スノウに白のちからを送った。



「ホ~…!」


スノウは手元から離れ、嬉しそうに部屋中を飛び回った。



「ふふっ…」


見ているだけで、心が癒される。



「お嬢様~、入りますよ~!」



「!」



「お望みのものをお持ちしました」


扉から、分厚い本を抱えたニアが入ってきた。



「ありがとう、ニア!」

リリアンヌは扉まで駆けると、嬉しそうに本を受け取った。



「なんにも書かれていない、ただの手記帳ですよ?」



「それで、いいの」


これで、日記を書ける。


これで、未来のことを整理できる。



「…ね、ニア」


リリアンヌは日記帳を机の上に置き、まっすぐニアに向き直った。



「今日は、本当にごめんなさい」



「!?お、お嬢様、駄目ですよぉっ…」



「たくさん、迷惑をかけました。申し訳ありませんでした」


頭を下げるだけでは、足りない。


ニアには、誰よりも迷惑をかけてしまった。



「…私が目を離したばかりに、お嬢様は怖い思いをされました」


悲しげな声が、ぽつりと落ちた。



「私は…侍女失格です」



「…!違う!」

リリアンヌは頭を上げ、強く首を振った。



「ニアは、最高の侍女だもの…!」



「…ステファン様から、伺いました」


ニアの目は、涙で潤んでいた。



「ご主人様が私を罰さないように、お嬢様が訴えかけてくださったと」



「もちろん…!だってニアは、何も悪くない」



「…私はまだ、お嬢様のお傍にいていいのでしょうか」



「ニアじゃなきゃ、嫌…!」



「!」



「私は、ニアがいい!」


リリアンヌは、飛び込むようにニアの腰元に抱きついた。



「お、お嬢様…こんなこと、私なんかに」



「私が、すべて悪かったの」


もっと早くスノウのことを思い出していれば、いくらでも方法はあった。


こんな大ごとにだって、ならなかったかもしれない。



「もう二度と、ニアを巻き込まない」


もう、誰かを巻き込むのは終わりだ。



「だから、お願い…傍にいてください」


こんなに自分を理解してくれる侍女は、他にいないのだから。




「…お嬢様だって、悪くないですよ」



「…えっ?」

リリアンヌは、ぱっとニアを見上げた。



「お嬢様にはきっと、不思議なちからがあるのでしょうね」


ニアは、優しい笑みを浮かべていた。



「お嬢様は、どうしても行くと譲らなかった。そうしたら、精霊様を見つけてしまったんです」



「……」



「何かに導かれたのかもしれませんねぇ」



「…そうかな」

リリアンヌは目を伏せ、そっとニアから体を離した。



「あの子が、精霊様ですね?」

ニアは気にせず、ベッドの方へ目を向けた。



「…あ、うん」


いつの間にか、スノウがベッドに戻っている。



「私が近寄っても大丈夫でしょうか?」



「うん。大丈夫だよ」



「わあ…本当に可愛らしい子ですね」


ニアはゆっくりとベッドに近づき、まじまじとスノウを見つめた。



「あ…精霊様に可愛らしい子なんて、失礼でしたでしょうか」



「ううん。スノウは、何も気にしてない」

リリアンヌは、くすっと笑って答えた。



「スノウ様、ですか。はぁ…可愛くて、賢そうで…まるでお嬢様のようです」



「…ありがとう」



「寝床はどうしましょう?鳥籠を準備した方がいいのでしょうか」



「う~ん…とりあえず、大丈夫かな。夜も、一緒にベッドで寝るみたい」



「そうなのですか?本当に、良い子ですね」



「うん…!スノウは、良い子なの」

リリアンヌは、声を弾ませて頷いた。


スノウ自身に興味を持ってくれたのは、ニアが初めてだ。



「では、お嬢様。スノウ様にはここにいてもらって、お風呂に入りましょう」



「うん」



「ええと…寝間着と、下着と…」



「…あのね、私まだ、加護を授かったことを実感していないの」


リリアンヌは準備を進めるニアを見つめながら、ぽつりと呟いた。



「…何が変わったのか、分からない」


分からないのに――国に尽くすことになった。




「変わりませんよぉ。加護を授かっても、お嬢様は、お嬢様なのですから」



「…私は、私?」

リリアンヌは、小さく目を瞬いた。



「精霊様の加護を授かったなんて、本当はすごいことなのでしょうけれどね」

ニアは、準備する手を止めることなく続けた。



「私にとってはそんなこと関係なく、いつでも可愛くて賢くて、自慢のお嬢様です」

そう言って、ふふっと笑みをこぼした。



「…さ、お嬢様――」



気付けば、


ニアの背中に、ぎゅっと抱きついていた。



「はぇっ…!?お、お嬢様ぁ?」



「ありがとう、ニア…」


加護を授かって――



国王に問い詰められて、


大教主に大聖堂へ入れと言われ、


家族を、悲しませてしまった。



ニアだけは、変わらずにいてくれた。


変わらないと、言ってくれた。



「ニアは、やっぱり最高の侍女だよ…」



「ふふ…今日のお嬢様は、随分と甘えん坊ですねぇ」


ニアはそっと手を伸ばし、たどたどしくリリアンヌの背中をさすった。



「ほら、お嬢様、大好きなお風呂へ行きますよ。今日は頑張りましたからね、うんと綺麗にしましょう」



「うん…!」


リリアンヌは嬉しそうに頷くと、ニアと共に扉へ向かった。



「そういえばお嬢様、いつまでそれを着けているのですか?他のは、とっくに外したというのに」



「えっ…あ、ええと…今日だけ…」



「よっぽど、その指輪が気に入ったんですねぇ」



「…うん」


ぱたん…と閉められた部屋の中で――



精霊は、ぱっちりと目を開けていた。


周囲を確認するかのように、きょろりと目を動かし、首を傾けた。



「…ホ~」


精霊はそっと目を閉じると、体の光を淡く揺らがせた。


ゆらゆらと、ゆっくり――



まるで、何ものかに合図を送るかのように。



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