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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第二章/“仲間”と精霊
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大国の王⑥

レックス視点



「陛下!あなたは一体、何を考えているのですかな」


玉座の前では、まだスワハマが騒ぎ続けていた。



「精霊は、国へ献上するべきだ!そうですな…ブライアン殿下がそのちからを持つべきだとは思いませんか」



「おお、それはいいな」


「確かに、ロデオ総長のご息女が持っているよりはうまく使えそうだ」


「ブライアン殿下が精霊の加護を持てば、他領や隣国へもよい牽制になる」


スワハマの意見に同調するように、取り巻きが騒ぎ出した。



「スワハマ大教主。精霊を手に入れたところで、加護を貰えるわけではないですよ」

玉座の横に立つルイージが、静かに口を開いた。



「ああ…失礼。精霊王の教えを深く扱っている方なら、それくらい、もちろん知っていらっしゃいますね」



「ふん、そんなことは分かっている」

スワハマは、馬鹿にするような目でルイージを睨みつけた。



「それならせめて、彼女を管理するべきでしょうぞ!リリアンヌ殿下は、まだ幼い。国を挙げて教育するべきだ」



「リリアンヌ殿下を道具扱いするとは、なんという不敬ですか…!」

ルイージが鋭く返した。



「道具扱いだと?そんなことはしていない。ただ国で管理すべきだと言っている」



「まだ何も分からない状況なのに、何を管理するというのです」



「ああ、いちいち煩わしいな…陛下、なぜご理解いただけないのです?陛下も、精霊の加護がどれほど素晴らしいものか学んできたはずだ!」

スワハマは、小さな目をレックスに移した。



「儂が、つきっきりで教育をいたしましょう!どうか、その役目を儂に――」



「黙れ」


レックスは、冷たく一蹴した。



「お前の意見など聞いてない。さっさと出ていけ」



「…御意に」


スワハマは、不承不承返した。


最後にレックスを睨みつけると、取り巻きを伴い、玉座の間を後にした。



「エドガー」



「はっ」

エドガーは、すぐさま壁際に向かって手で合図を送った。


壁際に立つ国王直属騎士団が、静かに入り口へ向かっていった。



「……」


レックスは頬杖をつきながら、その様子を眺めていた。



精霊…か。


正直、どうでもいい。



精霊は過去、確かにいた。


特別なちからを持つ者(アニマソムニア)が生まれる以上、加護のちからも本物だ。



だが、精霊が消えた今、戦況を覆すような“特別なちからを持つ者”は現れない。


…もっとも、ちからなど関係なく、戦況を覆すような連中はいるが。



加護がなくとも、軍事力は十分に足りている。


時代が違う。



あの鳥は、九割方本物の精霊だ。


加護を貰ったというのも、本当だろう。


そこだけは嘘をついていないように見えた。



だが、それだけだ。


加護があったとして、あんな子供に何ができる。



異形の存在(ゼノプーパ)でも消し去ってくれるというのなら、別だが。



スワハマも、精霊そのものが欲しいわけじゃない。


欲しいのは、“精霊を抱えている”という事実だ。


それが無理なら、加護を貰った王弟の娘を手元に置いておきたいのだろう。



…また面倒な火種が増えた。



「…面倒くせぇ」



「陛下。言葉遣いが戻っています」


すぐにエドガーから小言が飛んだ。



「もうお前らしかいない。好きにさせろ」

レックスは頬杖をついたまま、さらに深く椅子にもたれた。



「ちっ…余計な仕事を増やされたな」


どうでもいいが、スワハマの言う通りにだけはさせたくない。



リリアンヌは一応、王位継承権を持っている。


スワハマに使われれば、また厄介なことになる。



「おい、レックス。お前の姪のことだろう。もう少し興味を持ったらどうなんだ」


今度は、ルイージから小言が飛んだ。



「ルイージ、お前に任せる」

レックスは、片手をひらひらと振って返した。



「明日から、お前が面倒を見ろ」



「面倒を見ろって…一体、どう試していく気なんだ?」



「だから、任せる」



「丸投げかよ…俺の仕事はどうするっていうんだ」

ルイージは、はぁ…と深い溜息をついた。



「…念のため、二人つけておけ」

レックスは付け足すように言った。



「護衛をか?随分、厳重だな」



「頭の悪い奴らは、いくらでもいる」


リリアンヌが加護を貰ったという噂は、一瞬で貴族の中で広がるはずだ。



本当にリリアンヌは、加護を貰ったのか。


それとも、ただの妄想少女なのか。


本物だとしたら、王弟の娘を自身の陣営に引き込めそうか。


見定めようと近づく馬鹿は、多くいる。



「……」


ふと向けられる視線に気付き、目を向けた。



「…何か言いたそうだな」



「精霊を見つけたことは、悪いことなのですか」



「あ?」



「精霊の加護を貰うのは、めでたいことではないのですか」


玉座の下から、アランフォースがまっすぐに見上げていた。



「…確かに、めでたいかもな」


何かはまだ分からないが、“特別なちからを持つ者”がひとり増えた。


それ自体は、めでたいことだ。



「それが、なんだ」



「陛下は、彼女を責めるばかりでした。なぜ、よくやったと褒めてあげないのです」



「……」

レックスは口を閉じ、じっとアランフォースを見やった。



「随分と…珍しいこともあるものですね」



「あなたもです、ルイージ宰相」

アランフォースは、さっと顔をルイージに向けた。



「誰しもが、彼女を責め立てるばかりだった」



「…そういうつもりはなかったのですが。それは、大変失礼しました」



「おい、アランフォース。お前、リリアンヌと何があった」

レックスは、ルイージとかぶせるように尋ねた。



「何もありません。先ほどの報告通りです」

アランフォースは、すぐに表情を戻した。



「……」


それだけのことで、こいつがここまで食い下がるのか。



普段、淡々と任務をこなすだけのこの男が。


余計な感情は不要だとばかりに、終始無表情のこの男が。



ひとりの少女へ、微笑みを向けた。



…リリアンヌ、か。


ロデオが、あそこまで溺愛する娘。


目の前の無愛想な男に、ここまで言わせた。



玉座に座る自分と対峙すれば、大概の者は怯え、疚しいことをしていなくても下を向く。


子供なら、泣き叫びそうなものだ。


実の息子ですら、自分と話す時は目を逸らす。



リリアンヌは、最初から目を離さなかった。


目を逸らしたのは、アランフォースへ質問を続けた時くらいか。



声は震えていたが、終始冷静だった。


自分が責められているのに、アランフォースを罰するなと訴えた。



そうかと思えば、牢屋に入れるのかだの家族といたいだの、子供のようなことを言う。


いや、実際に十にも満たない子供だ。



リリアンヌ、か。



精霊より、加護の話より――


俄然、リリアンヌ自身の方に興味が湧いた。



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