大国の王④
リリアンヌ視点
「…ルイージ」
「はい」
玉座の横に立つモノクルの男性が、国王の呼びかけに答えた。
彼が、ルイージなのだろう。
「お前は、どう思う」
「…加護を授かったことを前提で、話を進めますが」
ルイージは、静かにモノクルを指で押し上げた。
「加護を持つ者の住まいに関しては、どの法律にも記載がありません。記載がない以上、強要はできませんから、リリアンヌ殿下のご希望を優先されるべきでしょう」
「…だそうだ。住むところは好きにしろ」
レックスが付け足すように言った。
「…!」
「いけません!」
安堵の息を吐く前に、すぐに鋭い声が飛んだ。
「陛下!リリアンヌ殿下を、すぐにでもセスランディア大聖堂へ入れるべきですぞ」
スワハマは両手を広げ、熱弁した。
「大聖堂は、精霊王を祀る場所。まさしく、精霊の加護を持つ者が住まうところにぴったりではないか!」
「…余計なことを」
ロデオが、唸るように呟いた。
「こいつを大聖堂へ入れて、どうする」
「霊拝師と同じく、オーリア教について学ぶのです」
スワハマはさらに一歩踏み出し、レックスへ答えた。
「加護を持ったのなら、正しい知識がなおさら必要だ」
「リリアンヌは、白の使い手ではない!住むところはどこだっていいだろう!」
ロデオが噛みつくように叫んだ。
「……」
父の言葉に、胸がずきりと痛んだ。
「白の使い手は、例外なく大聖堂へ入り聖職者となる。それだけではないな。特別なちからを持つ者の多くが、国のために尽くしてきた」
スワハマは、ふんっと馬鹿にするような笑みをこぼした。
「ロデオ殿下、ご自身の御子だけ特別扱いというのですかな?」
「スワハマ大教主。言葉が過ぎますよ」
「相変わらず貴殿は甘いな、ルイージ宰相。ことの重大さが分かっていないようですな。精霊、ですぞ!そのちからの素晴らしさは、誰もが習ってきたはずだ」
スワハマは、じとりとルイージを見やった。
「みすみすリリアンヌ殿下と屋敷へ帰して、精霊が逃げたらどうする気だ!」
「……」
リリアンヌは、胸の前でぎゅっと両手を握りしめた。
「私の娘より、精霊が大事だと言うのか」
ロデオの体から、わずかに殺気が漏れた。
「…失礼、そういう意味ではなかったのですがな。儂は、慎重に事を運ぶ必要があると言っている」
スワハマは、ごほんと咳払いをした。
「リリアンヌ殿下!セスランディア大聖堂は聖守護騎士団により、堅く護られている」
スワハマの指した先には、一目で騎士と分かる人たちが並んでいた。
「どこよりも安全な場所で、あなた様の素晴らしいちからを確かめましょうぞ!」
「エラドリオール邸も衛兵たちにより護られている。問題ない」
「騎士と兵士を、同じにしないでもらおうか」
スワハマは、無遠慮にロデオを睨みつけた。
「スワハマ、黙れ」
国王の鋭い声が、再び飛んだ。
「俺が、好きなところへ住めと言った。意見するな」
「…陛下、ですが」
「こいつは、俺が使うって言ってんだ」
レックスの目は、しっかりとリリアンヌへ向けられていた。
「…っ」
倒れそうになる体を、なんとか支えた。
「リリアンヌ、今日はもう帰れ。明日また登城しろ」
「…は、はい」
監禁は、免れた。
少なくとも、すぐに精霊を取り上げられることはなさそうだ。
けれど、あまりにも状況は絶望的だった。
「…帰ろう、リリィ」
ロデオは、さっとリリアンヌを抱え上げた。
「…待って、お父様…!アランフォース副団長は…?」
アランフォースは、まだ玉座の前で立ったままだ。
「アランフォース、お前は残れ」
ロデオに代わり、レックスが答えた。
「…!アランフォース副団長は、私を助けてくださっただけです…!」
リリアンヌはロデオの腕の中から、勢いよく玉座へ顔を向けた。
「どうか、アランフォース副団長を罰さないでください…!」
「……」
レックスは何も言わず、じっとリリアンヌを見下ろした。
「お願いします…」
リリアンヌは、泣きそうな目で見つめ返した。
「…話を聞くだけだ」
国王の声から、少しだけ鋭さが抜けた気がした。
「大丈夫です」
「…!」
耳元で囁かれた声に、リリアンヌは、はっと顔を隣に向けた。
「大丈夫です。問題ありません」
アランフォースは顔を寄せ、そっと囁いた。
「また…どこかでお会いできますか?」
こんな別れ方をしてしまうのは、寂しい。
「…ええ、必ず」
アランフォースは、小さく口角を上げた。
「…!?」
「あ、アランフォース殿が…」
「今、笑ったのか…!?」
室内が、わずかにざわめいた。
「…行くぞ」
ロデオはリリアンヌを抱え上げたまま、足早に玉座の間を後にした。




