大国の王③
リリアンヌ視点
「…経緯は、分かった」
レックスが、静かに口を開いた。
「それで?加護を貰ったことで、何が変わった。何ができるようになった」
「…まだ、分かりません。実感も、あまりないです」
これは半分本当で、半分嘘だ。
「――陛下!」
「えっ」
突然、玉座の間の入り口が大きく開かれた。
「陛下、一体何をお考えなのですかな!」
扉から、ぞろぞろと何人もの男たちが入ってきた。
「…ちっ」
「…!」
リリアンヌは扉へ向けていた顔を、急いで正面に戻した。
国王は、入ってきた一団を煩わそうに睨んでいた。
どうやら先ほどの舌打ちは、自分に向けられたものではなかったようだ。
「ロデオ総長のご息女が、精霊を見つけたと聞きましたぞ!なぜ、儂をすぐ呼ばなかった」
先頭に立つ者が、躊躇いなく玉座へ近づいてきた。
煌びやかな衣装を身にまとった、初老の男性だ。
床に届くほど長い白の長衣に、肩からは藍色を差した外衣が重ねられている。
ふくよかな首元や指には、多くの装飾品が飾られていた。
「なぜお前を呼ぶ必要がある、スワハマ」
「儂は、大教主ですぞ!」
「だからなんだ」
「大教主とは、オーリア教の頂点に立つ者。言わば、精霊王オーリアの御名と教えを最も深く扱う立場にある人間のこと」
「だから、なんだ」
国王の声が、さらに低くなった。
「精霊のことといえば、儂に任せなさい」
スワハマは、ゆっくりと玉座の前まで進んだ。
「……」
肩を握る父の手に力が入り、少しだけ痛かった。
「お初にお目にかかります、リリアンヌ殿下」
スワハマはリリアンヌたちの前で足を止めると、恰幅のいい体を窮屈そうに折り曲げた。
「大教主を務めているスワハマと申します。以後、お見知りおきを」
笑顔を浮かべるその目は、まったく笑っていなかった。
「さて…リリアンヌ殿下。精霊はどこですかな?」
「あっ…あの肩の…!」
「本当に光ってないか…!?」
共に入ってきた者たちが、はっと声を上げた。
「本当だったのか…!?」
「妄想ではなかったということか…」
「おい、言葉に気を付けろ。ロデオ総長のご息女だぞ」
ざわっ…と一気に騒がしくなった。
「ほうっ…ほう、ほう…!」
スワハマの細い目が、大きく見開いた。
「ほうっ…誠に、それが…!」
「黙れ。まだ尋問の途中だ」
国王の冷たい声が、ひやりと響いた。
「俺がまだ、こいつと話している。邪魔するな」
「…尋問、ですと?」
スワハマはリリアンヌへ顔を向けたまま、馬鹿にするような笑みを浮かべた。
「ふんっ…こんな茶番が…」
最後の言葉までは、聞き取れなかった。
「リリアンヌ」
「はいっ…」
はっと、顔を上げた。
「お前は、加護を貰ったと言ったな」
レックスは、再びリリアンヌを見下ろしていた。
「はい…恐らくですが、貰いました」
先ほどと、まったく同じやり取りだ。
どうしてまた、確認する必要があるのだろう。
「加護を貰っただと…!?」
スワハマが、強く反応した。
「そして、お前はまだ、何ができるか分からないと言った」
レックスは、わずかに声を張り上げた。
「はい。まだ、何も分かりません」
今度は、しっかりと頷いた。
「それなら、試していくしかないな」
「陛下!」
ロデオが、すぐに声を上げた。
「試すとは、何です?リリアンヌをどうするというのですか!」
「そのままの意味だ。ちからを得たのか分からないのなら、試すまでだ」
「リリアンヌは、まだ八歳です。なぜ精霊の加護を貰ったのかも分からないのに、見定めるようなことはやめていただきたい」
「お前は、何を言っている?」
レックスは、ぎろりとロデオを見下ろした。
「その鳥が本物の精霊で、本当に加護を貰ったなら、こいつは世界で唯一の加護持ちということになる」
低く淡々とした声が、静かな室内によく響いた。
「『精霊の加護を授かった者は国に尽くし、有事の際は必ず参加すべし』という古い法律が、生きている」
国王の声は――冷たく、無慈悲だった。
「そういうことだ、リリアンヌ。今日から、国のために尽くせ」
「…!?」
「…せめて!」
ロデオはリリアンヌの肩を掴み、自分の方へ抱き寄せた。
「せめて、落ち着いてからにしてくれ…!家族と話し合う暇もくれないというのですか!」
「なら、明日からだ。今日は帰っていい」
レックスは平然と答えた。
「はぁ…!?」
「もともと、そいつは国のために尽くす王族だろ。いつまで隠しておく気だ」
「それはっ――」
「わ、私は、牢屋に行くのでしょうか…?」
剣呑な応酬の中に、か細い声が落ちた。
「…あ?」
国王の顔に、わずかに驚きの表情が混ざった。
「なぜお前を、牢屋に入れなきゃいけない?」
「明日から国のために尽くすということは、私は監禁されるのでしょうか」
リリアンヌは震えながら、じっとレックスを見つめ返した。
「協力しますから、お願いです。エラドリオール邸から通わせてください」
ここだけは、どうしても譲れない。
「私は、家族と一緒にいたいです」
「リリィ…」
ロデオは、リリアンヌの肩を優しく撫でた。




