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風の精(スプライト)  作者: 花一匁
二章 風と仲間
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風 ⅩⅩⅩⅦ

ⅩⅩⅩⅦ 開幕戦突破





開幕戦を突破している生徒が余裕な表情で未だに苦戦している生徒たちを見ている。

そこにはタリアの姿もあった。


「タリア、もうほぼ決まりですわね」


「そうだね。でも、予想以上にプラムの生徒が多いかも」


「そりゃ、実力を隠してるやつとかいるんだろ。こういうイベント観衆なら充分なインパクトを与えることが出来るからな」


「それだけじゃないだろう。今回も何人かの生徒が逃げる。俺たち生徒会に対して牽制することが出来る」


生徒会会長メンバーは既に一次戦への切符を手にしていた。

トップで来たのは、第二生徒会会長のクレア。生徒会同士、十二星座同士でのタッグは禁止されている中、良きパートナーに恵まれたのと、クレア自身の実力が高いことが伺える。

続いて来たのが新会長シルキーとタリア。この二人は同時に戻って来たのである。

最初は別々だったのだが、途中で出くわすというハプニングが発生し、四人で協力関係を結んだ。


「それにしても、アランは遅かったな。そんなに難しかったのか? それとも、タッグが悪かったのか?」


生徒会最後はアラン。彼は生徒会の中で唯一タッグを抽選で決めたのだ。

このことを知っているのは生徒会とアランのパートナー、そして教員だけである。


「いや、そうじゃない。相手が教員だったために手こずってしまった」


「アランは教員を倒したのですの?」


「向こうも手加減はしてくれたみたいだからな。スキを見て逃げていた」


戦わずして勝つ。開幕戦で落ちたとなれば生徒会を降りることになりかねない。

だったら勝てない相手を無理に戦わず、逃げて切符を手にした方が現実的だと判断したのだ。


「それにしても、アストレスのところは遅いな」


脱落者、通過者含め殆どの生徒が戻っている中で未だにこの場にいないレイを怪しく思う。


「どうやらピンチみたいですわね。開幕戦脱落、ということもあり得ますわ」


どれどれと三人も最初と比べて大分数が減った映像が映った球体に目を向ける。

そこには今まさに濁流に呑み込まれんとするところだった。


「あー、こりゃ落ちたかな」


「まだ決まってない! まだ、終わってない」


茶化すようなシルキーの口調にタリアが怒鳴る。

真剣な眼差しでニールを前に投げ出し、レイが呑み込まれたところだった。


(こんな所で終わらないで。私は勝ち上がってくるのを、戦えるのを心待ちにしているのだから)





(予想外だった。こんな事になるなんて。でも、これはチャンスだ)


呑まれたレイは先の方です光っているのが見えた。どうやらニールが機転を利かせてくれたようである。

レイは体制を立て直し、光の元へと泳ぐ。胎児のように丸くなって水に逆らうニールの身体を抱える。

ニールも触れて感じたのか、レイの服を掴む。そして、魔力を練り氷魔法を放出する。

それに併せてレイは陣を描く。滅多なことでは使わない召喚の陣。

そして、今は見えていなくても多くの観衆の中では喚びたくはなかった。


『出てこい、ユキ』


ニールの放つ光よりも大分抑えられたレイが放つ光。陣から姿を現したのは白い着物装束に身を包んだ女――ユキ。

ユキは自分のいる場所が水の中だと瞬時に理解し、主であるレイの命を待つ。


『これを凍らせてくれ。出来るか?』


『精霊である私には容易いことです』


雪の精霊は応える。

水の精霊は水を自由に扱えても氷を自由には使えない。氷の精霊も自由に氷の形を変えられても水を自在には扱えない。

だが、水にもなり、氷でもある雪はその両方を扱うことができる。

だから、その主の命令をこなすことも簡単に出来る。


『ですが、主たちも凍りついてしまいます。よろしいのですか?』


その言葉にレイは隣で流されないように、消されかけている自分の魔法にどんどん上書きをしていくニールの姿に目を向ける。

それだけで分かったのか、ユキは微笑みながら言った。


『ふふ。わかりました。では行きます』


それを合図にユキに魔力を送り込む。

ユキは手を頭上にかざして、くるっと一回しする。すると、あんなにニールは苦戦していたのに、瞬く間に濁流は濁った氷へと姿を変える。

そして予定通りにニールは闇魔法を使って氷を消し去る。

頭上の氷は消さない。ユキの存在がバレてしまうから。


「……疲れた」


まったく疲れた表情や仕草なんてないニールが言う。でも、あれほど魔法を持続させ、さらに瞬時に属性を切り替えたのだ。疲れた、と言いたくなるのは当たり前かもしれない。


「それにしても、これって普通の魔法じゃ防げないだろ。完全に脱落させる気の奴だよな」


ボヤくレイにニールとユキ、ウィーまでもが頷く。これはユキのような強力な魔法師か守護獣じゃないと骨が折れるかもしれない。

道が開けた事により、再び歩き出そうとしたその時だった。白い光がレイとニールの前に突然現れた。

思わず制服の内ポケットを触れる。そこには確かにその子がいる。

目の前のものとは違うと認識できても反射的に警戒してしまう。


「おめでとうございます。一次戦への道が開けました。貴方達は苦難を脱し、お互い協力してきたことを認めます」


『ユキ、戻るんだ』


『はい』


姿が溶けて消えていく。これが観衆の目に晒されていないことを祈りながら、ニールと一緒に光へと手を伸ばす。

一瞬の浮遊後、二人は空から学院のグラウンドへと落下する。


「帰ってきたか」


「どうやら、切符は手に入れたみたいですわね」


二人の手首に自分たちと同じ青いリボンが巻かれていた。

脱落者の生徒には赤いリボンが巻いてある。このリボンはイベント終了まで外すことは出来ない。尚、一次戦などで脱落すると色が赤へと変化する。


「それにしても、あの状況下で広範囲の氷魔法とは……ニールセン・ヴィヴィオ、今以上に警戒する必要があるのではなくて?」


「そうだね。私はその場で立ち会いたかったかな」


魔力を使いすぎて眠いのか、眼をこすっているニールを見てタリアは続ける。


「クエストは一回しか受けてないし、後は鍛練しかしてなかったから詳しくは見れなかったな」


「この学院を出る可能性は?」


「最初は考えた。でも、レイ君にあって変わったよ。何か、見つけたみたい」


眠気が限界に達したようで、レイが仕方ないと言いたげな顔でニールをおんぶする。

背中におぶられて気持ちよさそうに眠りにつく。


『生徒諸君お疲れだった。脱落した者も一次戦へ勝ち上がった者も自身の実力を改めて知っただろう。これを機に更なる高みを目指してほしい』


突然の声に生徒全員が顔を上げる。

それがナターシャの声であることにそう時間はかからなかった。


『明日、一次戦を開催するので青の帯を付けた生徒はグラウンドに集まって欲しい。脱落した生徒は観覧席で見学してくれて構わない』


声が聞こえなくなり、生徒はそれぞれ自分の寮に帰っていく。レイもそれに倣って一人を背負いながら自らの部屋に戻る。

その時に、横目でミオが男と一緒にいるのが見えたような気がした。しかし、すぐに人混みの中に消えてしまう。

今話しかけてもどうしようもないので、レイは追いかけたい衝動を抑えて見なかったことにした。

観覧席にいた来賓者は学院側が用意した部屋へと、先ほどの開幕戦を検討しながら案内されていく。教員は誰かを見失うことはないように全員目を光らせる。

その分、生徒会の面々は生徒が学院から抜け出したり、来賓者と接触しないように見張っていた。

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