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風の精(スプライト)  作者: 花一匁
二章 風と仲間
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風 ⅩⅩⅩⅥ

ⅩⅩⅩⅥ 一次戦までの道





「どこだ……ここ?」


「……学院迷宮区。たぶん」


「こんな場所があるなんてな。驚いた」


二人が飛ばされた場所は学院の地下に設置されている迷宮区だった。

後ろには岩壁があって後ろに進むことが出来ない。

天井と横幅は広く、ここで戦闘が起きても充分に戦えるスペースがある。

一応篝火が灯されており、うっすらとだがちゃんと前には進めるようになっていた。


「……ここ、出ればいい」


「みたいだな。行くか」


特に時間制限とかは指示されていないが、先着、ということもあるので少しだけいつもより速めに足を動かす。


「なあ、ニールは人を殺したことあるか?」


「……唐突」


「応えたくないならいい」


「……ある」


レイは特に驚かなかった。こんなことに驚くなら聞くつもりなどないし、何となくではあるがそんな気もしていたのだ。

しかし、ニールの続きはレイの予想を上回っていた。


「……人は、血が多い。だから、おいしい」


その味を思い出したのか、ペロリと唇を舐めて嬉しそうな顔を浮かべる。

悪寒とは違うゾクリとした感覚がレイの背筋を伝う。それが何なのかはわからないが、ニールに対して恐怖とは違う感情が芽生える。

これは、きっと――。


「……行き止まり」


レイの中で一つの答えが出たとき、目の前には岩壁が道を防いでいた。

しかし、ここまでは一本道だったので間違えてはいないはずだ。


『ウィー頼む』


『お任せを』


指先をくるくると回して小さな風の渦を作る。

それを前方の岩壁へ、すーっ、と優しく指を傾ける。それに従うように風の渦は岩壁に向かって行くが、途中で渦が歪み、溶けて消えてしまった。


「やっぱり、道は間違えてないな。何か仕掛けがあるはず」


周囲の壁を探る。進むだけなら問題のなかったのだが探索するとなるとこう暗いとうまく見ることが出来ない。


「ニール」


「……無理」


「まだ何も言ってない」


「……光、使えない」


「そうか。雷や火は?」


「……使える。でも、苦手」


どうしようかと回転率の悪い頭で考える。

さすがに一次戦は行かないと博士に合わせる顔がないし、なによりミオのことが気になる。

どんなに仲が悪くてもやっぱり気になってしまう。出来ることならミオと話をしたい。

でも、レイは一つ気に掛けていた。


(ミオの隣は、誰なんだろう。もし、そいつと仲が良かったら……)


「はあ……はあ……」


急に息が詰まった感覚に襲われる。

苦しい。辛い。くらくらする。

今自分が立っているのかもわからなくなってきた。


「はっ……はっ……」


何かが自分の手からなくなっていく。こぼれ落ちていく。離れていく。消え去っていく。

いなくならないで。独りにしないで。


――ひかりヲマモレ


「レイ!」


「っ!」


耳を引っ張られた痛みと耳元で怒鳴られたことでレイは現実世界に引き戻された。

自分に何が起こったのか、何を考えていたのか。それらが思い出せない。


「む……ぼっとしてる」


「いや、何でもない。悪い」


「……許す」


ニールは岩壁を指さして、方法を思いついた、と絶対に大丈夫だと言わんばかりの自信で語る。


「……地の岩系統、使う。それで、開けられる」


「ん? 系統?」


聞き慣れない言葉にレイは首を傾げる。

あり得ない、常識だろう。と言いたげな顔を向けるニールに気づくも恥じることはせずに、素直に知らないと告げる。


「……後で、ミオに聞くべき」


「それはムリ」


「……なぜ?」


「ミオと話す気にはなれないから。今話せば多分戦いになる」


大袈裟な、と口に出そうとしたが深刻そうな顔をしているのを見てしまい、その言葉を呑み込み、違う案を出す。


「……タリア、フィレに聞くべき」


懐からペパーナイフを取り出し、岩壁に小さな傷を付ける。

そこを目印として後ろに三歩下がる。これでうまく行かなければ残りはスイッチを探すか、無理矢理破砕するしか手は残らなくなる。


「……上手く、いく……」


自分に言い聞かせるように呟きながら、魔力を傷を付けた岩壁に向かって線のように伸ばす。

ここまでの繊細な制御など殆どしたことがなく、汗が滲み出る。


「肩に力が入りすぎだ。落ち着いていけ」


「………………(こく)」


レイも見ているだけでなく、溢れ出る無駄な魔力を零にする。

このおかげでニールは先ほどより楽になり、制御もしやすくなってきた。


がぎ……ぎがが……


奇妙な音を立てて岩壁が開放される。それと同時にニールは疲れたようにレイにもたれかかる。


「……未熟」


「よくやった方だ。仕掛けを探すよりも時間短縮になったからな」


「……行く」


自分が一人で満足に細かな制御が出来ないことにニールはコンプレックスを持っていた。

今まではただばく然と生きていれば問題はない。そう思っていた。

レイヴィス学院を卒業しようがしまいがニールにとってはどうでもよかったはずだった。


「……レイ、話し、あるから」


「今……はだめか」


耳元でニールは言う。

この開幕戦は観られている。恐らく声も入っているかもしれない。

だから下手なことを喋るわけにはいかない、とニールは判断した。

レイもその事を理解して、今は聞かずにただ先に進もうとした。


『何か音がします』


「……音」


レイも耳を澄ます。何かが迫ってくる音が微かだが確かに聞こえる。

このまま進むべきか悩んでいると、ニールがレイの手を引いて道を戻る。


「……水、迫ってる」


「耳、いいんだな」


『無理矢理岩壁を開けた所為、でしょうか?』


それに関しては分からない。元々開けたら流れてくる仕掛けになっていたのかもしれない。

どっちにしろ、今はそんな事を考えている場合ではない。どうやってやり過ごすか、それを考えなければならない。


ザアァァッ――


とうとう音がはっきりと聞こえるようになった。振り返って見るが、暗闇の所為でその音の正体がわからない。

早めに対策をしないといけない、と思考を巡らせているとウィーが叫び言った。


『水です! 大量の水が圧してきてます! このままではあっという間に水死体の出来上がりになってしまいます!』


「ニール、正体は水だ」


「……なら、氷」


流れてくる水を氷魔法で凍らせることで、せき止めようと判断。レイはそれに頷き、ニールに任せることにした。

今回は細かな制御はいらない。いつものようにやれば大丈夫なはずだった。


「来た」


レイはウィーをいつでも形態移行シェイプ・シフト出来るように魔力を練って待機する。

土を巻き込みながら流れてくる濁流を見つめ、ニールは無単唱で魔法を放つ。

手を突き出したり、目標物を示すような仕草をいっさい見せない、不意な攻撃。

ぴきぴき、と音を鳴らしながら凍りついていく。やった、誰もがそう思ったときだった。

シュウウウゥゥッ

とニールの魔法が無力化されていく。別の人間の干渉。それが頭を過ぎるが、今この場にはレイとニールしかいない。何者かを考えようとするが、驚きとショックで呆然と立ち尽くすニールを見てこのままでは危ないと思ってウィーに命令する。


『形態移行Ver.2』


『お任せを』


レイの背中から翼が生え、ニールを抱えて後ろに飛ぶ。瞬間、濁流が容赦なくさっきまでいた場所を呑み込むように流れ出す。

どうにかして流れを止めなくてはいけない。その方法はないわけではない。だが、その為にはニールの協力が必要だ。


「………………」


相変わらず自分の魔法が無力化されたことに驚いているらしい。気持ちの切り替えをそれを待つほどレイは優しくするつもりはない。

だから強引な方法をとる。


「……っ! くる……し……」


ニールを濁流の中に沈めてすぐに引き上げる。それを三回ほど繰り返し、レイは静かに怒鳴る。


「俺は一次戦に出る。邪魔をするなら強制的に俺が脱落させる」


足手まといになって脱落するなら、自分から切り捨てる。そうすれば踏ん切りもつくし、関わることもない。


「……てつ、だう」


咳き込みながらどうにか言葉を吐き出す。

その顔は先程の驚きとは違い、何かにすがりつくように言葉が震えていた。

それを理解してもレイは慰めの言葉は掛けず、これから何をするのか、それを耳打ちで伝える。


「頼むぞ」


「……わかった」


再びニールが氷魔法で濁流を凍らせる。しかし、二回目もシュウウウゥゥッ、と音を立てて無力化される。思わず顔をしかめるがすぐに元の表情に戻る。

先程とは違い、一瞬流れが止まったことにより、高波となってレイたちに襲い掛かる。それが予想外でレイはニールを前方に投げ、自身は波にさらわれる。


「……レイ!」


ニールの声が響くが、すぐに濁流の音にかき消される。


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