風 ⅩⅩⅩⅤ
ⅩⅩⅩⅤ タッグマッチ開幕戦
「何してるんだ?」
「……むぅ、添いね~」
目を覚ますと布団の中にニールがいつの間にか侵入していた。
昨日は結局ミオは帰ってこず、夜遅くまで起きていた所為で誰かが入ってきたことに全然気づかなかった。
(まあ、知ったことじゃないか)
「……不機嫌」
「そんなことない。ていうか早く布団から出ろ」
「……仕方ない」
のそりのそりと起き上がり、布団から出ようとするが直前でレイが止めに入る。
「なぜ裸?」
「……寝るとき、いつも」
今のニールは一糸纏わぬ姿、いや一応毛布を羽織っているので今のところは平気といえるだろう。
壁にはちゃんと制服が掛けられているので服がちゃんとあるみたいだ。
「……興奮状態?」
「なわけあるか。……外が騒がしいな」
「……外から人、来てる」
レイは窓から外を見ると教員たちの指示に従いながら、会場に案内されている学院の人間ではない人が大勢みえる。
どうやらこういったイベントや行事にはたくさんの人を招き入れるみたいだ。
レイはこの中に派閥や魔研の人間がいるのではないかと警戒している。もしかしたらこれを機に、何か仕掛けてくるのではないか、と疑い始める。
(どうするかは博士の指示次第だな……。最悪逃げることになるか)
「……顔、怖い」
「ん?」
「むぅ……しかめ面」
いつの間にか着替え終わったニールはレイの強張った顔をつつき、緊張を解そうとしてくれている。
段々と頭が覚めてきたレイはニールのことをじっと見てやらなければいけないことを思い出す。
「ニール、少しトーナメントまえに魔力の調整をしてもいいか?」
「……わかった」
再び魔力の暴走が起きないようにニールの身体内と溢れ出る魔力をレイの魔力によって中和し空気中へと溶かす。
「うっ……く、ん……」
キツいのか、ニールは苦しそうに小さな悲鳴を上げながら、レイの腕の肉をギッと握りしめる。
自分の腕を血が出るほど握られているは先程とは違う意味のしかめ面になりながら、少しずつニールの魔力を溶かしていく。
「もう、いいぞ」
「……つか、れた」
「俺は痛かった」
「……身体、軽い」
「ん、そうか。当分は大丈夫だと思う」
「……ありがと」
レイから放れるときにグチッという音がした。
原因は先ほどまで掴んでいた腕。ニールの指先は赤く染まっており、レイの腕には浅くはない傷から血が出ている。
ニールは先ほど、自分がレイに爪を食い込ませていたことを知り、慌て始める。
「……ごめん、なさい」
「支障はないから気にしなくていい」
責任を感じているニールはどうにかしようと考え、一つの結論にいたり実行する。
「……責任、とる」
「別にいい……何をしている?」
「……聞いた。舐めれば治るって」
レイの腕を引き寄せて、傷口を優しく舐める。
鉄の味が身体の中に入っていくが、少量ということもあり身体が反応することもない。
対してレイはとりあえず満足するまでやらせようと、自由にさせている。
『生徒諸君は至急学院グラウンドに集合せよ。繰り返す――』
前回と同じく、どこからかナターシャの声が響き渡り、収集の合図がかかる。
「行くぞ」
「………………(コク)」
レイも素早く制服に袖を通して、収集場所のグラウンドへと向かう。
他の生徒も早足でグラウンドへと足を向けている。
来賓者たちはグラウンドを囲むように造られている観戦席の一角に座っており、全員座ることも出来ず立ち見の人も見られた。
生徒、教員、来賓者は中心にいる学院長兼理事長のナターシャ・ファブリスへと視線を注ぐ。
「諸君、よく集まってくれた。此度は例年とは異なる開幕戦を始める」
開幕戦、ナターシャの言葉に生徒だけでなく来賓者もざわめきが起こる。
知っていたのは教員の間だけで、こういった行事の予定を把握しなくてはいけない第四生徒会会長、タリア・シュリアも聞いていなかったようである。
「喋っているのは私だ」
たったその一言でそこにいるすべての人が黙り込み、その場が静寂に包まれる。
「これは不正を失くすための措置だ。よって、生徒会にも伝えてはいない」
一拍おいてから教員に視線を向ける。
五人の教員は頷き合い、生徒を囲むように五芒星の陣を出現させる。
「これより、生徒諸君には開幕戦を行ってもらう。この結果によって一次戦に参加する生徒を選出する」
ざわり、と再び騒がしくなるが、それを一蹴するように参加する全生徒が五芒星の陣が光と同時に消えた。
観覧席にいる来賓者の間にはざわめきが広がり、それを静めるようにナターシャが説明を始める。
「この件は毎年私たち教員も頭を悩ませていた。他の生徒間で不当な情報の受け渡しがある。まあ、それはいいとしても、中には自らの守護獣を貸したりする奴もでている」
その言葉にいっそうざわめきが広がる。
不当な情報、これは情報屋からではなく長年卒業出来ずにいる生徒が、高い金を要求して情報を売っている。そしてそれが嘘の場合もあり、中には揉め事に発展してしまうこともあるのでそのための対策を練っていた。
さらに問題なのが自分の守護獣を売ること。これは不利な状況を打開するために、それなりに友好を深め、己の得意属性があれば魔力を受け渡すだけで後は守護獣自身が勝手に魔素を変換する事ができる。
「この開幕戦に落ちた生徒はタッグマッチ終了まで守護獣の召喚を禁ずることにした。中には複数の守護獣を使役している生徒もいるので抜き打ちで、且つ迅速に行う必要があった」
高らかに言うナターシャに反論する人は誰もいなかった。
寧ろ、そんな事態が起こっていることに驚いている様子であり、そのための打開策を立てたナターシャへの関心が高まっていた。
「では次に、開幕戦のルールを説明する」
生徒のいない場で、来賓者にだけ説明を始める。
「至って単純なものだ。ただゴールまでたどり着けばいい」
そのルールに、それだけか、という声が飛んでくる。
それに対してナターシャは、ルール上はな、と言って続きを話す。
「しかし、中にはただ歩いていればいいものや、魔物と戦わなければならないもの、罠などのトラップを乗り越えるもの、道を間違えればその時点で脱落のものがある」
つまり、実力や状況判断や知識、仲間同士の信頼、そして運を兼ね備えた開幕戦になっている。
説明を終えるとナターシャの頭上にたくさんの水晶玉のような球体が浮かび上がる。
「来賓者の方々には開幕戦の様子を見てもらいたい。これで見納めになる生徒も出てくるだろうからな」
それを最後にナターシャは後を教員たちに任せてその場を後にする。
この開幕戦は本当にランダムになっているため、ナターシャ自身も誰が一時戦に出られるのかはわからない。
何せ、あの二人がバラバラになったこと事態が予想外だったのだから……。




