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風の精(スプライト)  作者: 花一匁
二章 風と仲間
36/42

風 閑休

閑休 告白……?





「……レイ、手紙」


「ん?」


午後の内容も終わり寮までの道のりの際、ニールから宛名がない白い封筒を渡される。

こういう宛名もない手紙でよく騙されたことのあるレイには、読む気なんてないがとりあえず受け取っておく。


「ニールからじゃないよな?」


「………………(フルフル)」


首を横に振って否定する。


「誰からの手紙か知ってるのか?」


「………………(フルフル)」


また首を振って否定の意を示す。


「じゃあどこで拾ったんだ?」


「……ぬ」


今度は小さな紙切れを見せてきた。それには『レイ・ラ・アストレスに渡して』と書かれていた。

何故それがニールなのかわからない。ただ間違えただけなのか、それともニールじゃなきゃいけない理由でもあるのか。

もし内容がとんでもないことだったら困るので、寮に帰るまでは中身を見ないことにした。



『ウィーはミオと一緒にいてくれないか?』


『何故です?』


『何か仕掛けられてたら厄介だ。ミオに怪我をさせたくない』


『わかりました。ですが、私の主はレイ様ですからね』


『ん。悪いな』


ウィーが部屋を出たことを確認すると、まず封を切る。外側には特に何か仕掛けられたわけでもないので、中身を慎重に取り出す。


(特に何もないのか?)


何かが作動する様子もないので、今回は本当にただの手紙だったらしい。

文面を読んでレイは納得した。このことについてはウィーとミオに知らせた方がいい。


「ミオ、話がある」


「あ、レイ。ウィーちゃんから聞いたよ。怪しい手紙を受け取ったって」


「ん。そのことについてなんだけど」


「それ私にも関係すること?」


「とりあえず読めばわかる」


「ふんふん。……えぇぇぇぇっっっ!!」


「やっぱり驚くよな」


「これは驚くよ! レイはいったい何したの!?」


「記憶にない。差出人がわからないから想像もつかない」


「う~ん……わからないなら仕方ないよね。私も一緒に行きたいけど……」


「一人で来てくれって書いてあるから」


「しょうがないよね。大丈夫?」


「ミオ、俺を信じてくれ。約束しただろ。ミオと一緒にいるって」


「そう……だよね。うん、わかってるんだけど……」


「何が不安なんだ?」


「やっぱり、会うんだよね? 知らん振りしちゃおうよ」


「それでもいいんだが、もしこれがしつこく続いたら厄介だからな。ちゃんと明日決着をつけてくる」


「うん……」


レイの言いたいことはわかっているのだが、やっぱり不安が拭えないミオ。それはレイも読み取っているのでこれ以上、大丈夫、なんて言っても気休めにしかならないのでその場にミオを残して先に寝ることにした。




翌日、女子寮食堂。


「あら、珍しいわね。ミオちゃんが食堂にいるなんて」


「……うん」


タリアは空いている席を探していると久々に女子寮の食堂で朝食を食べているミオを見かけた。


「朝食、冷めちゃうわよ」


「……うん」


「食欲ないの?」


「……うん」


ミオのプレートにはジャムを塗ったフレンチトースト、綺麗に黄色く焼かれたふわとろのスクランブルエッグ、浅く斜めに切り目を入れたソーセージにバランスを考えて優しい緑色をしたサラダ、シンプルだが朝から体が温まるコンソメスープ、そして付け合わせのプレーンヨーグルト。どれも綺麗に盛り付けられているのだが、どれ一つ手がつけられていない。

フォークは持っているのだが、頬杖を付きながらコツコツとプレートの縁をつついている。


「もしかしなくても、何かあったの?」


「……うん」


先ほどから上の空で生返事ばかりを繰り返している。

とりあえず気になって仕方ないので、タリアはチキンを頬張っているカナミアに視線を向ける。

何をするのかを理解したカナミアはナプキンで器用に手を拭き、ミオの耳に噛みついた。


「いったぁぁぁぁいっ!」


「む。少し強すぎたか」


「でも目は覚めたみたいよね」


「あぐぅ……。耳が、耳がぁ……。」


「大丈夫よ。血は出てないから」


「タリア会長、いるなら声を掛けてください。これは一種のイジメです」


「ずっと上の空だったのはどこのだれよ」


「………もしかして、ずっといました?」


「えぇ、いました」


ヒリヒリする耳をさすりながら自分がどれだけぼうっとしていたのかを実感する。予想以上に昨日のことが堪えているみたいだ。


「それで、どうしたの。レイ君と何かあったの?」


「うぅ~」


図星だったようでその話題はしたくないのか、耳をふさいで聞こえない振りをする。

でもこのまま誰にも話さないでいると、心が押しつぶされそうになってくるのでぽつりと零す


「その、レイがね……ラブレターをね……受け取ってたの」


「はあぁぁぁぁっっ?!」


タリアの叫び声を聞いて食堂にいた全生徒がタリアとミオに注目する。

生徒会長の驚愕の声を聞けることなんてないので、自然とその話題にも耳を傾け始める。


「あ、う……」


昨日のこともありいつものように振る舞えないミオは小さく呻いたあと顔をうつむける。


「でもね、進級はしといて損はないわよ。強くなりたいならなおさらね」


「は、はぁ……?」


「(いいから話し合わせて。あまり聞かれたくないんでしょ)」


「(う、うん)」


「それに、ミオちゃんは優秀だから簡単に上がれるわよ」


「でも私はもう少し力を身につけてからでもいいかなって思ってます」


二人が進級の話をしていると知った生徒達は各自の話に戻っていく。興味がないわけではないのだが、朝っぱらからそういう話はしたくないし、聞きたくもないはずだ。


「あ、ありがと……」


「気にしないで。さ、早く食べて場所を移しましょ」


ここだとまた話を聞かれる――原因は叫んだ所為なのだが――かもしれないので、少し急ぎ目で食べて誰もいない生徒会室に移動する。


「えっと、確かレイ君がラブレターを受け取ったって話だったわよね」


「誰からかもわからないので、今日の放課後まで待つしか……」


「で、レイ君は?」


「朝早くから寮を出たので……」

「そう。でもレイ君って意外とモテるのね」


「そりゃレイはカッコイイもん! 無愛想な一面の方が強いけど、たまに優しいところがすごく安心させてくれるのっ!」


「そ、そう……」


「タリア会長もレイが優しいことは分かってるんだよね!」


「ちょっと強引な感じがイメージあるわよ。私から見たらね。でもそういう一面を他の子が見つけちゃったみたいね」


「はぁ。結局、放課後まで待つしかないのか」





午後の部。


「……レイ」


「ん?」


「……昨日、読んだ?」


「ん。大丈夫だ。しっかりと読んだ」


「……なら、いい」


「でも何でニールがそこまで気にするんだ。誰か知ってるのか?」


「……し、知らない」


「怪しいな」


「……私、何も知らない」


あからさまに視線を逸らすのが怪しすぎて疑ってしまうが、この調子では話してくれそうにないので諦める。


「レ、レイ!」


「ミオ……」


「えっと、お、おはよ……?」


「いや、もう昼過ぎだけど」


「うっ。そうだね。うん、お昼だね」


どうにも話すのが気まずい雰囲気の二人。

それを遠くから眺めているタリアはため息しかでない。「はぁ。結局、放課後まで待つしかないのか」





午後の部。


「……レイ」


「ん?」


「……昨日、読んだ?」


「ん。大丈夫だ。しっかりと読んだ」


「……なら、いい」


「でも何でニールがそこまで気にするんだ。誰か知ってるのか?」


「……し、知らない」


「怪しいな」


「……私、何も知らない」


あからさまに視線を逸らすのが怪しすぎて疑ってしまうが、この調子では話してくれそうにないので諦める。


「レ、レイ!」


「ミオ……」


「えっと、お、おはよ……?」


「いや、もう昼過ぎだけど」


「うっ。そうだね。うん、お昼だね」


どうにも話すのが気まずい雰囲気の二人。

それを遠くから眺めているタリアはため息しかでない。


「あのぅ、二人は何かあったんでしょうか? いつものようなイチャイチャ感が伝わってこないのですが……」


「ちょっと、レイ君が他の女の子に取られそうになってるのよ。ミオちゃんはそれがすごい心配みたい」


「レイってモテるんですね。少し意外です」


「他人事のように言ってていいの? フィレちゃんだってレイ君が好きなんでしょ」


「いぅっ!! あ、あああのですね。わわ、私はただ、その……何というか……」


「まあ、何にせよ。レイ君次第なのよね。これは」


「そ、そう、ですね」


会話のかみ合っていない二人を眺めながらこの後がどうなるのか、少し楽しみにしているタリアがいた。



そして放課後。


「……レイ」


「ニール、どうした?」


「……ちゃんと、配慮すべし」


それだけ言ってとことこ歩いていってしまう。首を傾げながら、どういう意味かを考えていると、いつの間にか後ろを付いてきている人物に問う。


「何してるんだ?」


「えっと……尾行?」


「真後ろにいたら尾行も何もないだろ」


「ですよね。その、気になってしまって」


「フィレが気にすることじゃない。……誰から聞いた?」


「タリアさんからです。でも、気になります。もしかしたらって思うと……」


「お前には関係ない。ついてこないでくれ」


「わかりました。では、一つだけ」


レイの背中に抱きつき、顔をあわせないように下を向きながら話す。


「レイのことを思っているのはミオさんだけではありません。私だって、レイのことを……」


そこで言葉が区切られ、沈黙が流れる。

レイはフィレの言葉をただ黙って待っていた、のだが……。


「いえ、やっぱりいいです。気をつけていってきてください」


「は? 最後まで言わないのか?」


「はい。すみません、足止めしちゃって。私は帰りますね」


背中を向けて走り去る。

レイは先ほどのニールといい、フィレといいよくわからなくなってきたので、考えることを放棄して屋上に向かうことにした。

扉を開けると手すりの方に女子生徒が手袋を嵌めた手を空に突き出しながら眺めて待っていた。


「お待たせ」


「アストレス君! 良かった来てくれたんだ!」


「それで、なに?」


「うん、あのね……ニールセンさんから聞いたら、アストレス君は今フリーだって聞いたから」


「……それで?」


「その、私のような子も興味ある、とも言ってたし」


「……だから?」


「だから、その……私たちのサークルに入ってください!」


紙とペンを突き出されたので、とりあえず内容を読んでみる。


「あぁ、なるほど。それで、証拠を見せてほしいんだけど」


「あ、うん。私は両手なんだけど」


付けていた手袋を外して、レイに見せる。

先ほどまで人間の手だったのだが、手袋を外すと出てきたのは少しだけ鋭く尖った爪と肉球、所謂猫の手だった。


「さ、触ってもいいか?」


「う、うん。優しく、ね?」


優しく、しかしちゃんと感触を確かめるために少し力強く押すと、ぷにぷに、とした感触が押し返してきた。


(あぁ、気持ちいい。これはいいかも)


「ちょ、あ、ちょっと、待って。そんな、に、強くは、ダメっ……!」


「え、あ、悪い」


すぐに手を放すと、少し息が上がっているのか、顔を赤くして潤目でレイのことを睨む。


「デリケートなところだから、ダメだよー」


「本当に悪い。それで、俺はどうすればいいんだ?」


「うん、その紙にサインだけしてくれれば大丈夫。やっぱり、学院でも私たちのことを怖がる人はたくさんいるから」


手袋を再びはめながらため息混じりに話しだす。


「アストレス君みたいな人がいてくれると安心するから。お願いしてもいい? あ、毎日顔を出してとかじゃないよ? 時々来てくれれば」


「わかった。じゃあサインしておく」


サークルの名前欄に自分の名前を書き込んで手渡す。

それを受け取った女子生徒は飛び上がる勢いで喜び、レイの手を握りぶんぶんと上下に振る。


「ありがとっ! これで少しは安心だよ!」


さっそく提出しなくちゃ、と言いながら屋上から駆け下りて見えなくなってしまった。

一人になってから予想していたこととは全く違ったことを今になって思い出し、急に疲れが出てきた。


「構えてて損した」


『レイ様、早くミオ様に報告しましょう』


『ん。帰るか』




「……なんだ、これ?」


寮に帰ってきたら部屋の中が全部真っ赤に塗られていた。最初は血とも思ったが鉄臭くないし、触ってもぬるりとした感触もないのですぐに別のものだと判断できた。

思考にふけっていると、奥からすすり泣く音が聞こえてきた。


「うっ……早く、帰ってきて、よぉ……! ひっく、レイィ……」


「ミオ」


すすり泣くミオを後ろから抱きしめる。

それでも泣き止まないミオにただ抱きしめるだけで何も声を掛けない。泣き止むまでずっと待ち続けていた。


「あ、レイ?」


「ただいま」


「おかえり……おかえり! おかえりなさい、レイ!」


数分後にミオはレイの存在に気づき、振り返ってレイに抱きつく。

よく見るとミオの体にも赤い何かがついていた。周りを見渡すと、すぐ近くには真っ赤になったモップとバケツが多数置かれていた。


「なあミオ。あれはなんだ?」


「えっと、わかんない。気づいたらこうなってた」


「そうか」


「それよりどうなったの?!」


「ああ、うん。オーケーした」


「そん、な……ウソ、だよね? ねぇ、ウソでしょ?」


まるでこの世の終わりと言わんばかりの顔でレイの服を強く握りしめ、すがりつくように見る。

それを見たウィーはすかさずにフォローをいれる。


『レイ様、サークルだってことを伝えないとダメですよ! 寮が廃墟になって瓦礫ですよ!』


「俺が了承したのはサークルに入ることだ。他には何もない」


「ほ、ほんと?」


「ああ、あの手紙はサークル勧誘するためだったんだ」


「そうなの? でも何で手紙?」


「警戒してたんだろ。元々ニールが持ってたから」


「じゃあ、半妖か半人半獣?」


「ん。俺がニールと一緒にいるから頼ってみたんだろ。そういうのに興味ある、って知ってたから」


「よ、かったーー!」


緊張の糸が切れたかのようにぐったりと今度はもたれかかる。

色々忙しいな、と思いながらレイは気になったことを聞いてみる。


「ミオは何だと思ってたんだ?」


「レイが告白されるかと思ったの。それを考えるとすごい寂しく感じちゃって……」


「なら大丈夫だ。俺はそんなことを気にしてる場合じゃないから」


「それでも心配なの。私はレイしかないから」


「俺もミオを大事にしたい」


今回のことで余計にお互いの大事さがわかり、いっそうお互いのことを想うようになった。

周りから見るとただのバカップルにしか見えない。


次の日に起きると真っ赤な部屋を見て二人して元通りにするのに一週間近くかかったのは言うまでもない。

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