風 ⅩⅩⅩⅣ
ⅩⅩⅩⅣ パートナー
「そうですか。では、そのタッグマッチトーナメントはいつ頃開催されるかわからないんですね?」
「うん。私もレイも今年から入ったし、タリア会長は生徒会で忙しいから最近会えてないの。フィレは出れるの?」
「出たいのですが、ちょっと無理そうです」
「止められたってこと?」
「はい。あ、でも応援していますからね。頑張ってください」
「うん。ありがとう」
トーナメント開催から二日経ったが、いまだにいつやるのか詳しい日程は決まっていない。
生徒もいつやるのか緊張状態にあり、そわそわとした態度が目立つ。
それに、トーナメント開催宣言をした日から全訓練室及び決闘が禁止され、パートナーが決まっている生徒同士は独自の自主練を、決まらない生徒はパートナー探しに走り回っている。中には抽選でもいい、という生徒もいて自分のことに一所懸命という状態である。
「それで、ミオさんはレイと仲直りしたのですか?」
「……………」
「はぁ。その様子だとしていないみたいですね」
「きっかけが見つからなくて……」
「そんなこと言っていたら抽選で他の人と組まれてしまいますよ?」
「わかってるんだけどぉ~」
「私だって、出来ればレイと組みたかったです。でもそれが叶わないからミオさんを応援しているんですからね?」
「うん……」
「ファイトですよ! もしかしたらレイが誰かと組んでしまいます」
「……それはないよ」
「え?」
「……私はレイを必要としているし、レイも私を必要としているの。絶対ね」
「あの……」
ボソボソと話していて上手く聞き取れない。
もう一度話してもらおうとするが、ミオは急に立ち上がった。
「じゃあ、私行くね。また来るから」
「あ、はい。頑張ってくださいね?」
「うん。ありがとう」
手を振ってお別れをする。
ベッドに横たわり、先ほどのミオの様子を思い出す。
(一瞬だけ雰囲気がすごく変わったような……。ちょっとだけ、怖かったかも)
なにを言っているのかは聞き取れなかったが、思い出すと背中に悪寒が走るのを感じて、違うことを考えることにした。
「仲良くなればいいのですが……」
二人の間の亀裂に踏み込むつもりはない。それはフィレ・ミューヘズが望んだレイ・ラ・アストレスではないのだから。
時は遡って二日前――。
「それにしても大変なことになったね」
「大変?」
「だっていきなりタッグマッチが開催されるし、生徒会長も就任しちゃったんだよ? どっちも大事なことだからみんな大変だよ」
「まあ、別にいいけど」
「相変わらず無関心だね。タッグマッチのパートナーはどうする?」
「出来ればミオと――」
「ミオさん、私と組まない?」
「フェリシモさん、自分と組んでください」
「以前同じチーム組みましたよね? そのよしみでお願いします!」
わらわらとミオに人が寄っていく。
ミオの隣を押し出されたレイは遠くから眺める。
その横ではウィーが怒りで魔法を撃とうとしといる。
『殺します』
『止めとけ、人が多すぎる』
『ですが、ミオ様の隣はレイ様が似合います。他の人に奪われるくらいなら……!』
『それはミオ自身が決めることだ』
(俺よりいいならそれでいいさ)
でもなぜだろうか、胸がむかむかする。
初めての気持ちにレイは見ているうちに不機嫌になり、ミオを置いて先に言ってしまう。
二人がどういう関係か少しだけ理解しているユキは、待たなくていいのか尋ねる。
「いいよ。俺も勝手に決めちゃうから」
「主……」
こんな事があって以来、ミオとレイは話をしていない。
会うことすら出来ずにどうしたらいいのかわからない状態だった。
はぁ~、と長いため息を吐きながらミオはこれからどうしようか考えていた。フィレのいう通り一度話し合った方がいいのはわかるのだが、レイに出会うことが出来ないのだ。
「……あれ?」
窓から外を眺めるとウィーの姿が目に入り、すぐに消えてしまった。
見間違いかと思ったが、妖精を使うのは学院では今のところレイしか見ていないので試しに行ってみることにした。
あのまま行くと学院と娯楽施設の中間地点にある公園にたどり着く。
公園にはベンチが東西南北に二つずつ設けてあり、その中央には噴水が元気よく水を拭きだしている。
そして噴水の縁にフードを被った学院生徒が座っており、レイはその生徒の前に立っていた。
(誰だろう……?)
レイと話をする人なんて限られているし、その中でフードを被っている人物。
その答えが出たとき、レイと一緒にいた学院生徒は話が終わったのか、娯楽施設の方に向かって走っていく。
それをチャンスと見たミオはレイが一人になったのを狙って駆け寄る。
「レイ」
「ミオ、見てたのか」
すでに確信しているような言い方に頷くでもなく問いかける。
「何を話してたの?」
「たぶん、ミオが予想していること。ちなみに了承もした」
「……なんで」
「ミオには関係ないだろ」
その言葉がミオの心を抉り、知らず知らずのうちに怒鳴り出す。
そして公園にいた他の生徒たちはいつも仲のいい二人が言い合っているのを見て二人を中心に円が作られる。
「っ! 私がどれだけレイのことを想ってるのか知ってるくせに!!」
「だから何だよ! だったら俺は必ずお前のことを考慮して動かなきゃいけないのか!?」
「そうは言ってないでしょ! 私はただ理由を聞きたいだけなの! 別にレイが誰と組んだって私には関係ないもの!」
「そうかよ……」
レイの呟きを耳にした途端にミオは自分がどれだけの失言を発したのかを理解する。
「ああ、そうかよ! もしミオと組めるならって少しでも期待したのが馬鹿らしいよ! 関係ないなら最初から話しかけてくるなよ!」
「嘘つき! 私と組む気なんて最初からなかったでしょ! だからいままでだって避けてきたんじゃない!」
「避けてたのはお前だろ! 見かける度に他の奴と話していて、正直嫌だったよ!」
二人の言い合いは続く。
ギャラリーは増えていくのにも気づかずに公の場でどんどんとヒートアップしていく。
取り囲んでいた生徒たちもこれはそろそろやばいと直感が告げ、少しずつ距離を置き始める。
「レイのバカー!」
「ミオの分からず屋!」
そして、どちらからでもなく魔法を放ってしまった。
周りのことなどお構いなしに撃ち出した魔法は二人の中間地点手前で別の魔法によって相殺された。
「あなた達、何してるの?」
「邪魔するな!」
「邪魔しないで!」
「タッグマッチトーナメントが終わるまで生徒間での私闘は禁じてるのよ。生徒会総会長として、これを止めないわけにはいきません!」
総会長――タリアの一喝によって二人はようやく周りに生徒がいることに気づいた。
やっとおとなしくなった二人を見てタリアはため息を吐きながら原因を聞こうとする。
「俺は話す気はない」
「なっ、私に押しつけないで! 私も話す気なんてないですから!」
そう言って二人は別々の方向に歩いていく。
今の二人に触れるのは危ないと判断して、生徒は自然に道を作り、その間を二人は堂々と通り抜ける。
「あ、主!」
『レイ様待ってください!』
レイの守護獣は一度ミオの方を振り返るも、ミオ自身はスタスタと一度も振り返ることなくさっさといなくなってしまった。
「どうするのだ?」
「私に聞かないで……」
生徒から止めに入るように言われたときは、またか、とため息を吐きたくなったのだが、原因がレイとミオの二人だということに驚いて思わず息を呑んでしまった。
珍しいこともあるんだな、と思いながらも学院の決まり事なので止めに入った。
「でも、お互いを傷つけるほどのことだったのかしら?」
「まあ、今ので二人に亀裂みたいなのが入ったのは間違いないな」
「ねえ、カナミア」
「皆まで言うな。タリアの好きにするといい」
「ありがとう!」
その時、空より学院長ナターシャ・ファブリスの声が降ってきた。
『生徒諸君に伝える。明日の正午より学院タッグマッチトーナメントを始動する。タッグマッチパートナーの受付は今より二時間後に終了とする。各自、己の実力を充分に発揮して欲しい。以上!』
その声が途切れると生徒は慌てて明日のための準備に取り掛かろうと止まっていた足を動かし始める。
「始まったね」
「うむ。タリアも早くした方がいい」
「ええ、行きましょう」
皆がレイとミオがタッグを組むと思った矢先のハプニング。
この二人がもう戦うことは確実であるので、生徒たちは再び作戦を練り直す。
風の力を知らない生徒にとって、レイ・ラ・アストレスの存在は驚異に違いなかった……。




