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風の精(スプライト)  作者: 花一匁
二章 風と仲間
34/42

風 ⅩⅩⅩⅢ

ⅩⅩⅩⅢ 開会





「ジンさん、診てほしい患者が――」


「今はだめだ!」


クレアがドアに手を掛けようとしたら中から前に出会った保険医の怒鳴り声が聞こえてきた。

それに対してクレアはため息と共に扉を開く。


「またバカやっているんですの?」


「うわぁぁん! クレアちゃぁぁん!」


保健室の中からはアインが泣きながら出てきた。その姿は服が乱れ、肩が露出していた。

それを見たクレアはジンに向かって冷めた眼で見ながらぶつける。


「最っ低ですわね!」


「ちっ、ちがっ、誤解だ! これはだなぁ!」


慌てて弁解しようとするが服の裾を引っ張られて中断させられる。


「……患者」


「は?」



「……患者」


レイがぐったりとしているフィレを抱えているのを見て、状況を把握したジンはクレアとアインをその場に残して室内に戻ってフィレの様子を診る。


「それで、アイン教員は私に何かご用だったのでは?」


「えへへ、気づいた~?」


先ほどまで泣きついていたアインが今では嘘のように笑みを見せていた。それに対してクレアはため息を零しながら要件を訊く。


「クレアちゃんから見たアストレス君のこと聞きたいな~」


「それだけですの?」


「何が~?」


「でしたら、ジンさんを使ってまで呼ぶことではないと思いまして」


「さすがだね~。実は」


笑みを消して先ほどとは全く違う真剣な顔でクレアを見上げる。


「タリア生徒会長がどういう感じか知りたいの」


「……それはまだ何とも言えませんわ。もしかしたら、彼に付く可能性も」


「そう」


「あの方はどうお考えで?」


「さあ? 私だったら行動を起こしたいところ何だけど」


「とりあえず今は仕掛けるな。ですわね」


「うん。他の二人は?」


「フィレ・ミューヘズは『アレ』を交渉材料にすればよいのではなくて?」


「でもなるべく友好的にいきたいでしょ。お互いのためにも、ね?」


「はぁ。後になって喧嘩とかに巻き込むのだけは勘弁ですわよ」


「もう一人は?」


「まだまだ、ですわ。ニールセン・ヴィヴィオには十二星座の称号を与えるべきでは?」


「その権限は私には持ってないからすぐは難しいかな」


「でもこのまま放っておいたら、どこかに入る可能性もありますわ」


「じゃあ、先に唾をつけといたほうがいいね」


「何かお考えが?」


「うん!」


子供のように元気よく頷くと、タリアを残して保健室から離れていく。その背中を見て、クレアは一言つぶやく。


「あまり無理はしないように」





フィレの傷をあらかた治療し、レイたちに今日中には目を覚ますことを伝える。


「良かった……」


ホッと安堵したミオとニールはフィレの顔をのぞき込む。

呼吸も安定しており、安らかに眠っている。

そこまで大きな傷もないので傷痕が残ることもない、ということだ。


「後はよろしく」


二人にその場を任せてレイは保健室を出て行く。

後ろでミオに呼ばれた気がしたが、今はそれに構っていられない。


『主、いったい何を?』


『あの時、ユキも聞こえていただろ。フィレの声が』


ユキはコクリと頷くが、まだフィレ・ミューヘズという人物を知らないので何に対して疑問を持っているのか、それが全くわからない。


『フィレ様のあの怒鳴りようは尋常じゃない。そうレイ様は思ったのです』


いつの間にか出てきたウィーに、ユキは呆気にとられた後すぐに頭を下げる。


『こ、これは風の精霊様! あの時は誠に申し訳ありませんでした!』


『ウィー、知り合い?』


『いえ、面識はないですが……』


いきなりのユキの態度に二人して戸惑いを見せる。

面識のないウィーは首を傾げながらどこで出会ったのかを訊く。


『その、面識はありません。ですが、風の存在は有名でございます故、こんな所でお会いするとは』


それほどまでにウィーの存在は有名なのか、とレイはじっと見る。ウィー自身もそこまで有名ということは知らず、レイの頭に乗ってユキに言う。


『頭を上げてください。今の私は幼精です。そんなに大きな存在では――』


その言葉に甘えてユキはウィーの方をみる。


『あの、失礼ですが、何故そのようなお姿に?』


『色々あったんです。でも私はこの姿でもレイ様を支えると誓いました』


ウィーの宣言に恥ずかしさを感じたレイは止まっていた足を再び動かす。

ユキも遅れずについて行く。だが、数歩歩いたところでレイが名前を呼ばれたので止まる。


「様子、伺わなくてよろしいの?」


「ミオとニールがいるから問題ない」


「あら、一匹狼だと思っていましたが、そうでもなさそうですわね」


「……………」


何が言いたいのかさっぱりわからない。

でも聞き出すほど興味のある話でもないのでそのまま背を向けて去る。

その時にウィーが振り向き様にあかんべえをした。どうやらウィーには好かれなかったらしい。

苦笑とともにクレアは保健室に入る。


(今は、タリアに任せるしかありませんわね)


入る直前にレイの背中を直視して笑みを扇子で隠しながら中に踏み入った。



『主、これからどこへ?』


『寮に戻る。きっと部屋にいるはずだから』


授業に出席するつもりでいたのだが、予想外の事態が起こったので、これは相談した方がいい、と判断したレイは寮の自室に戻る。

寮に戻ると、案の定部屋の中に人がいた。


「授業は?」


「っ!!」


部屋の中にいたのは予想していた人物と異なり、レイは思わず臨戦態勢を取ってしまう。

だが、レイの行動に態度を変えることなく体の向きをレイに合わせる。


「何を驚く。別にやましいことなんて一つもないのだろう?」


「ナターシャ、何でここに」


「学院で私の名前を出すな」


「あの時は何も言わなかったじゃないか」


「まだちゃんと入ったわけじゃないからな。でも、今は私の生徒だ」


「じゃあ、師匠」


「……他生徒がいるときはやめろよ」


「ん。それで、何?」


「何、学院の幽霊を退治したと聞いたからな」


ビクッとユキが体を震わせる。

ナターシャは表情を変えずにユキのことを観察する。


(なに、この人……スゴく、怖い……)


無意識にレイの服を掴む。

手が震えているのが伝わる。レイはナターシャの前でも躊躇なくユキの手を握りしめ、そして、囁く。

――大丈夫、と。

それが伝わったのか、握る力は強くなったが震えはなくなった。

それをずっと見ていたナターシャはふん、と顔を逸らす。


「まあ、二体も使役するのは構わないが、あまり無茶はするなよ」


「ん。で、師匠は何でここに?」


「何度も言わせるな。その精霊を見に来ただけだ。他に用事はない」


どうやら本当にそれだけだったようで、ナターシャはレイの寮室から出て行く。

ホッとしたようにユキは息を吐き、扉の方を見ながらレイに何者かを問う。


「ナターシャ・ファブリス。世界中で知らないものはいないとされる重要人物」


「それほどまでの人が何故この学院を建てたのでしょう?」


「そこまではわからない」


「何か怖い感じがしました。自分自身が呑み込まれてしまうような……そんな感じが」


レイとウィーにはその意味することがわからなかった。知り合った当時もそんな感覚はなかったため、普通に師弟関係を築いていたのだ。

しかし、はじめて顔を合わせたユキには何か別のものを感じ取ったのかもしれない。

聞き流すことはせず、その言葉を頭の片隅に置いておく。


「仕方ない。戻るか」


こちらとしては予想外の来客で目的の人物に合うことができなかった。

仕方なしに寮を出て再び学院の方に戻る。


「いた! レイ!」


「ん?」


もうすぐ着くと思ったら前方からミオが駆け足で向かってきた。

最近ミオが動き回るところはよく見るな。とどうでもいいことを考えていると、肩で息をしながらミオが言葉を紡ぐ。


「た、大変だよ。その、師匠……講堂に」


相当走り回ったとわかるくらいに息をしているので、とりあえずいったん落ち着かせる。


「深呼吸」


「すぅ~、はぁ~、すぅ~、はぁ~」


「で、何?」


「あ、うん。師匠がね、すぐに講堂まで来るようにって。もうみんな集まってるよ」


「みんな?」


「ほら早く!」


強引に腕を掴まれて、学院校舎とはまた別の棟に向かう。

寮からは結構な距離があり、学院までは五分くらいなのだが講堂まではその三倍の十五分は掛かる。何でこんなに広くする意味があるのか、さっぱりわからない答えに疑問を抱きながら講堂の中に入る。

講堂には大勢の生徒が詰め寄っていた。レイが来たときに比べて生徒数も増え、既に約千二百人にまで増えている。

レイとミオが講堂に入る際にはもう学院長ナターシャが喋っていた。

目立たないように二人は入り口付近に立っていることにした。


「今回もまた始めるぞ。学院全生徒のタッグリーグ戦を! この成績でランクが上がる者、学年が上がる者もいるだろう。諸君は悔いの残らないように全力で戦って欲しい!」


いきなりの開会宣言にも関わらず、生徒誰一人として驚きの声を出さない。

水を打ったかのような奇妙な静寂。

響きわたるのはナターシャ・ファブリスの声だけ。

それがレイとウィー、ユキにはとても気持ち悪く感じた。


「尚、タッグのパートナーは諸君等が決めてもらって構わない! パートナーが決まらない者はこちらで抽選を行うこととする。以上!」


ナターシャが下がると、次に第一生徒会会長、メル・アラン、クレア・ルージュ、タリア・シュリアが壇上に上り、生徒を見回してから一歩前にでる。


「もう知らない人はいないと思いますが、この間アルバート・ハイドが第三生徒会会長及び生徒会を辞職、また学院追放となりました」


総生徒会長のタリアがまだ皆には新しい記憶をよみがえらせる。


「そして、この度空席となった第三生徒会会長のイスに誰が座るのか、それをこんにち発表します!」


その宣言にざわつきが広がる。

先ほどリーグ戦を行うとナターシャが宣言したばかりで緊張が走る生徒たちに、まるで追い打ちを掛けるかのような生徒会の宣言。

生徒がざわつくのも無理はなかった。


「静粛に! もうすでに誰を第三生徒会会長にするかは決まっております」


タリアが一度後ろへ下がると今度はアランが前にでる。


「発表する。第三生徒会会長は――」


ごくりと誰かが唾を飲み込む音が響いた気がした。

クレアがアランの隣に並び立ち、手に持っている扇子をゆっくりと上に掲げる。


十二星座スターズが一人――」


クレアは扇子を勢いよく振り下ろす。


「欠けない牡牛座のシルキー・カイカス!」


「い、いよっしゃぁぁぁっ!」


名指しされたシルキー・カイカスという男性は喜びの声を上げた。


「壇上まで来てください」


シルキー・カイカスはアラン、クレア、タリアの前に立つ。

がっしりした体躯は風紀を守り、決闘を見届ける役目の第三生徒会にはよく合っていた。


「貴方の実力を評価し、第三生徒会会長に任命します。カイカス、頑張ってね」


「これで土俵は同じだな」


「もう大きな顔は出来ませんわね」


「お前等と同じ立場になれて嬉しいぜ! よろしくな!」


カイカスが手を差し出すと、三人は同時に手を取りその途端に大きな拍手がわき上がった。


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