表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風の精(スプライト)  作者: 花一匁
二章 風と仲間
32/42

風 ⅩⅩⅩⅠ

ⅩⅩⅩⅠ 誓約





レイは今の状況に納得いかなかった。

なぜ、自分は正座をさせられているのか。

何をしたいのかは分かっていた。おそらく昨晩のことの説明が欲しいのだ。

それは分かっている。そこまでは分かっている、だが――


(……何で博士も一緒にいるんだ?)


正確には、一緒、ではなくみんなからは見えない位置からこちらを面白そうな顔で見ているのだ。

もしかしたら、勝手なことをしたから様子を見に来た。そして、正座をさせられているのを見つけて様子を伺っている、ということだろう。……たぶん。


「……レイ、質問」


「一人一つな」


色んなことを質問される前に釘を差しておく。ボロを出さないためだ。


「……レイ、多重契約者?」


「違う。そもそも多重契約者っていうのを今初めて知った」


「……じゃああれは」


「ニール、一人一つ、だ」


「……むぅ、仕方ない」


ニールは大人しく引き下がった。


「じゃあ、聞くわね。……人が使役できる守護獣は本来、一人につき一体。多重契約者でもないレイは、どうやってはぐれと契約したの?」


やはり、その質問が来た。生徒会長のタリアなら必ず聞いてくるとは思っていた。


「あれは誓約だ。詳細は話せないが、俺は契約ではなく誓約で使役している」


「そう。ありがとう」


大きなヒントを与えてしまった。でも、まだアレの質問は来ていない。どうにかやり過ごしたい。


「レイ、あの、質問とは違うのですが、傷は大丈夫ですか?」


「心配するなら正座何てさせるな」


「す、すみません。でも、話を聞くにはこれしか思いつかなくて」


「はぁ。傷は痛まない。平気だ」


「そうですか。では、一つ」


ずいっと顔を近づかせてくる。誰かが背中を押したらキスしてしまう距離だ。


「レイは何者なんですか?」


ドクン。レイの心臓が高鳴る。この質問には落ち着いて対処しなければならない。ドジを踏めば、ミオを除いて全員排除しなくてはならない。


「どういう意味だ?」


「傷の治りが早すぎます。普通ならどんなに高度な回復魔法を持っても、あの傷の治りはあり得ません」


「何がいいたい?」


「もしかしてレイは――」


いつでも、魔法を放てるように準備をする。この距離なら確実に当たる。


「私と同じ、何ですか?」


「ん? 同じ?」


「え、違うのですか?」


「はっきり言って、フィレが何者なのか俺は知らない。だから応えられない」


全く違った質問にレイは安心した。変なことを聞かれでもしたら本当に危なかった。


「ほら、もういいだろ。早く俺を解放してくれ」


「そうね。ミオちゃんは何かある?」


「今のところはないかな」


あったとしてもこの場では言えない。

事情を知っている身としては下手なことを聞くことはできない。


「じゃあ、私たちは先に学院に行くけど、休んじゃだめだからね?」


「俺は怪我人だが?」


「さっき平気って言ったでしょ」


「母さんかよ」


「そんな年じゃないわよ」


そう言ってフィレとニールを連れて部屋から出ていく。

やっと解放されて大きく息を吐く。


「お疲れさま」


「ああ。まだ終わってないけどな」


「そうだよ。ボク自身聞きたいことがあるからね」


「博士さん、いつから?」


「やあ、フェリス君。一度会ったね?」


「はい。あの時はアトレスがお世話になりました。……それにしても」


「何だい?」


「相変わらず可愛い! もう本当に愛らしい!」


たまらずといった感じで博士に抱きつく。体格では遥かに劣る博士は苦しそうにミオの背中を叩く。


「あぁ、もう可愛い! 食べちゃいたい」


その言葉を耳にした博士は珍しく余裕な態度を崩し、レイに助けを請う。


「ア、アトレス君、彼女は本気だ! ボクを助けてくれ!」


珍しい光景にもう少し見ていたいという気持ちはあるが、助けを求められているのでレイはミオの両耳を引っ張る。


「痛い痛い痛い! ちょ、待って! 千切れる! 耳が千切れちゃうよー!」


「じゃあ、解放したら?」


「それはやだ。――あ、待って! それ以上強く引っ張らないで~!」


「ボクの耳元で騒がないでくれ。馬鹿になってしまう」


耳元で騒がれている博士は嫌そうにミオに向かって文句を言う。

でも表情は密かに緩んでいた。



それから十分近くバカ騒ぎをしていた三人はやっとのことで本題に入る。


「全く! 困ったものだよ。ボクの許可なくあんなことをして」


「悪かったとは思ってる。でも――」


「言い訳をするのはみっともないとは思わないかい?」


「正しく同意」


ぐっ、とレイは後詰まる。確かにどんなに言ったところでそれがいい訳には何の変わりもない。


「別にボクは不機嫌なだけであって怒ってるんじゃないよ?」


ただ、と付け足し、ミオに一度視線を向ける。


「アトレス君に何かあったらボクたちが困るんだ」


果たして、その言葉にはどういう意味が込められているのか。今のレイでは考えつかない。


「ま、あんまり永く言っても事の後だ。次からは気をつけてくれよ?」


「ん」


「じゃあ早速視せてくれないかい?」


何を、とは聞かない。このことを言われるのは覚悟していたのだから。

レイは手近なナイフを持って自分の腕に傷をつける。

そこから出てきた血は発光して形を取り始める。


「彼女がそうだけど」


現れたのは人型の精霊。不機嫌な顔をしてその場に立っている。


「この子がねぇ。なるほど」


精霊を頭から足まで何度も視る。

そして納得したのか視線をはずしてレイに再び向き直る。


「なぜこの精霊を?」


「実力があるから。それに『アレ』についても知っていた」


「へぇ」


「話すつもりは全くないですがね」


精霊は明後日の方向を見ながら拒絶の意志を見せる。

レイは肩を竦めてため息をこぼす。


「まあ、もし動くことがあれば連絡を必ずするんだよ。精霊に関しては大目に見てあげるよ」


「ん。ありがとう」


博士はぼやきながら部屋を後にした。残ったのはレイとミオの二人と精霊だけ。

お互いに何も話さずに時間だけが過ぎていく。

どのくらい経ったのか、精霊が不機嫌そうな声を出す。


「用がないなら戻してくれませんか?」


「ん? ああ、悪い。用事はあるんだ。名前を決めないとな」


「必要ありません。あの方以外の真名に応えたくはありません」


断固拒否の姿勢を見せる。レイはそれを無視して勝手に名前をつける。


「元々付けてないんだから、同じだろ」


「貴方に主の何が分かるのですか」


「知らないな。魔研か派閥にでも追われていたんだろ」


「……なぜ、その事を」


「風魔法に異常な執着心があるのはそこくらいだ。想像に難くない」


「とにかく、お断りします。主も見つからないのに――」


「よし、『ユキ』にしよう。雪使いだから『ユキ』だ」


「安直ですね。面白みも何もありません」


「でも、もう俺が死なない限り、この誓約が破られることはないからな」


「あのまま消えた方がマシでした」


パンッ!

精霊――ユキの呟きにレイは過剰に反応し、思わず頬を叩いてしまった。

普段そこまで行動を移さないレイが珍しく、ミオは驚きの声を上げる。


「レイ、どうして……」


「消えた方がいい何て言うな! 俺ははじめて見たときからユキと誓約を交わしたい、そう思っていたんだ! あの時は魔研の所為で召喚しただけだった。そしていつの間にか俺は忘れていた……」


あの時、魔研が現れなければ誓約出来ていた。あの時、禁忌を犯さなければユキのことを忘れなかった。


「……貴方は、いったい……」


「……今の俺は子供だけど、でも、今でも俺は――」


あの時、あんな行動を取らなければ一緒にいれたはずだった。

しかし、あの出来事があったからウィーと出会えた。そう考えると自分が何が正しかったのか、それすらもわからなくなってきた。


「レイ、もう少し休んだら?」


ずっと黙っていたミオが話しを遮り、無理矢理レイをベッドに押し倒す。

いきなりどうした、そう口に出そうとしたとき、ミオの顔が険しいものになっていることに気がつく。

何か言いたそうにしている。


「疲れてるんだよね? あんな事があったんだもん。しょうがないよ」


(……らしくない)


言葉に出せなかった。どうしたのか訊きたかった。でも、それを訊いたらミオを泣かせてしまいそうで、尋ねるのをやめた。


「今ならもう少しだけ休めるから。時間になったら起こすね」


ミオはそう言った後にユキの方を振り向く。


「レイを休ませたいから私たちは向こうに、ね?」


「ちょっと待って、私は――」


「ほら行こ」


ユキの背中を押して部屋を出る。

扉を閉める際にミオとレイは目が合い、瞬間にミオはすぐに目をそらした。



部屋を出て隣の部屋へと移る。そこは誰も使っていない無人の部屋。

そこへ入った途端にユキが抗議する。


「何をするのですか!! 私はまだあの人と――」


「今のレイに昔の話はやめて!」


ユキは今まで、大人しそう、というイメージだったミオが声を荒げたことに驚いた。

ミオ自身もここまで大声を出すつもりではなかったので後悔している。これでは、隣にいるレイに聞こえてしまう、と。

何度か深呼吸して自分を抑えながら話し出す。


「レイ――アトレスは昔、あなたのマスターだったのかもしれない。私が産まれる前から生きていたのかもしれない。でも、今のアトレスは違う。子供なの。私と同じ年なの」


アトレスがどういう方法で前世の記憶を持っているのかはわからない。そして知ろうと思ったこともない。


「アトレスは小さいとき言ってた。『派閥を倒すんだ』って。理由はわからないって。もうアトレスにはその時の記憶なんてもう残ってないのに。アトレスは、アトレスはただ、使命感に、動か、されてる、だけで……」


ミオは泣いた。

理由もわからず戦い続けるアトレスに。

それを聞いたユキは問う。


「なぜ、貴女はあの人のために戦うのですか?」


「好きだから。アトレスは私の世界の一人だから。絶対に失いたくない」


その言葉に迷いはなかった。アトレスを愛してしまったから戦う。それがどんなに危険で険しいもので死ぬかもしれなくても、一緒に戦いたい。一緒にいたい。

それがミオ――フェリスの想いと覚悟。

何の迷いもない瞳。それは、ユキの心を揺らした。


「お願い、アトレスには傷を癒す居場所が必要なの。だから――」


「いいでしょう。過去の詮索は一切せず、協力しましょう」


「あ、ありがとう!」


ユキに抱きついて感謝を述べる。

突然の行動に驚かされたが拒むことはしない。




アトレス――レイは今の会話を聞いていた。

いきなりミオの大声がしたので部屋の会話を聞いたら、ミオに申し訳ない気持ちが出てきた。


(フェリス、俺は……俺は……)


拳を強く握りしめる。

彼女の気持ちは知っていた。その想いを何度も口にしていた。


(俺は、その想いが――)


それを聞くたびにレイは支えられると同時に失ったときの恐怖により、それに応えられずにいた。


だから、彼は人を愛さない。

だから、彼は人の愛に気づかないフリをする。

自分を守るために――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ