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風の精(スプライト)  作者: 花一匁
二章 風と仲間
31/42

風 ⅩⅩⅩ

ⅩⅩⅩ 霊




「主……ではない」


「やっぱり、はぐれか……」


「申し訳ありませんが、魔力をいただきます」


「他の奴らは魔力の枯渇で倒れていたけど、犯人はおまえか」


「彼らには少し悪いことをしましたが、仕方のないこと……」


「そう簡単に魔力を奪えると思うなよ」


「簡単、とは行かずとも奪って見せます」


睨み合うレイと白い着物を着た人型のはぐれの召喚獣。

夜のグラウンドは星と月がお互いをうっすらと照らしている。


「あの、レイ……私が若干空気なのですが」


その緊張感の中、軽く忘れられているフィレが困ったような、寂しさのある声でレイに言う。


「フィレはみんなを呼んできてくれ」


「で、でも……」


「俺よりフィレの方が魔力量が多い。これ以上あいつに魔力を奪われるわけにはいかない」


「……わかりました。ですが、無理と無茶だけはしないでください」


「相手の出方次第だ。約束はできない」


「話は終わりですか? すみませんが気は短い方なのです」


レイたちは睨まれると同時に周りの気温が一気に下がるのを感じた。

相手の属性は氷、水の性質を持っていると考慮した方がいいだろう。


『ウィー、相手ってもしかして……』


『はい。私と同じ種族だと』


『やっぱり、か……』





目の前の男性が風の使い手であることはすでに把握している。

さまよいながらやってきたこの地で、まさか自分の主と同じ魔法使いが現れるとは予想外だった。

魔力の質は同等。魔力量もまた、主にものすごく近い。ただ違うのは子供で容姿も違うことくらいだ。

だから余計に認められない。他の魔法はともかく、風魔法は主だけのものだ。


(我が主、貴方のために戦います。再び、出会うために)


「雪の使い手、参ります!」


自分の主のために負けられない戦いが始まる。




形態移行シェイプ・シフトVer.3」


『お任せを』


ウィーは姿を粒子状に変え、レイの右手に集まり、その姿を鉤爪へと変化させる。

それを見ても相手に驚きの姿などは見られない。


『レイ様、あの方をご存知ですか?』


『いきなりどうした?』


『いえ、その……』


同じ種族同士で何か通じるものがあるようだが、それがうまく言葉にできない。

レイもそれはわかっている。


『……今は戦いに集中しろ』


ウィーのことをらしくないと思った。いつもならこんなこと聞いてこない。

聞くとしても戦いが終わってからのはず。


(まあ、終わればすべてわかるか……)




フィレは自分が情けないと思っていた。肝心なときに何もできず、こうして誰かを呼びに行くことしかできない。

わかっているのだ。

レイは自分が足手まといになると思ったからミオたちを呼びに行かせていることを。

そして、自身もまた、それに甘えて逃げていることを。


(これじゃあ、私何も変わりません。変われるはず、ありません……)


逃げ続ける自分が嫌になる。これじゃあ、家を出た意味がない。


(結局、私は――)


「フィレちゃん!」


気づけばもうすぐそこにタリアたちが迫っていた。

歩幅を弱めて止まる。

タリアたちも速度を落とし始めるが、ミオはフィレの肩をつかみ。


「レイは!?」


「彼は今、一人で……」


「何で!? どうして一人にしたの!!」


「ちょ、ちょっとミオちゃん落ち着いて」


タリアの制止の声を聞かず、フィレの肩を揺さぶる。


「あなた、一人で逃げてきたの? 相手がどんなのかも分からないのに、レイを一人にしたの?」


「……それは……」


「はっきり言って幻滅したよ! レイが何を言っても残るべきだった! 死んだら何もならないってわからないの!」


そう言い残すと肩から手を離し、フィレが来た道を走る。

その後ろにニールが続く。その際にフィレを一瞥するが何も言わずに走り去る。


「行きましょう。ここで立ち尽くしても何にもならない」


「……はい」


促されてレイのところに戻る。

――逃げた。

先ほどのミオの言葉がよみがえる。彼女の言うとおりだ。

魔力量とか、そんなことは関係ない。相手の戦力が分からないのに一人にするのは間違っていた。


「……これじゃあ、意味ないのに……」


「どうしたの?」


「いえ、何でもないです」


みんなが駆けつけたときには状況は明らかだった。


「はぁはぁはぁ……」


『……レイ様、なぜ』


膝をつき、体のあちこちから傷と血がにじみ出ている。


「もう、大人しくしてください。貴殿は負けています」


「負けた、わけじゃない……」


「レイ!」


「手を出すな!」


後ろから駆け寄ろうとするミオを怒鳴り止める。


「大丈夫だ。もう、やられない」


「強がりにもほどがあるようですね。すでに戦う力は残っていないでしょう?」


先ほどまでレイは一度も攻撃に移ることができなかったが、今はもう負けられない。負けるわけにはいかない。

レイの後ろには守らなければならない人がいる。

後ろを振り返ると飛び出そうとするのを抑えているミオの姿。


「一つ、訊きたい」


「どうぞ」


「これに、見覚えはあるか?」


みんなからは陰になって見えていない。

それを見せると人型の精霊は見るからに驚いていた。


「な、なぜ、貴方がそれを……」


やっぱり、と思いながらそれを仕舞い、人型の精霊に提案する。

戦わず、負けない方法はこれしかない。ダメだったら倒すしかない。


「なら、俺の目的もわかってるだろ? 協力しないか?」


「……私は主にしか……」


「でも、その主もまた、これの目的を果たそうとしたはずだ。これは風使いの宿命でもあるんだからな」


「……わかりました」


その応えにレイは安心した。殺生が嫌いとかではなく、ウィーと同種族を殺さずにどうにかすることにできたから。


「主以外に仕えるくらいならば、ここから消えた方がマシです」


不自然な魔力が辺りを漂う。

それを真っ先に感じ取ったのは意外にもニールだった。


「……死ぬき」


「え?」


「……無駄な魔力、はぐれにとって死と同意」


「そんな……。レイ!」


「わかってる!」


ウィーとの形態移行を強制的に解除する。

無理矢理弾き出されたウィーに見向きもせず、精霊に肉迫する。

そして――。


「今、アトレスが誓約を交わす!」


段々と精霊の姿が薄くなっていく。

間に合うかわからない。だが諦めるつもりもない。

レイは自分の唇を強く噛んで血を流す。


「この血が、二人を縛り、繋ぎ合わせる!」


そのままの勢いで口づけを交わす。

ギリギリのところで間に合った。


「や、やめてください!」


レイを押しのけて魔力の放出を再び行おうとするが精霊はそれが無駄なことを悟る。


「……余計なことしないでください! 何なのですか、貴方は!」


「そりゃ、死なせたくはないさ。俺は、お前の主だからな」


「私の主は一人だけです」


「知ってる」


「ならばなぜ――」


そこまで来て精霊は急に目眩を起こして倒れ込んでしまった。

まだ馴染んでいないのだ。交わしたばかりなのにあそこまで荒れたらそれはこうなる。


「レイ!」

『レイ様!』


「ああ、終わったよ」


こうやって無理矢理誓約を結んだ経験がない。

レイも戦闘の傷と無理な誓約による疲労感で眠気がひどかった。


「悪い。ちょっと寝る」


「うん。おやすみなさい」


(説明は、起きてからでいいか……)


色々と説明しなければならないことが沢山ある。ウィーや精霊やミオ、そして博士にも……。

博士は何かしら言ってくるだろうけど、いつも最終的には納得してくれる。

そこまで思いながらレイは考えるのをやめて意識を手放す。

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