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風の精(スプライト)  作者: 花一匁
一章 風と学院
27/42

風 ⅩⅩⅥ

ⅩⅩⅥ 決着





「アトレス!!」


フェリスはいつの間にか駆けだしていた。守らなくちゃいけない。

恐れちゃいけない。恐れたらただアトレスを殺すだけだ。償うと決めた。一緒に戦うと決意した。

だから、もう逃げたくない!


「絶対に護る!」


アトレスの前に躍り出て盾になる。


「フェリス! ダメだ下がれ!」


「応えよ」


短剣を自らの右腕に刺す。


「血を喰らい、その形状の変化を」


流れる血が螺旋状となり、フェリスの右腕が変化していく。


「その銘はフィンブルヴェト」


キン、という音とともにフェリスの右腕が鮮やかな水晶のように透き通った剣へと変化した。

それと同時にアトレスとフェリスの指輪に鎖が繋がれる。


「氷を司る冬の魔素マナよ。氷柱となりて私たちを包んで!」


氷の柱がフェリスたちを包み込む。でも、中は寒くない。

アトレスはフェリスの横に立ち並ぶ。


「私の魔力、アトレスに捧げる」


「受け取るよ。今この戦いで」


指輪が鎖を経由してアトレスに注がれる。今まで体の中を流れていた邪魔力が塗り替えられる。

体が楽になってきた。今なら、喚び出せる。


『今再び、手中に』


ビンを服越しから触れる。熱を感じる。

手を放すとアトレスの手のひらには五亡星の陣。

手のひらが熱い。まるで焼けるような感じだ。

それほどまでに向こうも出てきたいみたいだ。


『今、出してやる。おいで、ウィー』


手のひらの陣がアトレスから離れ、五芒星が大きく広がり、光り輝き出す。

陣の中から現れるは一人の女性。その人はゆっくり閉じた目を開く。


「やっと、こちらにリンクできました」


「待たせて悪かった」


今再び繋がることができた。どれほど待ち望んだかわからない。


「ほぁ……」


フェリスはその女性に見惚れている。

それと同時にアトレスから感じる魔力に魅了されていた。


「フェリス、この氷柱を」


「はい」


言われた通りに氷柱を溶く。それと同時に氷柱の中を渦巻いていたアトレスとフェリスの魔力が一気に漏れた。


「うっ!」


アルバートは急な魔力干渉に酔い、膝をついてしまう。

しかし、そこは生徒会長であり、派閥の一人。魔力を送り続けることはやめていない。蝉は奇怪音に雷を乗せて音を発する。


「来た。少し遅かったな」


アトレスとフェリスはその音をまるで聞いておらず、それに乗ってきた雷魔法は突然現れた陣によって妨げられる。

それと同時に竜より放たれた砲弾が蝉に直撃した。


「フィレ、遅かったな」


「すみません。敵が思った以上多かったので」


竜――カナミアから降りたフィレは頭を下げながら近くに駆け寄る。それに続いてニールとタリアも駆け寄ってきた。


「タリア、来たんだ」


「うん。アルバート・ハイド会長。貴方を拘束するようにと〈月光の魔女〉ナターシャ・ファブリス様よりの御命令です」


頷きながら立ち上がったアルバートが嗤いながら叫びだした。


「俺を拘束? 馬鹿言え。僕はただ二人に対して訓練をつけていただけだ。捕まる要素なんてない」


「ハイド会長の罪状は学院内の情報漏洩。証拠も出てますよ」


銃口をアルバートに向けながら淡々と告げる。


「あぁ、あれバレたのか。まあいいや。ここでアンタらを始末して俺は逃げる」


先ほどから一人称が定まってない。それに、この学院から逃げる術はあるはずがない。


「そのために死んでもらうよ」


パチン

アルバートが指を鳴らすとどこからともなくレイヴィス学院の制服を着た生徒がぞろぞろと出てきた。


「殺すか」


「ダメよ。よく見て、あの子たちは操られてる」


タリアの指摘に目を向けると、確かに目は虚ろで、何かしらぶつぶつと呟いている。正常でないのは確かだ。


「……数不明。どんどん、出る」


「いったいどうやってこれほどまでの人を」


「脳内を麻痺させれば、洗脳まがいのことはできるよ」


フィレの疑問にフェリスが答える。


「さあ、行け! 奴らを殺せ!」


アルバートの叫びに応えるように魔法を唱えるもの。武器を取りだして攻めてくるものがいる。


「フィンブルヴェト」


フェリスが剣を振るうと吹雪が生徒の何人かの動きを止める。


「殺すな、か。ウィー、形態移行シェイプ・シフトVer.2」


「かしこまりました」


抱きつくようにアトレスの背中に触れるとその姿が翼へと変化する。上空に飛び上がり、翼の羽が鋭い針となって降り注ぐまるで雨のように。

殺さないようにしながら、戦闘力を奪う。


「あれが、レイ君とフェリシモちゃんの力……」


「すごい、です」


「……格好いい」


三人も襲ってくる相手はいるのだが少数。大半は二人に無力化されていった。


「ウィー、形態変更フォルム・チェンジVer.1」


「かしこまりました」


「地を司る土の魔素よ」


アトレスの呼びかけにウィーは姿を風の刃となり、アトレスの腕に纏う。

フェリスは言われずともアトレスの着地点の地面を足を痛めないように柔らかい土に変化させる。

フェリスにチラリと視線を向けて着地する。やはり、どんなに離れていてもこの関係は変わらないと安心した。

飛んでくる魔法をアトレスは切り落としながら大本を叩きにいく。

空から見る限りでは倒れた奴はすぐに起きあがるので、それが一番の近道だと踏んだ。


「あ、レイ君! ハイド会長は殺さないで!」


後ろから叫ぶ声が聞こえる。舌打ちしたい気持ちを殺して、アルバートに接近する。


「焦げ落ちろ!」


「させない!」


アルバートが落雷を降らせようと魔法を発動するが、そこを再びフェリスがカバーしてくれる。

短剣二本を上空に投げて避雷針代わりにして妨害する。

その間に近づいたアトレスはアルバートの右腕を躊躇なく斬り飛ばした。


「ぐ、がああぁぁっっ!!」


アルバートは痛みから支配力が弱まり、洗脳状態にあった連中がバタバタと次々に倒れていく。

それを見ながらウィーを元に戻す。


「あ、あぁ、あぁっ!」


「タリア、後は任せる」


痛みでうずくまる。アルバートをタリアに任せて、フェリスとウィーを連れてその場を去る。


「レイ」


「タリアを手伝ってくれ」


フィレとニールにそれだけを告げる。



「魔力変換:レイ・ラ・アストレス」


「魔力変換:ミオ・フェリシモ」


ふぅ、と息を吐いた途端にまるで糸の切れた人形のように倒れ込んだ。

それをウィーは優しい瞳で二人の頭を撫でる。


「お疲れさまでした。よく、お眠りになってください」


「これは予想外だ。君が出てくるとはね」


「ご無沙汰しております」


話しかけてきたのはほんの小さな子供の少女、博士。

口に棒付きのアメ玉を舐めながらウィーに話しかける。


「久しぶりだねぇ。どうだい、外は」


「やはり、見るのとでは違いますね。彼のそばにいられる幸せがより実感できます」


「……どうやら限界のようだね」


目を凝らすとウィーの姿が薄くなっていく。

それを自覚していてもウィーは顔を変えずに微笑む。


「私を、そして彼と彼女をよろしくお願いします」


「わかっている。と言いたいけど、その君に僕は嫌われているんだけどね」


「ふふっ。まだ幼いですからね。貴方のような人は信じられませんよ」


「ま、君の頼みだ。聞いてあげるよ」


「聞くだけではなく、ちゃんと実行してくださいね」


「いいよ。僕自身のためでもあるからね」


「また、お会いできることがあれば」


その言葉を最後にウィーは光の球体となって消える。

その球体から妖精が出てきて博士はそれを受け止める。


「……よく、生還したね。約束を守ってくれたことに感謝するよ」



翌朝。

レイは珍しく目を覚ました。


(……音がする)


トントントン。

耳を澄まさなければ聞こえないほどだが、レイはその音によって目を覚ました。

周りを見渡すと見覚えのある部屋。制服とトランクがあるところを見るとどうやら自分の寮部屋のようだ。


(気持ち悪い……)


ひどく気持ち悪い。まだアルバートの戦いの時の魔力が戻っていないのだろう。


(そう言えば、フェリス……ミオは?)


確か一緒にあの場を離れたことは覚えているが、その後の記憶がない。覚えていることと言えば誰かが頭に触れたことだけ。


「誰、だったんだ……」


そう呟いたとき、音が鳴り止んだ。

そしてすぐに部屋の扉が開け放たれる。


「レイ?」


顔を出したのはミオだ。

その顔を見てレイは起き上がる。


「まだ寝てた方がいいよ。昨日の疲れが抜けてないから」


昨日……とすれば、まだ一日しか経ってないのか。それがわかっても二度寝せずに立ち上がるが、足がふらつく。

ミオはふらついているレイをそっと支える。


「だから、寝てないと」


「生きてる」


「え?」


「よかった」


ミオの胸に頭を預ける。心臓の音、それこそ彼女が今生きてそばにいてくれる証。


「レイ」


「ミオ、なんか焦げ臭い」


「え?」


指摘を受けて鼻を動かすと焦げた臭いが漂ってきた。

何かわかったミオは慌てだす。


「あー! 火つけっぱなしだ! ごめんレイちょっと待ってて」


すぐに戻ろうとするが、先にレイを寝床に戻す。

急いで火を消して窓を全開にし、換気扇を回す。

ドタバタという音と「ひゃ~」という悲鳴にも聞こえる声を聞きながらレイは思った。


(何か、落ち着くな)


「レイ、ごはんたべるよね?」


「ん、いただく」


昨日の魔力の消耗が激しい。その所為かウィーを喚び出すことができない。

体を再び起こす。今度はふらつくことはなかった。

予想以上にミオのことを気にしていたようだ。そこでふと気付いた。


「ミオ、ウィーしらな――」


「ひゃ~! ウィーちゃんしっかりしてー!」


『はうぅぅっ……』


何をしているのかはハッキリした。ウィーは料理を手伝っていたのだ。しかし、先ほどの臭いを直接に嗅いだのと熱気にやられた所為で目を回している。

先ほどのミオの悲鳴はウィーが気絶したときのものだろう。


「レイどうしよー!?」


慌てふためくミオを横目にウィーに近づく。

じっとウィーを見て気づいた。


「ミオ……」


「レイ、何かわかったの?」


「目を回すって比喩じゃなかったんだな」


「ウィーちゃんの心配して~!」


ほんの少しずつではあるが、彼女との関係は取り戻しつつある。

例えほんの少しでも途中で諦めなければ元の関係に戻ることも夢じゃない。

それに、これもまた彼女との思い出となるものだ。だとしたら、悪くはない。

まだすべて終わったわけではないが、戻りつつある日常をレイ(アトレス)とミオ(フェリス)は少しだけ楽しむのだった。

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