風 ⅩⅩⅤ
ⅩⅩⅤ 風VS風
「ま、だ……まだ、死ねない!」
土と水の混合魔法で作った濁水をクッションにして致命傷は逃れることができた。しかし――
「この状況で身動き出来ないなら、死んだも同然だよね」
足をやられた。瓦礫におし潰されていないことは幸いだったが、かなり酷い傷だ。この足では逃げることはおろか、立ち上がるのも困難
「そうだ。この力を試してみようか」
アルバートは自分の指に填められているリングをかざす
「これ、何かわかるかな?」
「……………」
アルバートの問いには答えずに、少しずつ、少しずつ魔力を練る
残りは少ない。勝てる可能性は無に等しい
(今、相打ちに持ち込めばレイは助かる)
「無視とは、酷いよねぇ……。ま、いいか」
アルバートはリングに魔力を送り始める。そこでミオは気づいた。あのリングが何のマジック効果があるのか
それに気づいた時、ミオは驚きとショックで意識が集中せず魔力が霧散してしまう
「か…ぜ……?」
「せいかーい。じゃあ、さようなら」
ミオの体がフワリと浮き上がり、近くの無人の建物の壁を破壊して建物内に吹っ飛ばされる
「あっちゃー。後片付け面倒だな」
アルバートは頭を掻きながら、しまったという顔をしている
とりあえず建物の中に入り、生きているとは思えないがミオの生存確認をする
「さすがに、死んだか」
「確認するなら、得意の雷を使って調べろよ」
後ろから声がして振り向くと、壊れた壁の近くに人影
アルバートは雷のフラッシュを唱えて辺りを明るくすると、そこにいたのは――
「レイ・ラ・アストレス!?なぜ、ここに!?」
ぐったりとしたミオを抱きかかえているレイがそこにいた
「ミオ、大丈夫か?ミオ?」
「……………」
死んではいないが返事もない。気を失っているみたいだ。原因はケガもそうだが、魔力の枯渇が酷いのも一つだろう
レイは小包から指輪を取り出してミオの指に填める。もう一つの指輪は自分に
「守るから。今度こそ、俺はミオ・フェリシモ――フェリスを守るよ」
そして、そっとミオの唇に口づけを交わす
その瞬間、二つの指輪が光り始め二人を包み込む
ミオの流れ出る血が止まる。体の中に魔力を送り込まれてゆっくりと意識を戻し始める
「……レ、イ……?」
「助けに来たよ。フェリス」
「懐かしいね、その名前。……私は、アトレスって呼んだ方がいい?」
「好きな方で――」
「俺を…無視するなぁ!」
アルバートが再び魔道具のリングを通して風を放つ
それを見たレイ――アトレスは避けるでも防ぐでもなく、そのまま風を真正面から受けた。ミオ――フェリスもまた、その攻撃を真っ向から受ける
「この程度で、風を使いこなしたつもり?――魔力変換:アトレス」
「私も、出来る限り手伝う。――魔力変換:フェリス」
攻撃は届いた。当たりもした。なのに、そこには平然と立っているアトレスとフェリス
アトレスは薬ビンを取り出して中身を飲み干す
「さて、フェリス。手伝ってくれるか?昔みたいに」
「アトレスが望むなら、私はどこまでも」
「こんなもん使い物にならねぇじゃねぇか!」
アルバートはリングを指から外して放り投げる
「はっ!見せてやるよ!十二星座が一人〈響鳴の山羊座〉を!」
アルバートの隣に魔法陣が創られる
「出てこい!」
魔法陣が発光する
中から現れたのは、巨大な蝉に似た生物
「鳴き叫べ!」
蝉が翅を震わせる。瞬間、大きな奇怪音がアトレスとフェリスの鼓膜を刺激する
「これ…は!?」
「う、ぁあっ……」
頭が割れそうなほどの奇怪音。思わず耳を塞ぎながら膝をついてしまう
アトレスは風の音すらも聞けないほどだった
「アト…レス……」
フェリスは自分の耳から手を放して、アトレスの耳を塞ぎながら、魔法を唱える
「光を司る音の魔素よ。アトレスに加護を」
優しい声はアトレスの耳に響き渡り、やがてアトレスから奇怪音が消えていった
フェリスは我慢できずに耳から肩に手下がり、その肩に思いっきり力を入れてしまう。その込められる力にアトレスは慌てて魔法を唱える
「風よ、止まれ」
アトレスとフェリスの周りに音というものすべてがなくなった。風を完全に止めたことにより、音がなくなる。それと同時に息もできなくなる
アルバートが何か言っているようだが全く聞こえない
アトレスはこの場所を脱出するためにフェリスを抱く。だが、風が無い分動きが重い。何回かこの状況下での訓練をしたことはあるが今でも慣れない
(速く、しないと……)
今この風の結界を壊したらまたあの不快な音が襲ってくる。だが――
ヴヴヴ……
音が入り込んできた。持続性のないこの魔法では気休め程度にしかならなかった
「くそっ!」
叱咤しながら後ろに飛ぶと同時に結界が壊れる。壁が大きく崩れ落ち、建物が潰れる
間一髪で脱出したアトレスは音が止んだことに気づき、アルバートが死んだかと思ったがすぐにそんな愚かな考えは捨てた
「出てこいよ。派閥はこんな事で死ぬやつじゃないだろ」
「鳴り響け」
アトレスの声に応えるかのように再び音がアトレスたちを襲う、が――
「アトレス、横に跳んで!」
息の荒いフェリスが必死の声で怒鳴る。アトレスは咄嗟に右に跳んで避けるとそこに奇怪な音は入ってこなかった
「やっぱり、フレイ効果」
「フレイ効果?」
「簡単に言えば頭に直接音を鳴り響かせるもの。あれはそれを強くさしたもの」
「行け」
「アトレス、距離を取って」
巨大な蝉が突っ込んでくる
言われたとおりになるべく距離を詰められないように一定を保つ
「考えが甘い。弾ける雷光」
周りの瓦礫が次々と宙に浮かび、二人を囲む
「風がそれを砕く」
アトレスが唱え、瓦礫を次々と破壊していくが
「遅い。響鳴しろ」
蝉が翅を大きく震わせる。瓦礫が壊れ、音が反響。他の瓦礫も砕ける。そして、最終的に行き着くさきは――
「なっ!?」
アトレスは咄嗟にフェリスを投げ飛ばす。フェリスは受け身をとり、何とか無事だったが、レイは音をまともに喰らう
「アトレス!」
フェリスの絶叫が、響く
少し前、レイ達と別れたタリアは一人考え込んでいた
「心配なら助けに行ったらどうだ」
「べ、別に心配してるわけじゃ……。あれよ、そう、学則に反することにならないかが不安なだけ」
先ほどまで精神的に弱っていたレイのことは心配だが、たったそれだけのために同じ生徒会のアルバート・ハイドを全員で襲うのは学則に反する。どうにかしてやりたい気持ちでいっぱいだ。でも、生徒会会長としてそれは許されない
「~~~!」
「ムシャクシャするのは分かるが、落ち着けタリア。生徒の目がある」
「わ、分かってる。分かってるけど~」
頭を抱えてうずくまりたい気持ちになるが、それを堪えているだけまだマシだ
「キツいな。生徒会も……」
一人ボヤくのを見てカナミアは、ふっ、と鼻で笑った。当然、それを見逃すタリアではなかった
「カナミア、今笑ったでしょ」
「気にするな」
「笑わないでよ。私は真剣にレイ君達のこと考えてるんだから」
何かいい方法でもあれば……。そう思っていると、周りの生徒が急にざわつき始めた
生徒の視線の先には滅多に教室棟に来ない学院のトップ、ナターシャ・ファブリスが歩いてくる
生徒はみんな憧れの視線をナターシャに向けている
「タリアか。あのバカを知らないか?」
はて、バカとはいったい……
タリアは首を傾げて考えを巡らせていると、ナターシャが訂正する
「すまん。レイ・ラ・アストレスがどこにいるか知ってるか?」
「いえ、わかりません。学院内にはいないようですけど」
「そうか。見つけたら明日までに私のところまで来るよう伝えてくれ」
「わかりました」
ナターシャが二歩近づき、タリアの耳元に顔を寄せて周りには聞こえないように話す
「それと、アルバート・ハイドを見かけたら逮捕しろ。私の権限で許可する」
「ハイド会長を?」
「情報漏洩で引っ張ってこい。極秘で生徒会全員の部屋を調べたら通信機が出てきた」
「通信機……。わかりました。早急に探し出します」
「ああ、それと」
タリアが行動に移そうとしたらナターシャがニヤニヤしながら付け足す
「総生徒会会長でも、あの趣味はバレるなよ。信用が落ちるぞ」
瞬間、タリアの顔がみるみる赤くなっていく。一緒にいるカナミアはくっくっと喉を鳴らして笑う
「人の趣味にどうこう言うつもりはないが、相部屋がクレアで助かったな」
「そ、それ、どれだけの人が……?」
「安心しろその部屋を調べたのはアインだ」
安心できない……。アイン教員はおっとり、ほんわか教員と見られているが実際は弱みを見せた相手をイジるのが好きな教員
(あぁ……標的にされる)
「それよりも、アルバート・ハイドの件。よろしく頼むぞ」
「は、はい。では……」
今は生徒会会長としてのタリア・シュリアをしなければ。タリアは頭を切り替えた
アインにイジられるのはほぼ決定事項だ。そんな事を気にするよりは目の前の役目を果たす
「学院長。ハイド会長の生死は?」
「生かせ。喋れる程度になら痛めつけても構わん。身体の一部を切ってでも、連れてこい」
「了解。因みに援軍などは?」
「そんなもの必要はない。むしろお前が援軍となるだろう。早く行け。でないと奴は死ぬ」
「わかりました。カナミア、行くわよ」
「心得た」
踵を返して学院校舎の外にでる
「どこを捜すつもりだ」
「勿論、学院敷地内全体。スキル:魔眼」
タリアは目を瞑り、周囲の意識を閉ざし、魔力の糸を出す
(違う。違う。違う)
大勢の生徒や教員、従業員。それらの情報を全て切り捨ててレイ達の居場所を探る
(違う。違う。ちが……ん?)
一瞬何かまったく別の魔力を感じたがすぐに気配が消えてしまった。気になるが、今気にするべきではない
(違う。いた!これは、フィレちゃんとニールちゃん?……レイ君がいない)
「カナミア、フィレちゃんとニールちゃんを見つけたわ。娯楽施設のスラム街」
「うむ。レイ・ラ・アストレスは?」
「見つからない。どこを捜してもいないの」
「では、ミオ・フェリシモの方は?」
「……だめ。どっちも掴めない」
今も学院敷地内の色んな所に飛ばしているのだが、レイの魔力とミオの魔力、両方とも掴めない
因みにアルバートの魔力も掴めないが、それはたまにあるので想定の範囲内だ
「とりあえず、二人と合流しましょ」
「では、行くぞ」
カナミアが人一人分乗れるくらいの大きさに変わる
タリアは背中に飛び乗り、空へと舞い上がる
飛び上がった後もタリアはずっとレイとミオを捜している
やがて、二つの触れたことのない魔力を掴んだ
(この魔力は生徒のものじゃない?でも、そんなはずは……)
「どうした?」
「うん。ちょっとおかしな魔力が――カナミア!」
ちょうどスラム街付近に入ったところで魔法が飛んできた。早めに気づいたから躱せたが今のは明らかに狙った攻撃だ
「降りて。これじゃ的になる」
「うむ」
どこにフィレとニールがいるかもわからない中では下手に空中から攻撃は出来ない
「学院の落ちこぼれで、間違いないでしょうね」
「フィレ・ミューヘズとニールセン・ヴィヴィオの大体の位置は?」
「掴めてる。多分ここら辺にいる」
(七人……いや、狙撃入れて九人、くらいかな?それとフィレちゃんたち)
ホルスターから銃を抜く。タリアが構えると魔力塊が飛んできた
(……練りが甘い。相手に居場所を教えてるだけね)
生徒会会長として言ってはいけないが、やはり、落ちこぼれは所詮、上がってこれない。それほどまでにタリアと相手には差が出来ている
「カナミア、狙撃役は任せていいかしら?」
「うむ。承知した」
カナミアの翼がはためく。二手に別れたタリアはもう狙撃のことを頭には入れてない。残りは七人。でも、狙うのは一人でいい
壊れかけた建物に入る。そこに敵がいることは既に掴めている。侵入と同時に引き金を引く
最低限の魔力で、確実に相手を倒す
意識は刈り取らない。相手に銃を突きつける
「バンブーの人間よね。答えなさい。誰に雇われたの」
「こ、ここは俺たちのテリトリーだ!勝手に入ってきたのはお前だろ!」
話が通じない。タリアはため息を吐きながら引き金を引く
「質問に明確に答えないと頭を打ち抜くわよ。例え殺しても原生林に投げ込めば行方不明で処理できるもの」
「…………………アルバート・ハイド会長に雇われた。ここに入ってくる奴を足止めしろって」
「他にも二人入ってるわよね?その子達は?」
「知らねえ。さっきまで相手にしてたがどこかに隠れたみたいだ」
「そう。ありがとう。総生徒会会長の命です。すぐに武装解除して学院、又は寮に戻りなさい」
相手が必死に頷くのを見たタリアは建物を出る。これでとりあえず邪魔はなくなった。フィレとニールを捜し出してレイ達を見つければ後は終わる
深いため息を吐くと冷や汗が背中を伝う。先ほどの脅しを実行しなくて助かった
(あんな事する覚悟は、さすがにない。もし、あそこで向こうが逆らっていたら……)
そこまで考えたところで頭を振る。もう終わった。次のことをやろう
「タリア」
「カナミア、お帰り」
カナミアが小さい姿に戻っている。そちらも終わったということだろう
カナミアに相手が武装解除していることを話す
「急ぎましょ。レイ君達を助けなきゃ」
駆け足でスラム街の奥に進む
曲がり角に差し掛かると再びいきなりの火の魔法攻撃
「うそ!?」
全く気づかなかった。魔道具の銃で撃ち落とす
視線の先には誰もいない。詠唱も単唱もなく魔法を撃ち出すことの出来る人は限られているはずだが……
「ニールさん待って下さい!」
反撃しようとしたら聞き覚えのある声。銃口を向けたままじっと見ていると、建物の陰から二人の人物が出てきた
「フィレちゃんにニールちゃん?良かった。ここにいたんだ」
「すいません。思わず敵だと思って攻撃してしまいました」
「……ごめん」
「大丈夫。当たらなかったから」
間一髪だったけど防ぐことは出来た。問題ない
「タリア会長はどうしてここに?」
「私はハイド会長を捕らえにきたの」
「……捕らえる?」
「色々あってね。今はレイ君のところに行こうとしてるの」
「わかりました。では行きましょう。案内します」
「ありがとう。カナミア、お願い」
「心得た。フィレ・ミューヘズ、ニールセン・ヴィヴィオ乗り心地は良くないが我慢してくれ」
フィレとニールはレイの場所を知っているらしい。カナミアを巨大化させて二人を乗せて空へと舞い上がる。フィレの指示に従って翼を羽ばたかせる
目的地に向かっていると――
「「「!!??」」」
三人は感じた。今までに感じたことの無い力
何かが爆発したような力が急に現れた
「カナミア!」
「しっかり掴まれ!」
スピードを上げる。三人はその力の場所に向かう。レイとミオがそこにいるかはわからないが、放っておくわけには行かない




