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風の精(スプライト)  作者: 花一匁
一章 風と学院
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風 ⅩⅧ

ⅩⅧ 元カノ





昼休み、いつもはみんな屋上で昼食をとっているのだが、レイは最近一人で行動していた


『レイ様、今日も会いに行かれるのですか?』


『ん。まだ接触できたわけじゃないから』


『ですが、もう三日ですよ?避けられているのではないですか』


彼女に接触を図ろうとして三日経ったが、いまだに会うことはおろか、見かけることもできないでいる。ここまでくると意図的に避けられていることはレイでもわかった

考え事をしながら適当に歩いていると、いつの間にかレイは学院裏まで来てしまっていた


「何か考え事かい?」


「……………」


「君が望むなら協力してあげるよ?」


「何故ここにいる?帰ったんじゃないのか」


学院内に博士がいることに驚きはない。しかし、こうも当然にいると誰かに見つかってしまわないかと不安になる

博士に限ってそんなミスをするとは思わないが


「言ったはずだよ。僕と君は一蓮托生だと。君がこの学院にいる間、僕はいつでもここに入れるようにするさ」


「普通そこまでするか?」


「勝手に死なれると困るからね。僕はいつでも君をフォローでき、君を殺せる位置にいなければならない」


「ウィーから俺を監視しているんじゃないのか?」


「僕は君に伝えたはずだよ。黄の派閥がいるとね。その幼精が精霊に戻ったら・・・・・・・・・・僕は君を視れなくなる」


その為に学院近く、もしくは学院内に博士は潜んでいるらしい


「いつもはどこにいるんだ?」


「次会ったときに教えるよ。壁に耳あり、だからね」


博士はそう言うと近くの原生林に向かう。学院内だけでなく、学院の敷地には人の手が加えられていない原生林が多く、はぐれの使い魔や守護獣などが住みやすいようにと奥まで立ち入ることは禁止している

はぐれとは過去に召喚された使い魔や守護獣などが召喚主に捨てられるか、召喚主が運悪く学院内で死んでしまい、はぐれとされて原生林に住んでいる


「あ、忘れてた。これを君に渡しとくよ。悩み解決に繋がると思うよ?」


博士はポケットから小物を取り出してレイに投げ渡す。よく見るとそれは二つの指輪であった


魔法指輪マジックリングだよ。試作品だから効果は三日」


「何の効果があるんだ?」


「君が今探してる人の指に填めてあげなよ。じゃあ僕は行くよ。天才に暇はないからね」


何の効果があるのかは教えずに原生林の中に姿を消す


『一体なんでしょうか?』


『博士のことだから、俺を殺すような物はまだ・・渡さないだろう。今はまだプラスに動いてくれるはずだ』


『私はあの人嫌いです。レイ様を玩具おもちゃのように扱うのは許せません』


『でも博士がいなければ、レイ・ラ・アストレスもウィーもこの世には存在していない。あの方には感謝している』


ウィーは原生林を見ながら顔をしかめている

博士がいなければレイと一緒にいることが出来ないことは理解しているが、それでも自分の主人がいいように転がされ、あまつさえ何れ殺すと言われているのだ。いい顔はできない


『!!レイ様、誰か来ます』


(……この、感じは)


「ハイド会長、ミオです。いらっしゃいますか?」


「ミオ?」


「え……レ、イ……?」


やってきたのはレイがずっと探していた人物。ミオ・フェリシモだった

彼女はレイを見たとき一瞬の躊躇いのあと、来た道を逆走する


「待ってくれ!ミオ!」


レイも慌てて後を追う

ミオはレイより足が遅く、腕を簡単に掴まれてしまう


「は、離して!離して!」


「俺のことを忘れたのか?」


「知ってる!貴方はレイ・ラ・アストレス。世界でおそらく唯一の風魔法使いで、ナターシャ・ファブリスの弟子で、私の元相棒……!」


ちゃんと覚えていた。ミオ・フェリシモはレイのことを忘れてはいなかった


「お願いだから、手を、離して」


「ヤダ。この手を離したら、君をまた一人にしてしまう」


「私は……私は、貴方のことが嫌いなの!!」


その言葉を聞いてしまったレイは手の力を緩めてしまう

その隙に手を振りほどき、レイを睨むように見ながら言葉を続ける


「貴方はいつも勝手!今の私があるのは貴方のおかげじゃない!あの時だって、貴方は私を足手まといと言ったから!だから私は、貴方と一緒にいたくない!」

(このまま一緒にいたら、私はまた貴方を傷つけてしまう)


本音を言えば、一緒いたかった。レイが学院にいることを知ったとき、すぐにでも会いに行きたかった。そんな自分の気持ちを押しとどめ、ミオは言葉をぶつける


(あの時言った言葉が、彼女を追いつめてしまった。今更、弁解の余地はないか。でも、せめて……!)


再び無理矢理にミオの手を取り、指にリングを通し、もう一つを自分の指に通した

指輪が光を放ち、それが収まるとジャラ、と五十センチもない鎖が二人を繋ぐ


「なに、これ?」


「知り合いからもらった魔法指輪だ。三日は外れない」


「嘘。でも!」


ミオは指輪に魔力を送り、限界突破オーバーロストさせようとするが逆にどんどん魔力を吸い取られ、魔力の流れを止める


「ミオ、止めた方がいい。たぶん、何をしてもこれは壊れない」


「どういう……」


「ん?」


「どういうつもりなの!?意味分からないよ!!私は貴方が嫌いなの!!それぐらい分かるでしょ!?」


「わかってる!そんな事はわかってる!でも、俺は君が、君のことが――」


「言わないで!」


レイの言葉を無理矢理止める。それ以上聞いてしまうと、その言葉に呑まれてしまう気がしてしまったから。また、レイを傷つけてしまうことになるかもしれないから


「でも――」


「三日!三日だけ、レイと一緒にいる。それで私が心変わりしなかったら、もう私に接触しないで、お願い」


「……断る」


普通は了承するところをレイは断った

この賭は自分には不利だと悟ったためだ

たったの三日であの時失われたものが戻るはずがない


「例え三日経って、ミオが心変わりしなくても、俺は君を探し出す」


「そんな勝手な――」


「この学院に派閥がいる。黄の派閥だ」


「……知ってるよ」


「どういうことだ?」


「だって、私は、黄の派閥に繋がる一人だもの」


ザワッと風が荒々しく吹いた

ミオは辛くて、悲しそうな顔をする。レイは何度も首を横に振り、嘘だと自分に言い聞かせた。しかし、本人からそう言われては嘘だとする事などできるはずもない


「今の私がここにいるのは、彼らのおかげ。私はあの人たちに恩返しするために繋がりを持ったの。ごめんねレイ。裏切ったりして」


「誰だ?一体、誰なんだ?」


「言えないよ。もう私は、レイのそばに居ていい人じゃない。それに、今のレイには仲間がいるじゃない」


フィレとニールとタリアのことを言っていることはすぐにわかった。でもレイからしたら、それは彼女たちの力を利用しているだけにすぎない。仲間などという信頼関係などは一切なかった


「それに、レイは私のこと忘れてたよね?」


否定できずにレイは黙り込む


「レイが決闘をやる前に、一度学院の廊下でぶつかったんだよ?その時、私はレイのことがわかった。でも、そんなはずないって思いこんだの」


廊下でぶつかった時。それはおそらく、生徒会のメンバーに追いかけられていたときの話しだ。あの時レイは、相手の顔をよく確認せずにその場を立ち去った。あの時にちゃんと顔を確認していたら、今と何か変わっていたのだろうか


「君と別れてから、ウィーは変わった」


今までレイの背中に隠れていたウィーが姿を見せる


「その子が、ウィーちゃん?」


最後に見たときと姿が異なり、ミオは驚きの表情を隠せない

レイが新しく契約したのかと思ったが違うようで、レイの横にいるのが精霊であったウィーとは思えないくらい小さな存在になっていた


『今の私では、ミオ様にお言葉を伝えることができないことが残念です』


「なに?」


「ウィーは、ミオと話せないことが残念だってさ」


ウィーの口が動いていたので何を言っていたのか分からず、レイが教える

ミオも少し寂しそうな顔をしてウィーの頭を指でなでる。レイに触れることには戸惑いはあるが、ウィーには特に抵抗もなく触れることができる


「これからどうするつもりなの?」


「とりあえず、どっちかの寮で寝泊まりすることになる。それがダメなら野宿」


「じゃあ男子寮かな。野宿でもいいけど、教員に見つかったら怒られちゃう」


「荷物は?」


「今から娯楽施設に行けば服とか買えるから行こう。レイは娯楽施設に行ったことある?」


「ん。まだ何があるか把握はしてないけど」


「一人で行ったの?」


「タリアと一緒だった」


「そう、なんだ……」


レイが名前を出すとミオは顔をしかめる

どこか落ち込んでいるような様子でレイのことをじっとみる


「なに?」


「え?あ、うん。レイはタリア会長と仲良いんだね。あの人、美人で優しいもんね」


「そうなのか?」


「あの人は凄いよ。レイヴィス学院に入ってすぐに十二星座スターズの称号もらってるんだもん。それから僅か数ヶ月後に生徒会から勧誘を受けて、二年生で生徒会会長兼生徒会総会長。本当に凄い」


「でも……それでも、俺はキミが居てくれれば、それで……」


「ごめん。それには応えられない。私はレイとあまり一緒にいたくない。とりあえず、歩こう?」

(嬉しいよ。嬉しすぎる。その思いに応えたいよ、レイ)


でも、それに応えてしまったらレイをまた傷つけてしまう。それが恐怖で自分から遠ざかり、レイを遠ざける


歩き始めてから二人は特に何も話すことなく、鎖のジャラという音だけが二人の間に流れるただ一つの音だった


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