風 ⅩⅨ
ⅩⅨ 繋がり
娯楽施設に着いたレイは何を買うのかをミオをに聞く
「今日はレイのところに泊まることになるから、寝間着と、たぶん無いと思うから夕飯の材料三日分を買いに」
「女子寮で服取りに行けばいいんじゃないか?」
「そんな事したらレイが色々言われるよ?女子寮は監視が厳しいから。男子寮はそうでもないみたいだしね」
「まるで入ったことある言い方だな」
「え?あ、ち、違うの!友達から!友達から聞いたの!」
必死に言い訳するのを見ながらレイは何も言わずにただ見ていた。それが更に誤解されていると思われたのか、更に強く弁明する
このまま黙ってたら永遠に続けるかもしれないと思ったレイはとりあえず誤解していないことを伝える
「本当に?疑ってない?」
「ん。とりあえずどこか入ろう」
「うん。あ、あそこ!普段服はあそこで買ってるの!」
慌てた風にミオはその店に入っていく
レイも引っ張られないように同じ歩調でミオに続く
「いらっしゃい。……あら、ミオちゃんじゃない。こんな時間に珍しい、授業はどうしたの?」
「諸事情により休んでいます」
「そう。隣の子は……もしかして、彼氏?」
「ち、違いますよ!私たちはそんな関係じゃないです!」
「ふ~ん。でも、授業を休んでもその子と一緒にいたいんでしょ?」
「そ、それは……ちが、います……」
本心とは逆のことを言うのが辛いと感じているミオは隣をチラッと見るが、レイは特に気にした様子はなかった
「あら?あなたどこかで見たことある顔よね」
レイを見定めるように上から下まで何度も往復させた後、どこかで見たことがあるような気がしてレイに問う
「初対面のはずだ」
「レイの場合は人の顔と名前は覚えないから聞いても意味ありませんよ?」
「レイ?……その名前、どこかで……あ!風使いの!」
思い出してスッキリした顔でレイのことを指差し、何度もうなづく
「なるほど!ミオちゃんやエディル君が言ってたのはキミのことかー」
「ミオが……?」
今度はレイが隣を見るとミオはわたわたと慌てだすが、店員の方は色々と自分勝手に察した顔つきになる
「これはこれは、レアが来たねー。エディル君にはもう会った?」
「ん。エディルの知り合いか?」
「まあね。私はシュリ。エディル君と同じ情報屋よ」
エディルと同業者であるシュリがどこまで自分のことを知っているのかが気になり、尋ねてみると首を振り、そこまで情報は無いと言った
「つき合いの長い私にも話してくれないから困ってたのよ。ミオちゃんからも頼まれてたからどうしても欲しかったのに、キミの情報は売れないって変に頑固だったから」
でも、と付け足してミオを見る。ミオは二人から顔を背けて店の中を眺めていたが、耳が真っ赤になっているのを見てシュリはクスクス笑いながら続けた
「自分で会うことができてよかったわー。ミオちゃんがこれからどう頑張るのかも見物よね」
「もういいじゃないですか!!……それより、寝間着を買いに来ました。何かいいのありますか?」
「ごめんごめん。そうねぇ……」
軽めに謝りながらシュリは店の奥へと向かうが、ミオとレイはその後を追わず、その場で待つ
「ミオにも情報屋がいたんだな」
「べ、別にレイを探す為じゃないの!一人だと限界があるから頼ってるだけ」
ミオは必死で言い訳するが、これではレイを探していたことを自分から言ってるようなものだとすぐに気づくが、レイはその事に気づかずに言葉を返す
「分かってる。でも、俺の情報屋と知り合いとはなぁ」
(わかってないよ、バカ……)
「エディルさん、だっけ?どんな人なの?」
「半年前くらいに俺が助けた奴だ。それ以来、破格の値段で俺に情報をくれる。たまにタダでくれたりもするな」
へぇ、と相づちを打ちながら話を聞いているとシュリが何着か服を持ってきた
「一応、三着くらい持ってきたけどどれがいい?」
得意の営業スマイルで持ってきたものをミオに見せるが、それを見た途端に顔が引きつった
「着ぐるみと浴衣とランジェリー♪」
「浴衣はまだいいですけど、最初と最後のおかしいとは思いませんか?」
「着ぐるみの寝間着を買おう」
『レイ様……いえ、何でもないです』
ミオが抗議し始めると同時にレイが勝手に選んだ
ウィーは何か言おうとしたようだが、ため息と呆れを零し、何を言っても無駄だと長年一緒にいた経験がそう告げ黙り込んだ
「他にはどんな種類がある?」
「今はこのネコと、後はイヌの奴だけ。順々に入荷していく予定だけど、こっちはそこまで売れ行きがよくなくて、ごめんなさいね」
「ん。構わない。ミオ、はどっちがいい?」
「あ、もう着ぐるみの寝間着で決定なんだ。そうだなぁ、ネコにしようかな」
その後は早かった
他の二着は特に話題に触れず、ネコの着ぐるみパジャマをレジに持って行き、レイが自分からお金を出した。その際にミオが、自分で出す、と言ったが断固としてレイはそれを譲らなかった
店を出た後は特に会話もなく普通に夕飯の買い物を済ませて男子寮のレイの部屋の前まで来た
「そういえば、レイの相部屋の人に許可取ってないけど大丈夫かな?」
「問題ない。この部屋、他いないから」
今さらと思いながらもそれを聞くが、特に呆れたりもせずに返してきた
意図があったかどうかは知らないが、一人とあらばこちらとしても都合がよかった
白い光のことがバレたりしたらそいつを殺さなければならなくなる
あの子の秘密は絶対であり、その存在を知っているのはレイを抜いて三人。一人はレイヴィス学院学院長兼理事長のナターシャ・ファブリス。もう一人はレイとウィーの命の恩人である博士。そして最後は、今現在レイと一緒にいて、すっかり嫌われてしまっているミオ・フェリシモ
あの子を見せるときはレイが信じてもいいと思った人だけであり、これ以上増やすつもりは無い
因みに、博士とレイが繋がっていることは誰も知らない。それはナターシャとミオも同じことである
寮の部屋に入ろうとしたら中から人の気配を感じ、ウィーを見る
『油断してました。急ぎましょう』
「レイ、どうしたの?」
「ミオ転ぶなよ」
それだけ言って一気に部屋のドアを開け放ち、靴を脱がずに自室に駆け込んだ
ミオはいきなり腕を引っ張られて顔をしかめるが、すぐにバランスを取り戻して、やはり靴は脱がずにレイの後に続く
バンッ、と大きな音を立てて部屋を見渡すが――
「……誰も、いない?」
「ど、どうしたの?」
「いや、誰かいた気配がして」
誰もいない空間をジッと見た後、とりあえず安全確認のために設えてある机に上がり、天井の一角を持ち上げる
ミオはリングで繋がっているので必然的にレイと一緒の体制になる
「レイ、器物破損はさすがにダメだと思うけど……」
「そんなルールは無い」
「いや、常識だよ?」
「ここは常識なんか関係ない。学院の校舎を壊しても注意を受けるだけでペナルティはつかない」
「……それはそうだけど。そういえば、何を探してるの?」
「あった!この子だよ」
「……!その子のこと、まだ気にしてたの?」
「ミオには……もう、関係ないことか……」
「そんなことない!」
「え?」
「だ、だって、その子は……私たちにとって――」
言い終わる前にミオは突然気を失い、レイにもたれ掛かるように倒れる
特に焦りもせず、ため息を吐きながらミオを気絶させた張本人を呆れた風に見る
「博士、何してんだ」
「君の目は飾りかい?僕は機能しているものだとばかり思ってたんだがね。仕方ないから教えてあげるよ。彼女を気絶させたんだ」
「それは見れば分かる。何でここにいるのか聞いてるんだ。……ついでに俺の目は機能している」
「紛らわしい聞き方はしないでほしいね。……僕がここにいる理由は二つ。一つはレイの探している人物を見たかったからさ。でも、そうかい。やはりこの子なのか」
目を細め、愉快そうな笑みを浮かべて間近でミオの顔を見る。もしミオが起きでもしたら、記憶の消去、或いは喋れない状態にしなくてはならない
博士自身はそんな事どうでもいいが、ミオ・フェリシモはキーカードになりうる存在なので、目覚める前に用事を済ませる
「もう一つは、そのリングについて」
二人を繋ぐリングから伸びる鎖を一度見てから博士の話に耳を傾ける
「レイたちにはハッキリと見えるかもしれないけど、当人以外にはその鎖は見えない様になっている。勿論、触れることもできない」
「意味が分からない。どういうことだ」
「頭悪いねぇ。育てた奴を見てみたいよ。つまりだね、それは魔力で出来た鎖ということだ。それに流れているのはレイ・ラ・アストレスの魔力と彼女、ミオ・フェリシモの魔力だ。わかったかい?」
「ん。これを付けている奴にしか繋がれていることは分からないということか」
そういえば、店に入ってからシュリという店員は鎖の話題をしなければ、見ることもしなかった。時々、鎖の擦れ合う音も鳴ったのに気づいた様子はない
おそらくは音も当人達にしか聞こえないのだろう
「便利だろう。着替えとかも実際鎖というものは存在していないから可能だよ。フフ、これを世界に売り出したら面白そうとは思わないかい?」
「そんな事したら博士に誰か接触する可能性があるからやめてくれ」
「……僕を心配してるのかい?」
驚きを含んだ目でレイを見る
別におかしなことを言ったつもりはないが、こう素直に言うのは初めてなので、レイは博士から顔を逸らして続けた
「博士は恩人だから。俺は命を賭けて博士を守る。だって、一蓮托生、なんだろ?」
「アトレス君」
「今の俺は……!?」
博士が違う名前でレイを呼ぶので訂正しようとするが、その前に塞がれる
「嬉しいよ。アトレス君の言葉が聞けてね。この口付けは戒めでも何でもない、純粋なものだ。大切にしておきたまえ」
「……………」
博士は手を振りながら窓から飛び降りるのを、レイは黙ってみていた
コロ……
いつの間にか口の中にアメ玉が入っているのに気づき、レイは頬を僅かに赤く染めながら、口の中に広がる甘みを無意識にゆっくりと味わう
自分の腕の中にいるミオが起きるまでずっとそうしていた




