風 ⅩⅥ
ⅩⅥ 大事な過去
これはまだタリアがカナミアと出会うより少し前の話である
シュリア家で生まれたタリアは幼い頃から色んな人に期待を寄せられ、タリアもその期待に応えるために周りの人の言われたとおりに行動していた
しかし、タリアは自分と同年代の子供が羨ましかった
自分も自由に遊んでみたい。そう思ったことを親に言うと、案の定、許可は出なかった
だが、それでもタリアの外に出たいと思う気持ちは募っていく
タリアは何度か親には内緒で外に出ようとしたが、その度に雇ったメイドたちに見つかり止められ、部屋に連れ戻されてしまう
タリアはどうして自分は外に出れないのか、出ては行けないのかを考えたが、よくわからなかった
タリアは自分の部屋の窓を開け、そこから出ようと考えたがタリアの部屋は三階、とても子供が飛び降りれる高さではない
「外に、行きたいな~」
タリアがそう呟いたとき、タリアの部屋に風が来たと思ったらすぐに出て行ってしまった
今の現象を見たタリアはえ?え?とキョロキョロ部屋を見渡し、窓の外を見たがなにも変化はない
タリアは首を傾げながらゆっくりと窓を閉めた
次の日の夜
タリアはいつものように机に向かって勉強をしていると、窓から音が聞こえた
「?」
窓を開けるがそこには誰も居らず、昨日と同じように首を傾げながら窓を閉めようとするが――
「君?風に願いを乗せたのは」
「!!」
部屋の中から声がして驚いて振り向いく
中にいたのは自分と同じくらいの子供だった
何故か大声を出して人を呼ぼうという気にはならなかった。理由は自分でも分からないが、おそらく同じくらいの子が目の前にいて心のどこかでは喜んでいるのかもしれない
「君だよね?」
「えっと……何のこと?」
「君、外に行きたいって願わなかった?」
「うん、願った」
だからこうして普通に受け答えができてしまう
「君の願いは風に乗って僕まで来た。行こ、外へ」
少年が手を差し出すと、タリアは一瞬躊躇うが少年の手を取った
ぎゅっとしっかり握りしめ、少年は窓枠に足をかけてタリアの方へ向いた
「飛ぶよ」
「飛ぶ?」
少年は三階から飛び出す。手をつないでいるタリアも一緒に外へと飛び出した
落ちると思ったタリアは眼を強く瞑った
「目を開けて」
「……………わぁ!」
少年が耳元で囁く。ゆっくりと目を開けると空を飛びながら街全体を見渡すことができた
「キレイ……」
タリアは自分の部屋から見ている街とは違って見えた
色んな家の光がこんなにも綺麗なものだと知り、タリアは目を輝かせていた
「ねぇ、これって夢かな?」
「どうかな?」
「私、外で遊びたいと思っていただけなのに、こんなに……」
今自分が空を飛んでいることも、外にいることも、全て夢のように思えてしまう
街全体が美しく輝くのを見ながら、タリアは感動して眼から涙を流していた
少年はそれに気づいていたが、タリア自身は泣いているのには気づいてはいないだろう
「上」
「え?」
少年がそう言ったので上を向くと夜空に広がる星がいつもより目の前に映っていた
「すごい……」
「……………」
少年もタリアと一緒に星を眺めていた
こんなにも一度に色んなものが見えてタリアはもう考えることをやめ、ただ今目の前にあるものを脳に焼きつけようと思った。もちろん、少年の顔も……
「時間だ」
「時間?」
タリアが聞き返すが、少年は何も言わずにタリアを部屋に帰して、そのまま立ち去ろうとするがタリアが呼び止めた
「どうしたの?」
「あ、あの、私タリア・シュリア。君の名前は?」
「今の僕に名前はない。じゃあ」
今度こそ去ろうとしたが再びタリアは少年を止めた。しかし、少年は嫌な顔一つせず止まってタリアを見る
「また、会える?」
「風の導きがあればね」
名もなき少年はタリアに言って手を振って去っていった
後日、調べたが少年の使っていた魔法が何かはタリアには分からなかった
どの属性にも分類されない魔法のことを親に聞いたら〈風魔法〉がその一つだと教えてくれた
タリアは名も無き少年が使っていたのは風魔法ではないかと思った
「――というのが、私の過去なんだけど……」
タリアは冷めかけたコーヒーを飲み、レイをチラリと見た
もしかしたらレイ君が、そう思ってレイに話したが、話を聞いていたレイは
「俺以外の風使いか……」
自分以外にも風魔法を使える人がいて驚いているところを見ると、レイ本人ではないのかもしれない
「レイ君は何か知ってる?」
「いや。俺以外に風魔法を使える奴がいる、なんて聞いたことない。おそらくはナターシャも知らないはずだ」
「理事長も?」
「ああ。知ってるなら何かしら俺に言うはずだ。情報屋からもそんな話は聞いてないしな」
風魔法のことを少しでも知りたいと思っているナターシャならレイに何か言ってくるはずだが、そんな話しは一度もしたことがない
こちらの話を盗み聞きしようとしている店員を殴っているエディルからもそんな情報はもらってない
「レイ君、本人だったりは……」
「確かに一時、名がないときはあったが……その頃は誰かが居たからなあ」
「誰?」
「分からない。誰かは分からないけど誰かがいた事だけは確かだ」
「……そう」
記憶の欠如
パズルに例えると完成されたパズルのピースが剥がれて無くなってしまうような事らしい
記憶喪失の場合はここら辺の記憶がない、と曖昧だが、記憶の欠如はここの記憶がない、とはっきり分かることである
「それに、俺なら止まらずに帰るだろうな」
確かに、とタリアは思ったが、風魔法を使えるのは昔に会った少年と目の前にいるチーム“風”のリーダーレイの二人だけである
レイ本人である可能性は消えていない。別の人間、と言う可能性はレイの情報網では零なので、今のところはレイ・ラ・アストレスという少年がタリアが昔に出会った風使いと同一人物である方が現実的にみる方が十分だ
「……忘れてるだけかなぁ……」
「ん?」
「ううん、何でもない」
もし本当に出会っていないならば仕方ないが少しもの寂しい
無意識に口から出していた言葉をごまかす
「そうか。まあ、こっちでも調べてみるよ」
「どこ行くの?」
「この後約束がある。今日は帰る」
レイは立ち上がり、財布からコーヒー代を置いて店から出ていった
タリアはレイが置いていったコーヒー代が多いと思って数えると自分のコーヒー代も含まれていた
「ごちそうさま」
聞こえていないとわかっているが冷めきったコーヒーを口に含みながら笑った
寮へと帰ってきたレイは部屋のドアノブに手をかけようとして止まった
『ウィー』
『はい。すでに来ているようです』
念のためウィーに確認を取ってからドアノブを捻り、ドアを開ける
靴を脱ぎ、リビングに行くと白衣を着た十四歳くらいの子供がイスに座り、現在進行形で何かしている
「やあ、お帰り。アトレス君」
「俺はアストレスだ」
「ああ、そうだったね。それで、身体の調子はどうだい?」
「特に問題はない。博士は何している?」
「この子の調子をちょっとね」
博士と呼ばれた子供はレイが大切にしている白い光を触ったり、つついたりとしながらその時々の反応をメモに取っている
「うん。特に問題はないようだ。君はこの子に名前付けたのかい?」
「必要か?」
「僕に名前の必要性を聞かないでくれよ。名前なんて存在を定義するだけ、何度か言ったはずだよ」
自分から名前を付けろといったくせに。そう思っても口には出さないが、その代わりあからさまなため息を吐いて話題を変える
「それで、何しに来たんだ?」
ここ〈レイヴィス魔法教養養成学院〉には学院長のナターシャから許可がなければならないのだが、白衣を着たレイが『博士』と呼ぶ子供はそんなことはせずに、無断で学院に入り込んでいる気がするが、そこら辺の事ならやってのける奴だ
博士はレイの方に体を向け、ポケットからアメ玉を取り出して、口に放り込む
「ここにどうやって来たかは聞かないんだね」
「博士のことだ。こんな学院に忍び込む事なんて簡単だろ?」
「失礼な奴だね君は。僕は堂々と門から入ってきたよ」
「は?」
「外を見たまえ。面白いものが見られるよ」
レイは博士をチラチラと見ながら寮の窓から外を見る
「まさか、強引に入ったのか?」
学院の教員や生徒、警備員が外を走り回っていた
博士の姿を見たが、すぐに逃げられてしまい現在進行形で探している、といったところだろう
「僕にあんな防犯システムは意味ないからね。堂々と乗り込ませてもらったよ」
学院の防犯システムとは、許可も手続きもなく無断で学院内に入ると身体に気絶するほどの電気ショックが流れるようになっている
「方法は興味ないから聞かない。それで、何しに来たんだ」
「つまらない男だねぇ。……ま、いいか。僕がここに来た理由は、君の『復讐相手』についてのことを教えるためだ。どうだい、嬉しいだろう?」
「奴らの何が分かった?」
「そうだねぇ。一派しかないけど、文句は受け付けないよ」
「構わない。どこの『派閥』だ」
「君が学院に入ってくれたからわかったけど、どうやら〈黄の派閥〉が学院にいるようだ。因みに誰かまではわからないよ」
「それは俺が接触した奴に限るか?」
「それを僕に聞くのかい?僕は妖精を通してしか見れないし、そこからしか調べられない。それは君もよく分かっているだろう?」
「……ウィーが視界に入れたのも数に足したら探しようがない」
今まで見ただけでも既に何百といるのだ。そこから〈黄の派閥〉を見つけだすのは困難としか言いようがない
「じゃあ諦めるかい?」
「まさか。探し出して見るさ」
「そうかい?まあ、勝手にしたまえ。でも、この二点は約束してくれ」
博士はレイの胸ぐらを掴んで自分の方に引き寄せ、レイと口づけを交わす
「君を殺すのは僕だ。僕以外の奴に殺されるのは許さない。そして――」
博士は少し間を置いて続ける
「僕から離れることも許さない。君と僕は一蓮托生。それを忘れないでくれたまえよ」
「わかりました。博士の命に従います」
すでに何度か同じ事をしているので驚きはない
そして毎回同じ内容なのでレイとしては言われなくても分かっているつもりである
「とりあえず伝えたから僕は行くよ」
「そうか。では、気をつけて」
博士は堂々と玄関から外に出る
そんな事されるとレイが疑われると思ったが、その後何時間経っても誰かが訪ねに来ることはなかった




