風 Ⅹ
Ⅹ 放課後の戦い
「……お、おはよう」
「ん」
ニールセンはあまり挨拶になれてないのか、噛みながらもすでに席についているレイに挨拶する。
レイは決闘当日なのに特に緊張した風もなくニールセンの挨拶に頷く。
「……今日、頑張って」
「ん」
「アストレスさん、おはようございます」
「ん」
先ほどからずっと同じ返事しかしないレイをおかしく思ったのか、レイの顔を覗き込む。
「……レイ?」
「アストレスさん?」
『レイ様は寝てるのでそっとしておいてください』
ウィーの言葉はレイ以外には伝わらないが、姿は見えるのでジェスチャーで伝える。
「妖精?」
『レイ様に仕える妖精。名をウィーと申します』
「……レイの守護獣?」
ウィーは自分の言葉が伝わらないのでどうしようかと悩んでいると鐘の音が鳴った。
『レイ様。おはようございます』
「ん。おはよう」
ゆっくりと目を開けるレイ。それを見た二人は何か一瞬違和感みたいなものが過ぎった。
「どうした」
「アストレスさん、昨日は寝ていないのですか?」
「寝たけど…それがなに?」
「いえ、別に」
実際そうではないが睨まれたと思ったフィレは慌てて頭を下げて自分の席に戻る。
ニールセンはレイの隣に座る。
「……その子?」
「ん?ああ、ウィーね。俺の相棒だ」
ウィーはぺこりとお辞儀をするとレイの胸ポケットの中に入る。どうやら学院に入って以来そこがお気に入りのようである。
一時限の授業が終わり、レイは教室からすぐに出る……前にニールセンに呼び止められる。
「……どこ、行くの?」
「さあ?」
レイ自身も目的はあるが特に行く場所は決めておらず、答えになっていない返しをして教室から出ていった。
『レイ様、この後はどうするのですか?』
『とりあえず寝る』
『また寝るのですか?』
『ダメか?』
『いいえ』
胸ポケットの中から出てきたウィーはレイの頭に座る。
通り過ぎていく生徒はレイの頭に乗っかっているウィーを見ている。
『何か注目されてません?』
『ここでは妖精が珍しいんだろ』
欠伸を一つ掻きながらゆっくり寝られそうな場所を探していると。
「欠伸なんてみっともないわよ」
「ん?」
「昨日以来かしら。レイ・ラ・アストレス」
「だれ?」
扇子を閉じたままゆらゆらと揺らしながら話しかけてきた女生徒。顔をみる限りどこかで会っている気はするが、人の顔と名前を記憶する力が低いレイは誰かわからなかった。
「……せ、生徒会のクレア・ルージュよ。思い出してくれたかしら?」
扇子を額に押し当てながら名前を言うが、未だにピンと来ない。
『レイ様、生徒会の方ではありませんか?』
「生徒会? ……あ、第二生徒会の」
「そうよ。第二生徒会会長。クレア・ルージュ」
「なにか用?」
「アルから聞いたわ。今日の放課後、決闘なんですってね」
決闘のことに関してはすでに学院中で話題になっている。
レイは近づき難い雰囲気があるので聞かれることはないが、今頃フィレに話を聞いてる奴は沢山いるんだろうと他人事のように考える。
「アナタの実力、確と見届けさせてもらうわ」
『だそうですが、どうするんですか?』
『別に他人なんかを気にしてる程余裕はない』
「ある程度はやるが相手の実力次第だ」
そう言うとクレア・ルージュの隣を通り過ぎ階段を上っていく。
クレアはレイの方に振り向き一言告げる。
「一応教えておくわ。アナタの実力を知りたい人はタリアよ。彼女はずいぶんとアナタにお熱みたいだったわ」
「ん」
警告か忠告かはわからないが、自分のことを調べているというなら警戒だけはしたほうがいいと判断したレイは振り返ることはせず頷きながら上へと向かう。
リゴーン リゴーン
鐘の音が鳴り響き、レイは目を覚ました。
寝る場所に悩んだ末に結局屋上で寝ることに決めた。
どのくらい眠っていたのかはわからないが体内時計では昼は過ぎている気がした。
正確な時間が知りたいと思ったレイは自分の頭の位置に違和感を感じた。
壁に寄りかかって寝ていたはずなのだがいつの間にか寝ころんでいる。それに、頭の下、つまり枕となるものが柔らかく人の体温を感じる。
「……起きた」
「ニールセン…いつから」
「……昼。レイ、寝てた。寝づらそうだった」
つまり、昼に屋上に来たらレイが寝ていて、傍目から見たら寝づらそうだったからわざわざ膝枕をしてくれた。ということだろう。
「今何時だ?」
「……放課後。あと、呼び方、ニール」
「ん?」
レイは決闘という文字が頭を過ぎったが別にそこまで急ぐ必要性も感じられず、ニールセンの膝からゆっくりと体を起こした。
「……ニールセンじゃなくて、ニール。短い方が、好き」
「ん。ニール」
「……カンペキ」
何がカンペキなのかはいまいちわからないが、いきなりニールと呼ぶことになったレイは自分の相棒の名を呼ぶ。
『ウィー』
『ふぁい、何か御用でしょうか?』
ウィーも寝ていたようで制服のポケットから上半身だけをだらんとした感じで出てきた。
『時間だ。行くぞ』
『わかりました』
「……行くの?」
「約束したからな。参加はするさ」
屋上のフェンスを乗り越え、そのまま飛び降りる。
「え?」
ニールはいつもの口調はどこへやら、驚きで体が止まるが、すぐにフェンスの下を見る。
『ウィー』
『お任せを』
ニールが下を見ると何をしたのかはわからないが、近くの木に着地しているレイがいた。
(……あれが、風。すごい)
さすがに同じことをする自信がなかったニールは一度中に戻ってからグラウンドに向かうことにした。
場所は変わってグラウンド。
放課後の鐘は鳴ったのだが未だに来ていない者が一人いる。まず、対戦相手であるティテック・ファイゾンとティテックとタッグを組んでいる男子生徒ヴァイル・パルスはいるのだが、レイとフィレのタッグではフィレ・ミューヘズしかおらず、レイ・ラ・アストレスは未だに姿を現さなかった。
「もしかして、やつは逃げたのか?」
「そんなことはありません!」
「だが実際にまだこの場に姿を現してはいないだろう」
「まだ鐘は鳴ったばかりです。少し遅れても仕方ありません」
すでにギャラリーは三人を囲んで見ている。ギャラリーの皆もレイが来ないことに少なからず苛立ちを感じていた。
ティテックも少々イラつきの含んだ声でフィレにいう。
「ハイド会長、いくら何でも遅いとは思いませんか?」
「ん~、まあ少しくらい大目に見ようぜ。この学院に来たばかりなんだから迷ってるかもしれないぜ」
第三生徒会会長のアルバート・ハイドがティテック・ファイゾンに言うと渋々といった様子で引き下がる。
「アイツは逃げたのか?」
「逃げねえよ」
「アストレスさん!」
フィレの後ろにはレイがいつの間にか立っていた。ギャラリーの連中は遅いとブーイングをレイに向けるがレイはそれを無視した。
「遅かったな。レイ・ラ・アストレス」
『!?』
ティテック、ヴァイル、フィレとギャラリー、そして生徒会会長のアルバート・ハイドはその声の主に驚いた。なぜなら声の主はレイヴィス学園理事長ナーシャ・ファブリスだったからである。
レイは睨みつけるような目でナーシャを見る。
「よっぽど暇なんだな」
「学院の教員は優秀だ。暇にもなる」
皮肉の声を簡単に受け流すナターシャにため息を吐く。
「審査は理事長様が?」
「まさか、私はただのギャラリーの一人だよ。ハイド会長、始めて構わない」
「は、はい」
まさかの登場に戸惑いながらレイに特別製の転送石を手渡される。
レイはそれを首に下げ、ティテック・ファイゾンとヴァイル・パルスに向き直る。
「ではこれより、ティテック・ファイゾン&ヴァイル・パルスVSレイ・ラ・アストレス&フィレ・ミューヘズの決闘を開始する! ……では、転移!」
『ディメンション!!』
四人が叫ぶと一斉に学院内にあるどこかの施設に転移された。
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