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第18話④「新たな悩みと大切な人たち」

自宅への帰り道。


サウナを出たユカは、

夜のアストラ・シティを歩いていた。


頬には、

まだ少し熱が残っている。


けれど、

頭の中は妙にすっきりしていた。


隣を飛ぶピコが、

ユカの横顔を眺める。


「今日の活躍を考えると、

もっと浮かれていても

よさそうなんですが」


「え?」


「報告書は大筋で通りました」


指を一本。


「幹部会でのプレゼンも成功」


もう一本。


「さらに、

サクラさんから

ゴーグル導入への支援まで取りつけました」


「うん」


「なのに、

生理データを見る限り――」


ピコが首を傾げる。


「意外と落ち着いていますね」


ユカは、

少しだけ考えた。


「……うん」


歩きながら、

夜空を見上げる。


「結果には、

ちゃんと満足してるよ」


今日一日を思い返す。


前週より増えたアウトプット。


大筋を直されなかった報告書。


幹部たちを前にしたプレゼン。


質問にも、

自分の言葉で答えられた。


少し前の自分なら、

想像もできなかった。


だから。


うれしい。


ちゃんと、

うれしい。


「でもね」


ユカは、

胸元に手を当てた。


「なんだろ」


「はい?」


「“終わったー!”って感じじゃないんだよね」


「どういうことですか?」


「それが分かんないの」


困ったように笑う。


「仕事は、

前よりできるようになった」


「はい」


「ちょっとだけ、

自信もついた」


「かなり、では?」


「そこはちょっとでいいの!」


ピコの訂正を退けて、

また歩き出す。


「でも……」


胸の奥に。


まだ何かがある。


形がない。


名前もない。


けれど、

確かにそこにある。


「モヤモヤするっていうか」


ユカは、

自分でも答えを探すように呟いた。


「次に何をしたいのか、

まだ分かんないんだよね」


壁は、

ひとつ越えた。


けれど。


壁の向こうには、

ゴールではなく――


また別の景色が広がっていた。


***


夜。


自宅のベランダ。


ユカは椅子に座り、

温かいココアを両手で包んでいた。


眼下には、

アストラ・シティの夜景。


高層ビルの灯りが、

地上に散らばった星のように

遠くまで続いている。


ひと口。


甘い。


「……カイへのプレゼント」


カップを見つめる。


「結局、

何がいいんだろ」


セラフィム・シティで。


レンと一緒に考えて。


形に残るものより、

気持ちが伝わるもの。


そこまでは分かった。


でも。


まだ答えは出ていない。


「カイなら、

何を喜ぶかなぁ……」


考える。


そして。


ふと、

別の顔が浮かんだ。


「レン」


名前が、

自然に口から出た。


「今ごろ、

何してるかな」


山に登って。


一緒にご飯を食べて。


話を聞いてもらって。


駅で別れてから、

まだそれほど時間は経っていない。


なのに。


少し気になる。


「…………」


ユカは、

ココアをひと口飲む。


仕事。


カイへのプレゼント。


レンのこと。


考えたいことが、

どんどん増えている。


そして。


その全部を考えているうちに。


もう一人。


どうしても、

思い浮かぶ人がいた。


ユカは、

夜空を見上げた。


「……こんなとき」


小さく呟く。


「ユナお姉ちゃんだったら、

なんて言ってくれるんだろ」


浮かぶ。


やさしい笑顔。


明るい声。


ボードゲームをして、

くだらないことで笑って。


でも。


本当に困ったときには、

声をかけてくれた。


もし今、

ここにいたら。


カイへのプレゼントのことも。


レンのことも。


仕事のことも。


この胸の中にある、

名前のないモヤモヤも。


全部まとめて、

笑い飛ばしながら聞いてくれる気がした。


ユカは、

カップを両手で包み直す。


「……会いたいな」


夜空を見上げたまま。


「お姉ちゃん」


湯気が、

ゆっくり夜へ溶けていく。


仕事では。


少しずつ、

一人前へ近づいている。


でも。


大人になるということは、

できることが増えるだけじゃない。


考えることも。


迷うことも。


会いたい人たちも。


少しずつ、

増えていくのかもしれない。


燈曜日の夜。


ひとつの壁を越えたユカの中に――


新しい悩みが、

芽を出し始めていた。


《第18話・終わり》



次回予告


炎曜日――


初めての給料日と、

大切な人への想い。


仕事もちゃんとやりきって、

全部うまくいくはずだったのに――


突然のバトル。


そして……


落下。


気がついた場所で、

私がもう一度出会ったのは――


一番、

会いたかった人。


“今の自分”って、

どこまで進めてるんだろう。


次回、


『フラグメンツ・オブ・メリオラ〜ユカの旅〜』


第19話

「炎曜日:優しさの欠片」


想いはきっと、

形になる。


その優しさが、

誰かに届くとき――。



※作者の活動報告に各話の設定や裏話などのコメントを書いています。

https://syosetu.com/userblog/list/


※シリーズ第一弾『フラグメンツ・オブ・トゥルース〜最後の投擲』はこちら。

https://ncode.syosetu.com/n8279mq/


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