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第18話②「覚醒のプレゼンター」

完成した報告書を、

ユカはもう一度見直した。


数字。


根拠。


結論。


そして、

自分だけでは判断できない部分。


今回は、


《確認したい点》


《助言がほしい点》


まで整理して、

アランへ送信する。


「……よし」


クリック。


《送信完了》


ユカは椅子にもたれ、

小さく息を吐いた。


「今回は、

聞きたいこともちゃんと書けた」


「質問の設計も、

かなり上達しましたね」


「でしょ?」


少し得意げに笑った。


***


一時間後。


ピコン。


「……!」


送信元――アラン。


前回見た悪夢が、

一瞬だけ脳裏をよぎる。


画面いっぱいの赤字。


増殖する修正コメント。


《ユカ》


《ユカ》


《ユカ》


「…………」


「ユカ?」


「なんでもない!」


首を振って、

返ってきた報告書を開く。


赤字は――ある。


《ここの表現を簡潔に》


《この数値には出典を追記》


《比較条件を脚注へ》


アランらしい修正が、

いくつか並んでいた。


「やっぱり、

ゼロじゃないかぁ……」


少し肩を落とす。


だが。


以前のような、


《構成から見直し》


《論点を整理し直せ》


《結論までの流れが弱い》


という大きな修正はない。


「……あれ?」


「どうしました?」


「これって……

細かいところだけ?」


ピコが確認する。


「はい。

大筋への変更指示はありません」


「……!」


さらに、

アランからのメッセージ。


《細部だけ修正してくれ。

大まかなストーリーはこのままでいい》


「……このままでいいって」


じわじわと実感が湧いてくる。


「やった……!」


以前は、

文章以前に話の組み立てから

何度もやり直していた。


でも今回は違う。


直すのは細部。


土台は――通った。


しかし、

メッセージには続きがあった。


《夕方の幹部会で提案したい》


「へっ!?……」


《ユカ、プレゼンを頼む》


「…………」


思考停止。


「プレゼン!?!?

わ、私が!?」


「来ましたね!」


ピコが勢いよく回る。


「ついに、

《プレゼンター・ユカ》の出番です!」


「ちょ、ちょっと待って!」


「幹部会って、

部長とか所長とかが出る会議でしょ!?」


「その幹部会です」


「アランさんが説明するんじゃないの!?」


「《ユカ、プレゼンを頼む》とあります」


「読めば分かるよ!」


怖い。


緊張する。


でも。


――やってみたい。


そんな気持ちも、

ちゃんとあった。


***


空き時間。


細かな修正を反映したあと、

ユカはピコを相手に練習を始めた。


「今回提案するのは――」


ホログラムに、

現場の映像を表示する。


肉眼では見えない、

データの欠片。


《ピース》。


現在、

データ修復士がピースを探す際には、


特殊な可視化スプレーを

周囲へ噴霧している。


ピースと反応すると、

淡い光が浮かび上がる仕組みだ。


「でも、

広い範囲だと何度も噴霧が必要」


次の資料。


「風が強い場所では

散布効率も落ちる」


さらに。


「消耗品だから、

継続的にコストもかかる」


「では、改善案は?」


ピコが質問役になる。


ユカが画面を切り替えた。


《ピース可視化ゴーグル》


最近、

実用化された新型機器だ。


装着すれば、

周辺のピースをリアルタイムで

視界へ重ねて表示できる。


「これなら、

探索時間をかなり短縮できる」


現在市場に出ているのは、


《ヤガミ社》


《ファイブ社》


《ブラウン社》


の主要三社。


ユカは、


検出精度。


視野角。


重量。


連続使用時間。


価格。


保守費用。


メリット。


デメリット。


すべてを比較表にまとめていた。


「私は、

ファイブ社製を第一候補として提案します」


「価格なら、

ヤガミ社製のほうが安いですよ?」


「でも検出精度に

少しばらつきがある」


「ブラウン社製は?」


「性能は一番高い」


ユカは表を指す。


「ただし重いし、

価格も高すぎる」


「では、

ファイブ社製を選ぶ理由は?」


「最高性能じゃなくてもいい」


ユカは、

はっきり答える。


「必要十分な精度があって、

軽くて、価格も現実的」


にっと笑う。


「今の現場には、

これが一番バランスいい」


ピコが頷いた。


「最適解ですね」


「そういうこと♪」


***


夕方。


幹部会。


長いテーブルを囲むのは、

各部門の部長。


事業所長。


統括責任者。


普段の会議とは、

明らかに空気が違う。


ユカは前方に立ち、

資料端末を握った。


手のひらに汗がにじむ。


アランを見る。


小さく頷いた。


サクラも、

穏やかに微笑んでいる。


「……では、

報告を始めます」


最初の声は、

少しだけ震えた。


「今回、

《ピース可視化ゴーグル》の

導入検討を提案します」


現行のスプレー方式。


その問題点。


ゴーグル導入による時短効果。


消耗品コスト。


現場負担。


順番に説明していく。


話すほどに、

声の震えが消えていった。


「現在、

主要三社から製品が出ています」


比較表を表示する。


「価格ならヤガミ社製」


「検出性能ならブラウン社製」


そして。


「ですが私は、

ファイブ社製を第一候補として提案します」


部長の一人が手を上げた。


「なぜファイブ社なんだ?」


――来た。


想定していた質問。


「はい」


ユカは迷わない。


「現場では、

数時間連続で装着する可能性があります」


重量比較を表示する。


「ブラウン社製は高性能ですが、

重量と価格が課題です」


次にヤガミ社。


「ヤガミ社製は安価ですが、

検出精度にばらつきがあります」


そして、

ファイブ社。


「ファイブ社製は、

最高性能ではありません」


そこで言い切る。


「ですが、

必要十分な精度と軽さ、

導入コストのバランスが最もいい」


別の所長が尋ねる。


「導入効果は、

どう評価する?」


「まず少数導入して、

実証評価することを提案します」


資料を切り替える。


「従来方式と並行使用して、

探索時間と消耗品コストを比較します」


答えながら、

ユカは気づいていた。


怖くないわけじゃない。


でも。


ちゃんと分かっている。


現場で何が困っているのか。


何を変えたいのか。


なぜこれを選んだのか。


――私は、

ちゃんと理解している。


だから。


説明できる。


***


会議後。


廊下へ出たところで、

アランが足を止めた。


「ユカ」


「はい!」


「よくやった」


「……!」


「細かな直しはあったが、

報告書の筋は通っていた」


少し笑う。


「現場の課題を、

幹部が判断できる形まで

整理できていた」


「……ありがとうございます!」


「質問への対応もよかった」


その隣で、

サクラも嬉しそうに頷く。


「ふふ。

本当に成長したわね、ユカ」


「サクラさん……」


「それに」


サクラは、

会計室長の顔へ戻った。


「ゴーグル導入には、

予算と調達手続きの整理が必要になるわ」


「やっぱり、

そこが大変ですか?」


「もちろん、

提案したからすぐ買えるわけじゃない」


でも、と微笑む。


「現場の効率化につながることは、

今日の説明でよく分かった」


ユカの肩を軽く叩く。


「会計室長として、

最大限サポートするわ」


「……!」


「予算の組み方も、

調達部門との調整も」


少しいたずらっぽく笑う。


「通せる可能性を、

できるだけ上げてみせる」


「ありがとうございます!」


「ただし」


サクラが指を立てた。


「導入効果は、

きっちり数字で出してね」


「はい!」


返事に、

もう迷いはなかった。


みんなに教えてもらった。


支えてもらった。


今も、

次へつなげようとしてくれる人がいる。


でも。


教わったことを考えて。


試して。


失敗して。


また直して。


今日ここまで持ってきたのは――


自分だ。


これは、

みんなが支えてくれた結果。


でも同時に。


私が積み上げてきた、

私の成果でもある。


そこは。


胸を張っていい。


完璧じゃない。


まだ分からないこともある。


それでも今日。


確かに一歩、

前へ進んだ。


そこに立っているのは――


“一人前”へ近づき始めた、

三級データ修復士。


ユカだった。



※作者の活動報告に各話の設定や裏話などのコメントを書いています。

https://syosetu.com/userblog/list/


※シリーズ第一弾『フラグメンツ・オブ・トゥルース〜最後の投擲』はこちら。

https://ncode.syosetu.com/n8279mq/


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