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第18話①「週の始まり燈曜日!」

燈曜日の朝――


また、

新しい一週間が始まる。


ユカは制服の襟を整え、

胸元で揺れるIDタグに目を落とした。


《三級データ修復士》


指先で軽く触れる。


そして、

深呼吸。


「……よし」


鏡の中の自分を見る。


「今日も、がんばろー」


声は明るい。


でも、

先週までのような空回りする勢いではない。


週末にしっかり休んだからなのか。


どこか落ち着いていて、

ほんの少し余裕がある。


「いいテンションですね、ユカ!」


横でピコが、

くるりと回った。


「ふふ。そうかな」


歩き出す。


足取りも軽い。


昨日までと、

同じ自分のはずなのに。


先週とまったく同じ場所には、

もう立っていない。


そんな感覚が、

確かにあった。


***


データ管理省。


自分の席に着くと、

ユカはすぐに作業へ――


入らなかった。


まず、

画面全体を見る。


今日のスケジュール。


締切。


打ち合わせ。


処理すべき案件。


依頼事項。


「…………」


以前なら、

上から順番に手をつけていた。


目の前にあるものから、

ひとつずつ。


でも今日は違う。


頭の中に、

先週聞いた言葉が浮かぶ。


サクラ。


《まず分析。

何ができていて、

何ができていないか。


課題は、必ず具体的に》


ジロウ。


《こだわりと、成果のバランス》


「……よし」


ユカは、

スケジュールを並べ替えた。


重要度。


緊急度。


前後関係。


他の人の作業へ

影響するもの。


先に確認を取っておいたほうが

いいもの。


ただ順番に処理するのではなく。


どう進めれば、

一番効率よく流れるのか。


その準備から始める。


そして、

ぱん、と両手を合わせた。


「段取り八割!」


「いい言葉ですね」


ピコが頷く。


「でしょ?」


ユカは満足そうに笑った。


***


次に確認したのは、

昼から予定されている打ち合わせ。


参加者一覧を開く。


主任。


技術担当。


設備担当。


運用担当。


複数部署の名前が並んでいる。


そこで、

ユカはふと思い出す。


リサの言葉。


《相手が何を気にしているのか。

そこを考えるのも、

ステークホルダーマネジメントよ》


「ピコ」


「はい」


「今日の打ち合わせに出る人たちが、

それぞれ何を気にしそうか」


参加者一覧を指さす。


「整理してみて」


「了解です!」


ピコが光り、

ホログラムスクリーンが展開する。


各参加者の担当。


過去の発言。


関連案件。


懸念事項。


そこから想定される

関心ポイントが一覧になって表示された。


「なるほど……」


ユカが目を細める。


「ホールデン主任は、

回収したデータの保存方法を

かなり気にしてるんだ」


「過去の会議でも、

長期保存時の劣化率について

複数回質問しています」


「じゃあ、

そこ聞かれそうだね」


「可能性は高いです」


「なら」


ユカが指を立てる。


「保存方式ごとの違いと、

データ劣化率の比較結果を

先に準備しておこう」


「了解です」


ピコが、

資料作成を始める。


ユカはさらに考える。


今回の打ち合わせ。


議論を進めれば、

おそらく最後は――


「新しいデータ保存設備を

買うかどうか、って話になるよね」


「その可能性が高いですね」


「だったらさ」


ユカが身を乗り出す。


「候補になる設備を、

先に並べておこうよ」


「性能比較ですか?」


「うん」


指を折る。


「性能」


「はい」


「コスト」


「はい」


「メリット」


「はい」


「デメリット」


「了解です」


ピコが項目を追加していく。


「それと」


「まだありますか?」


「一押しも決めといて」


ピコが止まる。


「一押し?」


「この設備が一番いいと思います、って候補」


ユカは画面を見る。


「理由も一緒に」


「なるほど」


ピコが感心したように上下する。


「単なる比較資料ではなく、

意思決定の叩き台まで

準備しておくわけですね」


「そういうこと♪」


ユカは、

少し得意げに笑った。


目の前の作業だけを見るのではない。


このあと、

何を聞かれるか。


何が問題になるか。


何を決めることになるのか。


その先を想像して、

必要なものを先に準備する。


先週までなら、

思いつかなかった。


たとえ思いついても、

ここまで自然にはできなかった。


でも今は。


それが、

仕事の流れとして見え始めている。


「……なんか」


ユカが小さく笑う。


「ちょっと仕事できる人っぽくない?」


「自分で言います?」


「いいじゃん!」


***


準備が整い、

実際の業務に取りかかる。


画面上に、

複雑な処理フローが表示された。


ここでも思い出すのは、

リサとトモの言葉。


《一人で抱え込まない。

チームを信じて、頼る》


「……ここは」


ユカの指が止まる。


以前なら。


自分で何とかしようと、

そのまま考え続けていたかもしれない。


でも。


「マキ先輩」


近くの席へ声をかける。


「この処理フロー、

確認お願いしてもいいですか?」


「いいよ。どこ?」


「ここの分岐です。

この条件で進めると、

後段の処理に影響が出そうで」


「なるほどね」


二人で画面を見る。


必要なところだけ相談し、

判断が終われば、

すぐ作業へ戻る。


止まらない。


抱え込まない。


必要以上に、

こだわりすぎない。


気づけば。


仕事が、

驚くほど滑らかに流れていた。


しばらくして。


「ユカ!」


ピコが、

勢いよく飛んでくる。


「速報です!」


「なに?」


「現在のアウトプット量――」


ホログラムに数字が表示される。


「前週比、

十パーセントアップ!」


「……え?」


ユカが目を瞬かせる。


「ほんと?」


画面を見る。


「……ほんとだ」


数字は、

ちゃんとそこにあった。


十パーセント。


ものすごく大きな数字ではない。


世界を変えるような成果でもない。


でも。


ユカの口元が、

ゆっくり緩んでいく。


「……やった」


派手な達成感ではなかった。


けれど。


確かな手応えがあった。


教えてもらって。


考えて。


やってみて。


失敗して。


また考えて。


少しずつ積み重ねてきたものが――


初めて。


《数字》という形になって、

ユカのところへ返ってきた。



※作者の活動報告に各話の設定や裏話などのコメントを書いています。

https://syosetu.com/userblog/list/


※シリーズ第一弾『フラグメンツ・オブ・トゥルース〜最後の投擲』はこちら。

https://ncode.syosetu.com/n8279mq/


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