第17話④「休みの名残り」
空中列車のボックス席。
ユカは窓際に頬杖をつき、
遠ざかっていくセラフィム・シティを眺めていた。
夕陽に染まった山々。
クレーターの縁に連なる街。
少しずつ灯り始める建物の光。
そのひとつひとつが、
ゆっくりと小さくなっていく。
「なんだかさ……」
ユカが、
ぽつりとつぶやいた。
「夏休みの終わりみたいな気持ち」
向かいに浮かぶピコが首をかしげる。
「それは、
名残惜しいということでしょうか?」
「うん」
ユカは窓の外を見たまま頷く。
「楽しかったぶん、
もう終わっちゃうんだなって思うと」
少しだけ笑う。
「ちょっと寂しいかも」
「でも」
ピコが、
やわらかな声で返す。
「そう感じるのは、
それだけいい時間だった証拠ですよ」
「……そっか」
ユカは目を細めた。
「そうだね」
列車が高架へ滑り出す。
セラフィム・シティが、
さらに遠ざかっていく。
街の灯りは、
夕暮れの中で星屑のように瞬いていた。
胸の奥には、
ほんの少しの切なさ。
それと同時に。
明日からまた、
前へ進めそうな気持ちもある。
――“忘れる時間”があるから。
また、
がんばれるんだ。
仕事を忘れて。
山に登って。
レンと笑って。
何でもない話をして。
そうやって一度立ち止まったからこそ、
今はまた前を向ける。
ユカは、
ゆっくり息を吐いた。
オレンジ色の空。
その中を、
空中列車が静かに進んでいく。
休みの名残りを、
胸の奥に残したまま。
――そのときだった。
「きゃあああっ!」
ユカが瞬きをする。
「……ん?」
続いて、
車両の前方から叫び声。
「レールジャックよ!」
「…………え?」
ユカとピコが、
同時に顔を見合わせた。
「……はい?」
二人は、
そろってボックス席から身を乗り出す。
通路の向こう。
乗務員を人質に取り、
武器を構えた男が立っていた。
見覚えのある構図。
ものすごく、
見覚えのある構図。
ユカは。
深く。
深く。
ため息をついた。
「……行きだけじゃなくて」
額を押さえる。
「帰りも、かぁ……」
ピコが犯人をスキャンする。
「これはもう」
少し考えて。
「運命的な遭遇率ですね」
「ねえ、ピコ」
「はい?」
ユカが、
ものすごく言いにくそう顔をする。
「行く先々で事件に遭遇するってさ」
「はい」
「メガネかけた少年探偵のアニメみたいじゃない?」
「ユカ」
ピコが即答した。
「それ言っちゃダメなやつです」
「だよね」
「はい」
「私も言ってから思った」
通路の向こうでは、
犯人が何かを叫んでいる。
ユカは、
もう一度ため息をついた。
さっきまでの。
山。
夕焼け。
レンとの別れ。
夏休みの終わりみたいな切なさ。
全部が、
どんどん遠ざかっていく。
「……しょうがない」
ユカは立ち上がった。
肩を回す。
首を左右へ傾ける。
そして。
ピコを見る。
「さっさと終わらせよう」
「了解です」
「早く駅弁食べたいし」
「理由が平和ですね」
ピコが、
ユカの横へ移動する。
「最短ルートで制圧しましょう」
「うん」
ユカは通路の先を見る。
「帰りくらい、
ゆっくりさせてほしいんだけどなぁ……」
そうぼやきながら。
それでも足取りは、
まったく迷っていない。
夕暮れの余韻を背中に残し。
ユカとピコの『最強コンビ』は、
再び事件の中へ歩いていく。
それはもう、
世界を救う戦いですらなく。
二人にとっては――
すっかり、
“日常”の一部になっていた。
《第17話・終わり》
***
次回予告
「燈曜日――
新しい一週間と、
一歩先の私。
少しだけ、
うまく回り始めた仕事。
初めて感じた手応え。
そして――
任された“プレゼン”。
ちゃんと、できた。
そのはずなのに。
なぜか胸の奥に、
小さな違和感が残ってる。
整ったはずの心に。
新しく芽吹いた、
この気持ちは――
いったい、
何なんだろう。
次回、
『フラグメンツ・オブ・メリオラ〜ユカの旅〜』
第18話
『燈曜日:覚醒と整いと新たな悩み』
進んだからこそ、
見えてくるものがある。
その先で私は――
何を選ぶ?」
※作者の活動報告に各話の設定や裏話などのコメントを書いています。
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※シリーズ第一弾『フラグメンツ・オブ・トゥルース〜最後の投擲』はこちら。
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