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第16話③「サクラとピコの余計なお世話大作戦!」

改札を抜けたところで、

ユカは思い出したように足を止めた。


「そうだ、レン」


おみやげの袋とは別に、

小さなケースを差し出す。


「これ、セラ博士から。

新しい仮想構造の研究サンプルだって」


「セラ博士から?」


レンはケースを受け取り、

慎重に中を覗き込んだ。


薄い光を帯びた、

複雑な結晶構造。


見た瞬間、

レンの表情が変わる。


「……これは……」


声が低くなる。


視線は、

完全にサンプルへ吸い寄せられていた。


「理論はかなり難解だけど……

噛み砕いていけば、面白いぞ、これ」


さっきまで少し照れていた少年が、

急に研究者の顔になる。


その目は、

子どもみたいに輝いていた。


ユカはそんな横顔を見つめて、

胸の奥がほんのり温かくなるのを感じた。


――レンも、

ちゃんと自分の場所で。


自分の道を歩いてるんだ。


「……なに?」


視線に気づいたレンが顔を上げる。


「ううん。なんでもない」


ユカは笑った。


***


駅を出ると、

レンが一台の車両へ向かった。


セラフィム伝承の光脈駆動車――


〈ルミナライダー〉。


古代の浮遊鉱石と、

現代の駆動技術を融合させた機体だ。


エンジン音らしい音はほとんどなく、

車体がふわりと浮き上がる。


そのまま地面すれすれを、

滑るように走り出した。


「やっぱりセラフィムの技術って、

ロマンあるよね!」


助手席のユカが、

目を輝かせる。


「古いものと新しいもの」


レンは前を見ながら答えた。


「どっちかを捨てるんじゃなくて、

両方を生かす。

それが俺たち一族のやり方なんだ」


「あー、それ分かる!」


ユカが勢いよく頷く。


「セラ博士も、

古民家の中に最新ラボ作ってた!」


「俺たちの族長だからな」


レンが少し笑う。


「“すべてはつながってる”。

昔からそういう考え方なんだよ」


後部座席で、

ピコが音楽に合わせて揺れていた。


「深いですね〜」


「お前、

ほんと何でも感心するな」


「だって」


ピコがくるりと回る。


「歴史×テクノロジー=ロマン、

ですよ?」


「その式、

どこから出てきたの?」


ユカが吹き出す。


そして、

運転するレンを見る。


「でも、レンもちゃんと

その考え方を受け継いでるんだね」


「……まあな」


レンは少しだけ照れたように、

前方へ視線を戻した。


***


都市部を抜けると、

景色が一気に変わった。


深い森。


遠くに連なる山々。


木々の間から差し込む光。


風が開けた瞬間、

澄んだ湖が視界いっぱいに広がる。


「わあ……!」


ユカが身を乗り出した。


「“ザ・自然”って感じ!」


「語彙力」


ピコが即座に突っ込む。


「いいの!

伝われば!」


ルミナライダーが到着したのは、

湖畔のキャンプ場だった。


「まずはテント設営だ」


レンが荷物を下ろす。


「ユカ、そっち持ってくれ」


「了解!」


初めてのキャンプ。


にもかかわらず、

レンの指示は分かりやすく、

ユカの動きも早い。


ポールを組み。


シートを広げ。


ペグを打つ。


想像していたより、

あっさりとテントが完成した。


ユカが腰に手を当てる。


「できた!」


「思ったより早かったな」


「レンの指示が分かりやすいからだよ」


素直に言われて、

レンが少し目を逸らした。


「ねえねえ」


ユカはもう次のことが気になっている。


「このあと何するの?」


「ここ、

アクティビティが結構あるんだ」


レンが湖の方を指さした。


「片っ端からやってみようぜ」


「おー!」


そこからは、

ほとんど休む暇もなかった。


森林の中を駆け抜けるサイクリング。


湖の上を滑るSAP――

空中パドルボード。


最初はふらついていたユカも、

すぐにコツをつかむ。


「レン!

こっちこっち!」


「速すぎるって!」


「追いついてみろー!」


笑い声が、

湖の上を走っていく。


その様子を。


空から一台のドローンが、

しっかり撮影していた。


もちろん――


ピコである。


『……うーん』


レンズ越しに、

二人を見る。


距離は近い。


よく笑う。


一緒にいて自然。


なのに。


『決定打がないんですよね……』


そこで、

ピコの記憶に。


嫌なほど鮮明な、

ある人物の顔がよみがえった。


***


出発前。


ピコはサクラに呼び出されていた。


「いい、ピコ?」


人差し指が、

ビシッと突きつけられる。


「今回のユカとレンのキャンプ」


サクラの目は、

妙に本気だった。


「あなたのミッションは、

ただ一つ!」


「……嫌な予感しかしませんが」


「二人の距離を、

少しでも縮めること!」


「えっ」


ピコが固まる。


「それは、

当人同士の問題では……」


「私はね、

心配してるの!」


サクラは窓の外を見た。


もう、

ピコの話を聞く気はない。


「ユカはマイペース!」


指を一本立てる。


「レンは控えめ!」


二本目。


「この組み合わせで放っておいたら――」


勢いよく、

ピコへ振り返った。


「一生、

“友達以上、恋人未満”よ!」


「はあ……」


ピコには、

いまひとつ危機感が理解できない。


しかし、

サクラは止まらない。


「だ・か・ら!」


顔を近づける。


「あなたしかいないの!」


「えっ」


「二人の背中を、

そっと押すのよ!」


「それは介入では?」


「支援よ!」


「言い換えただけでは?」


「ピコ!」


「は、はい!」


完全に圧で押し切られた。


サクラは満足そうに拳を突き上げる。


「よーし!」


そして宣言した。


「《距離短縮大作戦》――開始よ!」


***


――そして現在。


空を飛びながら、

ピコは小さくため息をついた。


『サクラさん……

思い通りにならないと

気が済まないタイプですね……』


ふと、

アランの顔が浮かぶ。


『恋人のアランさんも、

いろいろご苦労が多そうです……』


とはいえ、

引き受けてしまったものは仕方ない。


ピコはカメラを構え直す。


眼下では。


ユカとレンが、

何も知らずに笑い合っている。


当人たちの知らないところで。


壮大で。


しかも、

かなり余計なお世話なプロジェクトが――


着々と進行していた。



※作者の活動報告に各話の設定や裏話などのコメントを書いています。

https://syosetu.com/userblog/list/


※シリーズ第一弾『フラグメンツ・オブ・トゥルース〜最後の投擲』はこちら。

https://ncode.syosetu.com/n8279mq/


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