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第16話①「再会に向かう夢曜日」

夢曜日の早朝。


アストラ・シティ駅。


透明なドーム越しに差し込む朝日が、

広いプラットフォームを

やわらかな光で包んでいる。


一日の始まりと、

旅立ちの気配が重なる時間。


行き交う人々の声。


列車の発着を知らせる案内音。


その中でユカは、

駅の売店の前に立ち止まっていた。


ガラスケースの中には、

色とりどりのお菓子や雑貨が並んでいる。


「うーん……」


腕を組み、

真剣な顔で考える。


「レン……

甘いもの、好きだったっけ……」


「嫌いではなかったと思います」


横に浮かぶピコが答える。


「ただし、

ユカほどの甘味摂取量ではありません」


「比較対象を私にしないでよ」


ユカは頬を膨らませながら、

ケースの中へ視線を戻した。


しばらく悩んだ末、

ユカが選んだのは二つ。


ひとつは、サクラおすすめの人気店のマカロン。


そして、もうひとつは――


「……あっ」


ユカの目が、小さな額縁に留まった。


絵葉書ほどの大きさの、

風景画が収められている。


描かれていたのは、

どこか懐かしさを感じさせる、

ひっそりとした風景。


派手な色彩も、

目を引くような華やかさもない。


けれど、不思議と目が離せなかった。


それは、静かな風景や孤独を描く

写実主義の画家、

アンドレイ・ワイスの作品だった。


「……これ、いいかも」


ユカは額縁を手に取り、

もう一度、絵を眺めた。


どこか寂しげなのに、

なぜか温かさも感じられる。


そんな不思議な魅力があった。


絵画鑑賞が好きなレンなら、

きっと喜んでくれるだろう。


そう思うと、

ユカの口元に自然と笑みが浮かんだ。


二つの包みを見比べているうちに、

ふと思う。


「……あれ?」


「どうしました?」


「これってさ」


ユカは、

手の中の包みを見る。


「カイのプレゼント選びと

同じなんだね」


「といいますと?」


「“自分があげたいもの”じゃなくて」


マカロン。


絵葉書サイズの絵画。


そして、

まだ決まっていないカイへのプレゼント。


「“相手が何を喜ぶか”を考える」


ユカは、

少し嬉しそうに笑った。


「昨日リサさんが言ってたこと、

さっそく使ってる」


「影曜日の学びが、

夢曜日ですでに実践されていますね」


「えへへ」


胸を張る。


「ちゃんと身についてきたかも」


「非常に良い傾向です」


「でしょ?」


会計を済ませ、

ユカは紙袋を大事そうに抱える。


その足取りは、

朝だというのに軽かった。


今日。


久しぶりに、

レンに会える。


それだけで、

いつもの駅が少し違って見えた。


***


空中列車が、

低い振動音を響かせながら浮上する。


ゆっくりとホームを離れ、

高度を上げていく。


窓の外では、

アストラ・シティの摩天楼が

少しずつ小さくなっていった。


やがて雲の切れ間から、

碧い海が姿を現す。


朝日を反射した水面が、

どこまでもきらめいている。


そんな絶景を前に。


ユカは――


「じゃーん!」


景色ではなく、

駅弁の包みを開いていた。


「《アストラ特製・海と空の二段弁当》!」


得意げに蓋を持ち上げる。


上段には、

海老天と炙りホタテ。


下段には、

淡い青色に透けた空色ゼリー。


海と空を、

そのまま弁当箱へ詰め込んだような

鮮やかな見た目だった。


ピコが上空から覗き込む。


「彩り」


「うん」


「味」


「うんうん」


「コンセプト」


「うん!」


「データ的に見ても、

完成度はかなり高いですね」


「でしょ~?」


ユカは嬉しそうに箸を持つ。


「これが、

列車旅の醍醐味なんだよ」


「目的地へ着く前から

食事イベントが始まるわけですね」


「旅は移動中から始まってるの!」


海老天を一口。


さくっ。


「ん~っ!」


頬が緩む。


次はホタテ。


そしてご飯。


窓の外には、

空と海。


その向こうには、

週末の自由と、

久しぶりの再会が待っている。


ユカは、

いつもより少しだけゆっくり

駅弁を味わった。


***


しばらくして。


ユカは、

向かいのボックス席から

じっとした視線を感じた。


そこには、

若い母親と幼い女の子が座っている。


女の子の目は――


完全に、

ユカの弁当へ釘付けだった。


ユカが海老天を持ち上げる。


視線も上がる。


下ろす。


視線も下がる。


もう一度上げる。


また上がる。


「…………」


ユカは箸を止めた。


女の子は、

慌てて母親の方を見る。


でも、

ちらっ。


また弁当を見る。


ユカの口元が緩んだ。


足元の袋を、

がさがさと探る。


「えーっと……」


そして取り出したのは――


大きなおにぎり。


普通のおにぎりより、

明らかに一回り以上大きい。


「ねえ」


女の子が顔を上げる。


「これ、

《アストラ特製ばくだんおむすび》なんだけど」


ユカは差し出した。


「よかったら、どうぞ」


「えっ……!」


女の子の顔が、

ぱっと明るくなる。


「わあ!

ありがとう!」


両手で大事そうに受け取った。


隣の母親が、

慌てて頭を下げる。


「えっ、本当にいいんですか?」


「大丈夫ですよ」


ユカは笑う。


「お腹減るかなって思って、

いっぱい買っちゃったので」


そう言って、

足元の袋を開く。


おにぎり。


パン。


焼き菓子。


チョコレート。


スナック。


さらに別のおにぎり。


まだある。


ピコが、

袋の中を覗き込んだ。


「…………」


「なに?」


「もはや旅行用の軽食ではなく」


少し考える。


「補給物資ですね」


「ほっといて」


「遭難しても三日は持ちそうです」


「遭難しないから!」


女の子が、

くすくす笑った。


その笑顔を見て、

ユカも笑う。


「あとでさ」


袋から、

小さなお菓子を取り出す。


「これも一緒に食べよっか」


「うん!」


女の子が、

何度も大きく頷いた。


「じゃあ約束ね」


「約束!」


朝の光の中を、

空中列車は進んでいく。


知らない人と、

少しだけ言葉を交わして。


少しだけ食べ物を分けて。


少しだけ笑い合う。


そんな小さな出来事が、

旅の時間をあたたかくしていく。


ユカは再び窓の外を見る。


青い空。


輝く海。


そのずっと先に、

会いたかった少年がいる。


夢曜日。


再会へ向かう朝は、

まだ始まったばかりだった。



※作者の活動報告に各話の設定や裏話などのコメントを書いています。

https://syosetu.com/userblog/list/


※シリーズ第一弾『フラグメンツ・オブ・トゥルース〜最後の投擲』はこちら。

https://ncode.syosetu.com/n8279mq/


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