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第13話③ 「プレゼント・ラビリンス」

職場からの帰り道。


大きな建物の壁面に、

巨大なポスターが浮かんでいた。


《アストラモール 近日オープン!》


ユカが足を止める。


「わあ……でっか!」


ピコが空中でくるりと回る。


「アストラ・シティ最大級の

ショッピングモールですね。

来週、正式オープンのようです」


「楽しみだね!」


ユカはポスターを見上げる。


「オープンしたら、

カイと三人で来よっか」


「賛成です!」


ピコの目が輝く。


「《AIサポートロボ用パーツ専門店》が

あることを期待します!」


「……そんなニッチな店、あるかな?」


期待いっぱいのピコを見て、

ユカは苦笑した。


***


帰りに立ち寄ったスーパー。


ユカは買い物カゴを肘にかけ、

頬に指を当てながら棚を眺めていた。


「うーん……」


ピコが、

そんなユカをじっと見る。


「ユカ」


「ん?」


「無意識に

“主婦のポーズ”を取っています」


「えっ?」


自分の姿を見る。


「あっ、ほんとだ!

いつの間に!?」


二人で笑う。


その直後。


「おっ!」


ユカの目が光った。


「ひき肉安い!

買っちゃお〜♪」


「冷蔵庫には、

キャベツ、ネギ、卵」


ピコが即座に在庫を読み上げる。


「昨日作った

きんぴらごぼうも残っています」


「じゃあ、

玉ねぎと豆腐を追加だね」


「了解です」


長年一緒に暮らしてきた二人には、

献立を決める程度なら、

ほとんど説明もいらない。


完璧なチームワークだった。


***


柔らかなデータ光が流れる通りを抜け、

ユカは家へ帰った。


制服を脱ぎ、

ロングワンピースとレギンスに着替える。


動きやすさも欲しい。


でも、

ちょっとはオシャレもしたい。


そんなユカらしい部屋着だった。


その上からエプロンをつける。


そして、いつもの調子で声を上げた。


「カイー!

キャベツ出してー!」


返事はない。


「…………」


ピコが、

そっと告げる。


「カイは現在、任務中です。

帰宅予定は来週になっています」


「あ……」


ユカは冷蔵庫の前で止まった。


「そうだった」


分かっていた。


朝から、

何度も分かっていたはずなのに。


いつもの癖で、

つい呼んでしまった。


胸の奥が、

少しだけ広く感じる。


「……ま、いっか!」


ユカは自分でキャベツを取り出した。


「今日は私が全部やる!」


***


「いっただきまーす!」


テーブルには、


ご飯。


豆腐とネギの味噌汁。


キャベツの千切り。


きんぴらごぼう。


そして――


巨大なハンバーグ。


ピコがじっと見る。


「ユカ」


「ん?」


「それは一般的なハンバーグではなく、

“デカ盛り”に分類されるサイズかと」


「あはは……」


ユカが頭をかく。


「カイがいるつもりで、

二人分作っちゃった」


「“ドジっ子モード”ですね」


「ドジっ子言うなー!」


笑い声が、

小さな部屋に広がった。


***


食後。


ユカとピコは並んで皿を洗った。


そのあと、

自室にヨガマットを広げる。


照明が少し落ちる。


ユカは脚を伸ばしながら、

ぽつりと呟いた。


「……カイへのプレゼント、

何にしようかな」


ピコの目が光る。


「検索しますか?」


「おっ」


ユカが身体を起こす。


「やってみよう!」


端末を開く。


検索欄に、

ユカが文字を入力した。


《30代 男性 プレゼント》


検索。


次の瞬間。


大量の情報が、

画面いっぱいに表示された。


「おおー!」


ユカが身を乗り出す。


《30代男性が喜ぶプレゼントBEST100》


《絶対に外さないプレゼント50選》


《男性が本当に欲しいものランキング》


《センスがいいと思われる贈り物》


《もらって困ったプレゼント30選》


「いっぱいある!」


「情報量、約八万件です」


「八万!?」


ユカは、

とりあえず一番上を開いた。


「財布……」


次。


「腕時計……」


次。


「革小物……」


次。


「高級お酒……」


次。


「香水……」


ユカの眉が、

徐々に寄っていく。


「カイ、香水つけないよね?」


「カイから香水成分を検知したことはありません」


「じゃあ違う」


スクロール。


《30代男性には実用性重視!》


さらにスクロール。


《実用的なプレゼントは夢がない!?》


「えっ?」


別の記事。


《男性は消耗品をもらうと嬉しい》


その下。


《消耗品は記念に残らないので避けるべき》


「どっち!?」


さらに別の記事。


《迷ったら高級ボールペン》


「カイ、端末で書くよね」


「はい」


《財布がおすすめ》


「キャッシュレスだし!」


《アウトドア用品》


「仕事で野外行くけど、

それプレゼントなの?」


《コーヒー器具》


「あ、これはいいかも!」


ピコが即答する。


「カイはすでに主要器具を所有しています」


「だよねー!」


さらに検索する。


《30代男性 育ての親 プレゼント》


検索結果が、

さらに混沌とする。


《父親が喜ぶプレゼント》


《恋人への贈り物》


《上司へのギフトマナー》


《夫への誕生日プレゼント》


「待って待って待って!」


ユカが頭を抱える。


「カイって、

どのカテゴリーなの!?」


ピコが解析を始める。


「育ての親。

仕事上の先輩。

同居人。

師匠。

保護者。

共同生活者――」


「増やさないでー!」


さらに画面には、


《予算別》

《年齢別》

《趣味別》

《関係性別》

《もらって嬉しい》

《実はいらない》


大量の候補が流れ続ける。


「もう無理!」


ユカが端末を閉じた。


「情報ありすぎ!」


ピコも、

ぴこぴこと明滅する。


「検索範囲を絞りますか?」


「いや!」


ユカは、

びしっと指を立てた。


「やっぱり、

みんなの意見を聞く!」


「ヒアリング方式ですね」


「うん!」


ユカは笑った。


「カイのこと知ってる人に聞いたほうが、

絶対早い!」


「非常に合理的です」


「よーし!」


ヨガマットの上で、

拳を握る。


「明日から、

カイへのプレゼント大調査だー!」


「おー!」


ピコも、

小さな腕を上げた。


カーテンの向こうでは、

アストラ・シティのデータ光が

夜の街を流れている。


ユカの初給料まで、

あと少し。


そして――


プレゼント探しの迷宮は、


どうやら、

始まったばかりだった。


《第13話・終わり》


***


次回予告


「一生懸命がんばっても――

うまくいかない日だって、ある。


ダメ出しされた報告書。


空回りしてる気持ち。


段取りの見直し。


朝の集中タイム。


でも――


一人じゃないって、

気づいた。


ピコの言葉。


サクラさんの分析。


セラ博士の“忘れる時間”。


“がんばる”って、

なんだろう。


次回、

「フラグメンツ・オブ・メリオラ〜ユカの旅〜」


第14話

「宙曜日:みんながくれたありがたいヒント」


その答えは――


きっと、

日常の中にある。」



※作者の活動報告に各話の設定や裏話などのコメントを書いています。

https://syosetu.com/userblog/list/


※シリーズ第一弾『フラグメンツ・オブ・トゥルース〜最後の投擲』はこちら。

https://ncode.syosetu.com/n8279mq/


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