第2話①「略して、私の勘!」
砂煙の舞う道を、ユカとピコが歩いていた。
傾いた電柱。
崩れた建物。
壊れかけのホログラム広告が、風にちぎられながら空を漂っている。
ピコが周囲を見回した。
「ところでユカ。どこに向かっているんですか?」
「んー、テキトー」
「えぇ〜!?」
ピコの声が裏返る。
「こういうことは、もっと計画的にですねぇ!」
「うっさいなあ。わかったよー」
ユカは足元に落ちていた棒を一本拾った。
そして地面に立てる。
「じゃあ、これで決める!」
「まさか……」
ぱっ。
棒から手を離す。
くるりと傾いて――
ぱたん。
ユカは棒の倒れた方向を指さした。
「よし、こっち!」
「不安率、90%」
「大丈夫だよ」
「根拠は?」
「勘!」
即答だった。
ピコの目が細くなる。
「却下します」
「ええっ!? なんで!?」
「“勘”の二文字しか根拠がありませんでしたので」
「違うよ!」
ユカは胸を張った。
「これは、ただの勘じゃない!」
「ほう?」
「十七年間にわたって蓄積された膨大な経験データと、無意識下における超並列直感演算!」
さらに指を一本立てる。
「五感から入力される微細な環境情報を統合し、瞬時に最適解候補を導き出す――」
大きく息を吸った。
「《超高性能・超高精度・自己学習型多次元未来予測統合直感演算システム・ユカスペシャル・マークセブン改》!!」
両手を腰に当て、得意げに笑う。
「略して――私の勘!」
「結局、勘じゃないですか」
「そこは名前に惑わされないで!」
「むしろ長い名前で本質を隠そうとしていますよね?」
「そんなことない!」
「そもそも“勘”と言った時点で、信頼性ゼロ、再現性ゼロ、検証可能性ゼロです」
「ゼロ三つも並べなくていいじゃん!」
ピコは構わず続ける。
「さらにサンプル数n=1。アルゴリズム非公開。本人にも演算過程の説明不能」
「なんか、どんどん信用なくなってる!」
「過去の実績も確認しましょうか?」
「え?」
「“なんとなくこっち”と言って行き止まりへ進んだ事例が三件」
「そんな昔のログ消してよ!」
「重要な学習データです」
「むぅ……」
ユカは頬を膨らませた。
それでも、棒が示した道をじっと見る。
「でも……こっちな気がするんだよね」
「根拠は?」
「だから――」
「超高性能・超高精度・自己学習型多次元未来予測統合直感演算システム?」
ピコが先回りする。
「そう、それ!」
「略して?」
ユカは満面の笑みを浮かべた。
「勘!」
「やっぱり信用できません」
「もう! とりあえず行ってみようよ!」
「はいはい。迷子になった場合は、しっかり記録に残しますからね」
「それは消してーっ!」
そのとき。
ピコン。
ユカの端末に着信が入った。
「あ、サクラさんだ」
メッセージを開く。
《サザン・シティで、カイらしき人物の目撃情報があったの》
「えっ!?」
ユカの表情が変わる。
続きが表示される。
《そこにはジロウがいるから、彼を訪ねてみるといいわ》
「サザン・シティ……」
ユカは端末の地図を確認する。
そして――棒が倒れた方向を見る。
「あっ!」
勢いよく指をさした。
「ちょうどこっちじゃーん!」
ピコが嫌な予感を察したようにユカを見る。
胸を張るユカ。
「さすが、《超高性能・超高精度・自己学習型多次元未来予測統合直感演算システム・ユカスペシャル・マークセブン改》!」
「たまたまです!」
「私の勘、すごくない?」
「たまたまです!」
「二回言った!」
「大事なことなので!」
ユカは楽しそうに笑った。
「よーし! サザン・シティへ出発!」
「まったく、調子いいんだから……」
呆れたような電子音を鳴らしながら、ピコもその後を追う。
砂煙の向こうへ。
二人は笑いながら歩き出した。
※作者の活動報告に各話の設定や裏話などのコメントを書いています。
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※シリーズ第一弾『フラグメンツ・オブ・トゥルース〜最後の投擲』はこちら。
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