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第1話⑤「指輪の継承」

一週間経っても――


カイは戻らなかった。


その間、ユカはカイの端末へ何度もメッセージを送った。


《どこにいるの?》


《いつ帰ってくる?》


《連絡くらいしてよ!》


《ケーキ、まだだからね!》


けれど――


どれにも、既読はつかない。


「もう……!」


ユカは机に突っ伏した。


「カイのケーキが食べたい! 食べたーい!!!」


「ユカ、完全に駄々っ子モードですね〜」


「……今、なんか言った?」


ぎろり。


「いえいえ! データノイズです!」


そのとき、端末が鳴った。


サクラからのメッセージ。


《アランとも話したのだけど、カイから連絡がないの、やっぱり心配だわ》


続けて、もう一通。


《ユカ、お願い。彼を探しに行ってくれない?》


ユカは画面をじっと見つめた。


一週間。


連絡なし。


既読もなし。


さすがに、いつもの仕事とは違う。


ユカは勢いよく立ち上がった。


「決めた!」


「?」


「カイを探しに行く!」


拳を握る。


「それで見つけたら――ホールケーキを5個作ってもらう!!」


「5個!? 胃もたれ率、ほぼ100%です〜!」


「それでも食べる!!」


「そこまでして!?」


ユカの目には、もう迷いはなかった。


***


夜明け前。


まだ街が眠っている時間。


薄暗い部屋で、ユカはバックパックを背負っていた。


着替え。


携帯端末。


データ修復用のツール。


必要なものは一通り入れた。


そして最後に――


テーブルの上を見る。


そこには、ひとつの指輪が置かれていた。


《セラの指輪》。


仮想と現実を操るセラ一族に、代々受け継がれてきた象徴。


族長セラ。


その娘、ユナ。


そしてユナ亡きあと――


指輪は、カイの手へ渡った。


カイは以前、教えてくれた。


この指輪には、セラ一族の能力――《リアライズ》が宿っている。


仮想や想いを、現実へ変える力。


ユカは、カイの机を見る。


使われていない端末。


置かれたままのマグカップ。


まるで、あの日から時間だけが止まってしまったようだった。


ユカは、そっと指輪を手に取る。


ひんやりしている。


それなのに――


どこか人の体温を思わせる、不思議な重さがあった。


(カイが残した、“善とは? 正義とは?”っていう宿題)


まだ答えなんて分からない。


そもそも、何を考えれば正解なのかも分からない。


でも――


(今の私にできる“善いこと”があるとしたら)


指輪を握る。


(それは――カイを探しに行くことだと思う)


ユカは指輪を薬指にはめようとした。


……が。


「……あ、でかい」


指輪が、ぶかぶかだった。


「はい。データ的にも物理的にも、まったく合ってませんね〜」


「うっさいな〜」


指輪を見つめる。


「どうしよう、これ……」


その瞬間――


淡い金色の光が灯った。


「……あれ?」


光が脈打つ。


指輪の輪郭がゆっくりと変わっていく。


まるで――


新しい持ち主を、確かめるように。


そして。


すっ。


指輪が縮み、ユカの指へぴたりと馴染んだ。


「え……」


「見ました!?」


ピコが目を光らせる。


「今、自己最適化しましたよ!」


ユカは何も言えなかった。


自分の左手を見つめる。


金色の指輪。


カイが使っていたもの。


その光が、今は自分の指にある。


視界が少し滲んだ。


「……カイ」


指輪を胸元へ寄せる。


「やっぱり、見てるんだね」


ユカは気づいていなかった。


指輪の内側。


そこに刻まれていた文字が、淡い光を帯びていることに。


【Y2K】


その文字が――


ゆっくりと書き換わる。


【K2Y】


Yuna to Kai。


そして――


Kai to Yuka。


(“カイから、わたしへ”)


たったそれだけ。


たった四文字。


なのに――


(どうして、こんなに温かいんだろう)


胸元のペンダントも、それに応えるように淡く輝いた。


ユカは涙を拭う。


背筋を伸ばす。


窓の外を見る。


夜が終わり、空が薄青く染まり始めていた。


「よし!」


バックパックを背負い直す。


玄関へ向かう。


ピコが後を追った。


「どこへ行くんですか?」


ユカは振り返る。


いつもの笑顔。


「決まってるでしょ」


「?」


「カイのケーキを食べに行くの!」


「えええ!? だから、その目的設定は〜!」


「いいの!」


ユカは玄関の扉を開ける。


朝の光が差し込んだ。


「ケーキを食べながら考えるのが、いちばん“善きこと”なんだから!」


「絶対違うと思います〜!」


ユカは笑いながら、朝焼けの街へ歩き出した。


崩れた高層ビルの隙間。


光の粒――データの残滓が、風に乗って舞っている。


ユカとピコの背中が、少しずつ遠ざかっていく。


それは――


ひとつの《継承》が、


そして新しい旅が、


始まった証だった。


《第1話・終わり》


***


次回予告


「サザンシティ――


そこは、壊れた街と、それでも生きようとする人たちの場所だった。


カイを探してたどり着いた先で、私が向き合うことになったのは――


《データシンドローム》という現実。


誰かを助けたい。


でも、そのたびに削れていく、自分の力。


それでも――私は、止まらない。


ジロウさんの言葉。


街に残る人の記憶。


そして、灯台の光が教えてくれたこと。


“癒す”って、何だろう。


次回、

『フラグメンツ・オブ・メリオラ〜ユカの旅〜』


第2話「サザンシティの光と影」


優しさは、ただ与えるものじゃない。


その意味を知ったとき――道は開ける。」



※作者の活動報告に各話の設定や裏話などのコメントを書いています。

https://syosetu.com/userblog/list/


※シリーズ第一弾『フラグメンツ・オブ・トゥルース〜最後の投擲』はこちら。

https://ncode.syosetu.com/n8279mq/


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