第12話③「旅の終わり」
空中列車の車内。
さっきまでの別れが嘘のように、
ユカはボックス席いっぱいに駅弁を広げていた。
「いただきまーす!」
ぱかっと蓋を開ける。
香ばしく焼けた肉。
色とりどりの野菜。
甘辛いタレの匂い。
ユカの目が、
一気に輝いた。
「おいしそーっ!」
ぱくっ。
もぐもぐ。
「ん〜っ!」
頬を押さえる。
幸せそのものの顔だった。
テーブルの上を漂うピコが、
感心したように言う。
「よく食べますね〜」
「だって、お腹空いてるんだもん」
ユカは箸を止めない。
向かいに座るカイが、
呆れたように眉を上げた。
「おまえな……」
空になっていく弁当箱を見る。
「ユナのところで、
ホールケーキ七個食っただろ」
「あれは別腹!」
「七個が別腹で済むか!」
「甘いものとご飯は違うの!」
「胃袋は同じだ!」
そんなことを言っている間にも、
一つ目を完食。
「ごちそうさま!」
すぐに二つ目を開ける。
「おい待て」
「いただきまーす!」
「聞けよ!」
ピコが、
ぴこぴこと光る。
「非常にユカらしいですね」
「どこが!?」
二つ目も、
あっという間になくなった。
そして。
ユカの手が、
当然のように三つ目へ伸びる。
その途中で。
「あっ」
何かを思い出したように、
顔を上げた。
「ねえ、カイ!」
「今度はなんだ」
「帰りさ」
にこっと笑う。
「サンサーラ・シティと
サザン・シティ、寄ろうよ!」
「……は?」
「サンサーラ・シティでカレー!」
指を一本立てる。
「それから、
サザン・シティでジロウさんの
大盛りラーメン!」
もう一本。
「食べたい!」
「……まだ食うのか!?」
「うん!」
即答だった。
迷いもない。
罪悪感もない。
ただ純粋に、
食べたい。
カイは、
しばらくユカを見つめた。
「……おまえ、
ほんと変わらないな」
「え?」
ユカが首を傾げる。
その顔を見て、
カイは少しだけ笑った。
「いや」
窓の外へ目を向ける。
「それでいい」
「なにそれ?」
「なんでもない」
「えーっ?」
納得できない顔で頬を膨らませながら、
ユカは三つ目の駅弁を開けた。
***
窓の外を、
景色が流れていく。
セラフィム・シティが遠ざかる。
山。
雲。
光のレール。
その向こうには、
この旅で歩いてきた街がある。
サザン・シティ。
サンサーラ・シティ。
セラフィム・シティ。
シャリーア・シティ。
レッド・シティ。
いろんな人に出会った。
いろんな考えに触れた。
自分とは違う善。
自分では理解できない正しさ。
優しさが、
誰かを傷つけることもあった。
正しさと正しさが、
ぶつかることもあった。
自分を犠牲にするだけでは、
誰も幸せになれないことも知った。
誰かに勝つことより、
一緒に助かる道を探すこと。
完璧な答えではなくても、
昨日より少しだけ良い答えを選ぶこと。
そして――
どれだけ違っていても。
相手を、
最初から消してしまわないこと。
ユカは、
窓の外を見つめた。
旅に出る前の自分と。
今の自分。
どこが変わったのか。
自分では、
よくわからない。
でも。
たぶん。
少しだけ。
世界を見る角度が増えた。
そんな気がした。
***
17歳になった私の、
ちょっとだけ長い旅は終わった――
たくさんの人に出会った。
大好きなケーキも食べた。
――大満足だ。
《第12話・終わり》
次回予告
「アストラ・シティ――
旅を終えた私を待っていたのは、
ちょっとだけ大人になった“日常”。
一人前になったはずなのに、
なんだか気持ちは空回り。
それでも――
私は、
がんばることをやめられない。
アランさんの
超厳しい報告書チェック。
初めての給料。
そして、
カイへのプレゼント。
“私らしさ”って、
なんだろう。
次回、
「フラグメンツ・オブ・メリオラ〜ユカの旅〜」
第13話
「翠曜日:オシャレカフェで報告書を書く私、かっけー」
小さな一歩が――
きっと、
明日を変えていく。」
※作者の活動報告に各話の設定や裏話などのコメントを書いています。
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※シリーズ第一弾『フラグメンツ・オブ・トゥルース〜最後の投擲』はこちら。
https://ncode.syosetu.com/n8279mq/




