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第11話③「幸せな寝顔の向こう」

ユカは――


結局、

ホールケーキを七個、

きれいに平らげていた。


残る三個を前に、

少し不満そうに頬を膨らませる。


「むう……もっと食べられると思ったのに……」


カイが、

空になった皿の山を見る。


「……七個食べて言うセリフか、それ」


呆れているのか、

感心しているのか、

自分でも分からない顔だった。


そんな二人を見ていたユナが、

ぱんっと手を合わせる。


「じゃあ、そろそろやろっか?」


「やるって……何を?」


ユカが首を傾げる。


その横で、

カイの眉がぴくりと動いた。


「……ま、まさか」


ユナの笑顔が、

ぱっと輝く。


「じゃんじゃじゃーん!」


高く掲げたのは――


ボードゲームの箱。


「ボードゲーム大会だよー!」


「あっ、やるやるー!」


さっきまでケーキに向いていたユカの目が、

今度は箱へ一直線。


両手を上げて、

即座に参戦を表明した。


カイだけが、

露骨に嫌そうな顔をする。


「おまえら二人とも強いからな……

少しは手加減してくれよ?」


「あら?」


ユナが首を傾げる。


「勝負はいつだって全力よ」


ちらりとユカを見る。


「ねー、ユカ?」


「そうだよねー?」


即答。


「……やれやれ」


カイは頭をかいた。


***


そして――


始まって数分で、

カイは自分の予感が正しかったことを悟った。


「あっ!」


ユナが鋭く指をさす。


「カイ、今のサイコロの振り方、

イカサマしたでしょ!」


「してないって!」


「した!」


今度はユカが身を乗り出す。


「今、目そらしたもん!」


「それの何が証拠なんだよ!」


「カイがウソつく時のクセ!」


「おまえ、いつそんなの覚えた!?」


ユナがサイコロを回収する。


「はい、アウト〜。もう一回」


「なんでだよ!」


「今度は私とユカでちゃんと見てるから」


「ズル禁止〜!」


「だからしてないって!」


二対一。


しかも相手は、

一切の遠慮がない。


そして――


十回勝負の結果。


ユカ、五勝。


ユナ、五勝。


カイ――


ゼロ勝。


「ユナお姉ちゃん、やっぱり強いなぁ……」


ユカが感心すると、

カイが机を叩いた。


「いや、お前ら二人が強すぎるんだって!」


ユナが楽しそうに笑う。


「じゃあ、もう十回やりますかー?」


「うん、やるやるー!」


「勘弁してくれー!」


そう言いながらも、

カイの顔には笑みが浮かんでいた。


けれど。


さすがに疲れが出たのだろう。


「次は絶対……勝つからねぇ……」


ユカはそう言い残し、

そのままソファへ倒れ込んだ。


数秒後。


すぅ……。


規則正しい寝息が聞こえてくる。


カイとユナが、

同時にそちらを見た。


「……寝たな」


「寝たわね」


ユカは、

幸せそうな顔で眠っていた。


***


カイが、

どこか得意げに腕を組む。


「な? 言った通りだろ」


「何が?」


「ボードゲーム強いし、

猪突猛進なところなんて、

ユナそっくりだ」


ユナがくすっと笑う。


「でも時々見せる、

ちょっと小賢しい手はカイそっくりよ」


「小賢しいって言うな」


「褒めてるのよ?」


「絶対違うだろ」


二人は顔を見合わせて笑った。


カイが、

テーブルの上のゲーム盤を見る。


「……また勝負しようぜ」


ユナは、

優しく頷いた。


「うん」


その言葉を口にした時。


ユナの胸を、

何かがかすめた。


「あっ、カイ。そういえばさ……」


「ん?」


カイが、

何気なくユナを見る。


その顔を見た瞬間。


ユナの言葉が止まった。


「……いや」


小さく笑う。


「何でもない」


「何だよ、変なやつだな」


カイも笑った。


けれど――


ユナの心には、

別の光景が浮かんでいた。


かつて見た幻視。


《Analog Mind Café》。


ケーキを食べるユカ。


それを見守る、

カイと自分。


今。


まさにその光景が、

目の前にある。


(……現実になった)


では――


その先に見えたものは?


ユナの表情から、

笑みが消える。


星を覆い尽くす、

巨大な闇。


光が消えていく世界。


すべてが終わる、

その瞬間。


そして。


その中心に立っていた――


一人の影。


(……あれも)


胸の奥が冷たくなる。


(あれも……

現実になるというの……?)


「ユナ?」


カイの声で、

現実へ引き戻された。


「あっ、いやいやいや!」


慌てて笑顔を作る。


「で、この後どうするの?」


「セラフィム・シティへ行く」


カイは、

眠るユカを見る。


「リサたちと合流するよ」


そして、

ユカの髪を優しく撫でた。


「……あの少年にも、

ちゃんと礼を言わないとな」


レン。


ユナにも、

誰のことかすぐ分かった。


「そっか」


先ほどの幻視が、

まだ胸の奥に残っている。


それでも。


今だけは。


この穏やかな時間を、

壊したくなかった。


ユナは、

カイを見つめる。


「ユカを、お願いね」


カイは迷わず答えた。


「ああ」


その時。


ソファから、

小さな声が聞こえた。


「ユナお姉ちゃん……

もう一回勝負だぁ……」


カイが振り返る。


「……寝言か」


ユナは、

思わず笑った。


「……幸せそうな顔」


本当に。


何の不安もないように、

ユカは眠っている。


ユナは、

その隣へ腰を下ろした。


そっと、

ユカの頭へ手を伸ばす。


「あなたはね……」


柔らかな髪を撫でる。


「私たちの一族も、

救ってくれたんだよ」


返事はない。


けれど、

ユカの寝顔は穏やかだった。


「本当に……ありがとう」


カフェの灯りが、

その頬へ優しく落ちる。


ユナは、

しばらくその寝顔を見つめていた。


幸せそうに眠る、

十七歳の少女。


その先に、

どんな未来が待っているのか。


まだ、

誰にも分からない。


ただ今は――


この寝顔だけが、


確かに、

ここにあった。


《第11話・終わり》


***


次回予告


「旅の終わりに知ったのは――

“本当の希望”のカタチ。


正しさじゃなくて、

心からの願いが、

世界を動かしていく。


出会いと別れ。


つながっていく想い。


それから――


ほんのり香る、

ラーメンの匂い?


そして、

ほんの少し成長した私は、


立ち止まらず、

また前へ進んでいく。


次回、

「フラグメンツ・オブ・メリオラ〜ユカの旅〜」


第12話「旅の終わり」


この旅で出会った、

すべての人の優しさに感謝。


その優しさは――

きっと、未来になる。」



※作者の活動報告に各話の設定や裏話などのコメントを書いています。

https://syosetu.com/userblog/list/


※シリーズ第一弾『フラグメンツ・オブ・トゥルース〜最後の投擲』はこちら。

https://ncode.syosetu.com/n8279mq/


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