第9話⑤「リソースの活用」
虚数を、実数へ戻す。
方向性は見えた。
けれど――
どうやって?
その答えは、
まだ見つかっていない。
黒い触手が大地を抉る。
ユカはエクスカリバーを構えたまま、
虚無データを見据える。
その時。
ふいに、
ひとつの記憶がよみがえった。
***
まだカイの《AI何でも屋》を
手伝っていた頃。
ある依頼先で、
故障した業務用AIの修理をしていた。
カイは機械の内部へ腕を突っ込みながら、
後ろへ手を伸ばす。
「ユカ、量子干渉アナライザー取ってくれ」
「はーい♪」
ユカは工具箱を覗き込んだ。
ゴソゴソ。
さらに奥まで探す。
「……あれ?」
「どうした?」
「ないよ?」
カイの手が止まった。
「えっ?」
工具箱を見る。
「今朝、入れたと思ったんだけどなあ……」
頭をぽりぽり掻く。
ユカは頬を膨らませた。
「もう。だから出発前に
確認しようって言ってるじゃん」
ピコが横から口を挟む。
「カイの“あるある”ですね」
「あるあるって言うなよ……」
カイは困ったように笑った。
だが、焦る様子はない。
周囲を見回すと、
そのまま外へ出ていった。
「え? カイ?」
ユカも追いかける。
そこは、
半ば廃墟になった施設だった。
壊れた機械。
古い配線。
使われなくなったセンサー。
カイはその中を歩きながら、
必要そうな部品を次々と拾っていく。
ユカには、
ただのガラクタにしか見えない。
数分後。
「よし」
カイの手には、
見たことのない装置が出来上がっていた。
「……なに、それ?」
「即席の量子干渉アナライザー」
「ええっ!?」
ユカは目を丸くする。
「すご……」
装置を覗き込む。
「何もないところから
作っちゃうなんて……」
顔を上げる。
「カイって、魔法使いみたい!」
カイは少し照れたように笑った。
「何もない、なんてことはないさ」
「え?」
カイは自作の装置へ電源を入れる。
ブウゥゥゥン――
低い起動音が響く。
表示が立ち上がり、
数値が走り始めた。
「ほら」
カイは周囲を見渡す。
「壊れた機械も、
使わなくなった部品も、
見方を変えればまだ使える」
装置を持ち上げる。
「よく見れば――」
ユカを見る。
「使えるリソースは、
必ずある」
その言葉が、
なぜか胸に残った。
「足りないものばかり探してたら、
いつまで経っても始められない」
カイは再びAIの修理へ戻る。
「今あるものを見つけて、
最大限に活かすんだ」
その背中が、
ユカにはいつもより大きく見えた。
***
ドォン!!
爆音が、
ユカを現実へ引き戻す。
黒い触手が、
地面を砕きながら迫ってくる。
「ユカ!」
レンの声。
「わかってる!」
ユカは走る。
岩の裂け目を飛び越え、
そのまま斜面を駆け上がる。
(……そうだ)
カイの言葉が、
頭の中ではっきりと響く。
(足りないものを探すんじゃない)
黒い光線が迫る。
ユカは横へ跳ぶ。
背後の岩が消し飛んだ。
(今あるリソースを見る)
着地。
すぐに走り出す。
(この場にあるもの)
ピコ。
レン。
リサ。
トモ。
セラ博士から託された
《MELIORA》。
リアライズの指輪。
これまで学んできた知識。
そして――
(私の思考)
ユカは胸元のペンダントへ触れる。
虚数を実数へ戻す。
虚部bを0にする。
方向性はもう見えている。
必要なのは、
新しい奇跡じゃない。
(今あるものを――)
迫る触手を、
エクスカリバーで弾き飛ばす。
(組み合わせる)
ユカの視線が鋭くなる。
あの日。
廃材を拾い集め、
必要なものを作り上げたカイのように。
(この場にある全部を使って――)
ユカは虚無データを見据えた。
(虚部bを0にする方法を考える)
もう、
「足りない」とは思わなかった。
仲間も。
技術も。
経験も。
ここまで旅してきた時間さえも。
使えるものは、
すでに自分の周りにある。
(あの日のカイみたいに……!)
ユカの瞳に、
確かな光が宿った。
※作者の活動報告に各話の設定や裏話などのコメントを書いています。
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※シリーズ第一弾『フラグメンツ・オブ・トゥルース〜最後の投擲』はこちら。
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