第9話①「白い花と黒い光」
激しい砂嵐が、赤茶けた大地を覆っていた。
吹き荒れる砂の中、
ユカ、ピコ、レンが地上へ降り立つ。
その正面。
巨大な黒い塊が、
地面を這うようにうごめいている。
液体にも見える。
生物にも見える。
アメーバ状に形を変えながら、
その中心だけが――
ドクン。
ドクン。
まるで巨大な心臓のように脈打っていた。
《絶望の虚無》。
かつてセラフィム・シティすら
飲み込もうとした虚無データ。
上空では、
リサとトモが乗る巨大ドローンが
警戒円を描きながら旋回している。
ユカは黒い巨体を見据え、
右手を掲げた。
「……リアライズ」
指輪が淡く輝く。
「《パラレル・アーカイブ》――
エクスカリバー・ライトエディション!」
光が収束する。
次の瞬間、
ユカの手には純白の聖剣が握られていた。
白銀の刀身が、
砂嵐の中で鋭く輝く。
イヤーデバイスから、
リサの声が飛び込んできた。
『感知範囲に異常エネルギー反応。
ユカ、私たちが援護する。
遠慮せず、思いっきり叩きな!』
「うん。任せて。援護、お願いね」
続いて、トモの声。
『ユカ、くれぐれも無理だけはしないで!』
「ありがとう、トモさん」
短く答える。
こんな状況なのに、
ふと幼い頃の記憶が頭をよぎった。
リサやトモたちに、
誕生日を祝ってもらった日のこと。
あの頃は、
こうして一緒に世界を救うため戦うなんて、
想像したこともなかった。
「虚無データ解析結果、送信します!」
ピコの声と同時に、
ユカとレンの視界へ
ホログラムスクリーンが展開される。
流れていく解析データを確認し、
レンが腕輪を軽くさすった。
「……よし。いくか」
ユカを見る。
「うん」
視線が交わる。
言葉はそれだけで十分だった。
***
二人は同時に地を蹴った。
「援護するよ!」
上空で、
トモの操るドローンが急旋回する。
リサが照準を合わせた。
「そこだ!」
エネルギー弾が撃ち込まれる。
ドォン!!
爆発が虚無データの表面を揺らし、
黒い巨体の動きが止まった。
「今!」
ユカが一気に間合いへ飛び込む。
両手でエクスカリバーを握り、
頭上高く振りかぶった。
白銀の刀身が、
砂塵を切り裂いて輝く。
腰を落とす。
足から腰へ。
腰から肩へ。
全身の力を、
一本の剣へと集める。
「鏡花一刀流――」
踏み込んだ。
「《白百合落花》!!」
白銀の剣が、
上段から一直線に振り下ろされる。
ザンッ!!
黒い巨体が、
縦一文字に切り裂かれた。
遅れて、
斬撃の軌跡から無数の白い光が弾け飛ぶ。
ひらり。
ひらり。
砂嵐の中を舞い落ちる光は、
まるで散りゆく白百合の花弁。
黒一色の虚無の上に、
一瞬だけ白銀の花が咲いた。
「レン!」
「今だ!」
レンが腕輪を突き出す。
圧縮された光が一点へ集まり――
ドンッ!!
《白百合落花》が刻んだ裂け目へ、
光弾が叩き込まれた。
「命中! 連携、完璧です!」
ピコが歓声を上げる。
しかし――
「……え?」
ユカの表情が変わった。
切り裂いたはずの黒い表面が、
不気味に蠢いている。
裂け目の両側から黒い組織が伸び、
互いを求めるようにつながっていく。
数秒もかからない。
白銀の花が咲いた場所は、
何事もなかったかのように塞がった。
「ダメです! ダメージは確認!
でも、再生速度が速すぎます!」
レンが舌打ちする。
「……ただのバケモノじゃねぇな」
黒い巨体が大きく膨れ上がった。
ドクン。
赤黒い光が、
内部を血管のように駆け巡る。
そして――
表面に、
無数の亀裂が開いた。
「……なんだ、あれ」
亀裂の奥から現れたのは、
赤黒く光る球状の構造体。
ひとつ。
二つ。
十。
百。
まるで――無数の“目”。
ピコが叫ぶ。
「高エネルギー反応!」
すべての“目”に、
黒い光が集まり始める。
「来る!」
ユカは指輪を掲げた。
「リアライズ――
《ミラージュ・ウォール》!」
目の前に、
巨大な仮想層バリアが展開される。
直後。
無数の黒い光線が、
雨のように降り注いだ。
ババババババッ!!
「くっ……!」
光線とバリアが激突する。
そのはずだった。
次の瞬間――
ズドンッ!!
黒い光が、
《ミラージュ・ウォール》を
何の抵抗もなく貫通した。
「……えっ!?」
ユカの目が見開かれる。
「ユカ!」
レンが飛び込んだ。
ユカの身体を、
体当たりするように突き飛ばす。
直後。
ズガァン!!
さっきまでユカが立っていた場所へ、
黒い光線が突き刺さった。
瓦礫が一瞬で蒸発する。
「うそ……」
ユカは地面に手をついたまま、
消えた瓦礫を見つめた。
「指輪の力が……効かない……?」
レンも顔を引きつらせる。
「こんなの、直撃したら終わりだぞ!」
その時。
「ユカ! 上です!」
ピコの叫び。
顔を上げる。
無数の“目”が、
再びこちらを向いていた。
赤黒い光が集まる。
第二波。
しかも――
狙われているのは、
倒れたままのユカ。
「まずい!」
レンが走る。
だが、間に合わない。
「ユカぁぁぁーー!!」
ピコの絶叫と同時に、
黒い光線が放たれた。
一直線に、
ユカへ迫る。
避けられない。
そう思った瞬間――
胸元が光った。
「……え?」
ペンダント。
旅立ちの日から、
ずっと身につけていたそれが、
これまで見たこともないほど強く輝いている。
黒い光線が迫る。
そして――
バリバリバリッ!!
「……!」
触れた瞬間。
黒い光が、
跡形もなく消えた。
ユカは呆然と胸元を見る。
レンも目を見開いていた。
「……!? あれは……データバリア!」
ペンダントを凝視する。
「失われたはずの技術じゃ……!」
その時だった。
イヤーデバイスに、
聞き慣れた声が流れ込んできた。
『ユカ、聞こえる?』
ユカの瞳が大きく開く。
「その声は……」
思わず、口元が緩んだ。
「セラ博士!」
セラ一族の族長。
百年に一人と言われる天才科学者。
そして――
ユカにとって、
大好きなもうひとりの育て親。
目の前では、
虚無データが再び蠢いている。
状況は何ひとつ変わっていない。
危険が去ったわけでもない。
それでも。
その声を聞いただけで――
ユカは、
胸の奥に張りつめていたものが
少しだけ軽くなるのを感じていた。
※作者の活動報告に各話の設定や裏話などのコメントを書いています。
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※シリーズ第一弾『フラグメンツ・オブ・トゥルース〜最後の投擲』はこちら。
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