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第7話⑤「ごめん、止まれない」

空中都市へ向かうドローンの内部。


操縦士のすぐ後ろ、二列目にリサとトモ。

その後ろに、ユカとレンが並んで座っている。


操縦席が近いため、リサたちは振り返らない。

ユカに声をかけることもなかった。


低いエンジン音だけが機内に響き、

ドローンはゆっくりと高度を上げていく。


やがて、窓の外に巨大な影が現れた。


《レッド・シティ》。


赤茶けた大地の遥か上空。

雲を押し退けるように、巨大な都市が浮かんでいる。


重厚な機械音。

都市全体から響く、無数の祈りのチャント。


金属と石。

光と影。


人工的に作られた都市のはずなのに、

異様なほど神聖な空気をまとっている。


まるで、都市そのものが巨大な祭壇だった。


ユカは窓に顔を近づける。


(……すごい……)


下から見上げたときとは、

まるで印象が違う。


これほど巨大なものを作って、

いったい何をしようとしているのか。


胸の奥に、言葉にできない違和感が広がっていく。


前の席から、リサが顔だけをこちらへ向けた。


「……もうすぐ着陸だよ」


感情を押し殺したような声。


ユカとレンは小さく頷いた。


***


ドローンは、レッド・シティ中央にそびえる巨大なタワーへ向かっていく。


荘厳な仏閣を思わせる屋根や柱。

その上へ、近未来的な高層構造物が幾重にも積み重なっている。


信仰と技術。


相反するものを強引に融合させたような姿だった。


天を突くほど巨大なタワーは、

近づく者を試すような威圧感を放っている。


ドローンが発着所へ着陸する。


リサは操縦士へ淡々と告げた。


「この二人は、私が案内するよ」


有無を言わせない口調だった。


リサとトモに続き、ユカとレンもタワー内部へ入る。


長い回廊。

壁面を流れる赤い光。

一定間隔で置かれた宗教的な装飾。


それなのに、人の姿はほとんどない。


祈りの回廊を抜け、

四人は人目のない空き部屋へ入った。


扉が閉まった途端――


リサがユカの両肩を掴んだ。


「ユカ……!

なんで、こんなところに来たんだい!」


抑えていた感情が、一気に噴き出す。


「ここは子どもが来る場所じゃないんだよ!

とっとと帰りな!

今なら、まだ引き返せる!」


「カイが……行方不明なの!」


ユカも負けずに声を返した。


リサの表情が変わる。


「だから私は――

ここに来るしかなかった……!」


その直後。


――バンッ!!


扉が乱暴に開いた。


武装した警備兵たちが、次々と部屋へなだれ込んでくる。


「貴様ら! 何をしている!」


ピコがユカの肩から飛び上がる。


「これは、まずいです!」


「うわっ……!

計画がバレた……!」


トモが慌てて警備兵へ向き直る。


リサもすぐにユカの前へ出た。


「ユカ! 今のうちに逃げな!」


「早く行きなさい!」


二人が警備兵へ飛び込んでいく。


ユカはその背中を見つめ、唇を噛んだ。


置いていきたくない。


でも――

ここで立ち止まったら、二人が時間を稼いでくれた意味がなくなる。


「……ありがとう!

リサさん! トモさん!」


ユカは背を向けた。


レンとピコも続く。


三人は怒号と足音を背後に残し、

タワーの奥へ駆け出した。


宗教都市の、その本丸へ。


***


タワー内部の回廊を、

ユカたちは全力で走っていた。


高い天井。


壁と床には、規則正しく光のラインが走っている。


後方からは、複数の足音。


追手が迫っている。


レンが走りながら叫ぶ。


「ユカ!

どこに向かうつもりだ!」


「ピコ!

コア・データの反応、探せる!?」


「了解です!」


ピコのアンテナが伸び、

周囲へ微細なスキャン波を放つ。


数秒後、空中にホログラムが展開された。


複雑なタワー内部の立体構造。


その中央――

まるで心臓のような位置で、

赤い光が明滅している。


「反応あり!

タワー中央部です!」


ユカは地図を見る。


「……そこだ」


迷う理由はなかった。


「ピコ、案内して!」


「こっちです!」


ピコがジェット・ドローン・モードへ変形する。


小さな機体が鋭く加速し、

ユカとレンがその後を追う。


だが、前方の通路に武装した警備兵たちが現れた。


「侵入者だ!」


「囲め! 逃がすな!」


次々と増えていく。


通路を塞ぐように並び、

武器を構える警備兵たち。


レンが顔を引きつらせる。


「……三人対、この人数かよ」


それでもユカは走る速度を落とさなかった。


背後には追手。


前方には警備兵。


それでも――


「……止まれない」


指輪へ力を込める。


「リアライズ――」


淡かった光が、一気に強くなる。


空間に無数のコードが走り、

ユカの右手へ集束していく。


「パラレル・アーカイブ――

《ミョルニル・スパークフォージ》!」


雷鳴が轟いた。


光の中から現れたのは、

巨大なハンマー。


表面を青白い雷が駆け巡り、

激しい放電が通路を照らす。


警備兵たちが身構えた。


「撃て!」


ユカはハンマーを両手で握り、

一気に振り上げる。


「ごめん!」


そして――

力いっぱい振り下ろした。


「でも、目的地までは――

止まれないの!」


轟音。


雷撃が床を駆け抜け、

巨大な衝撃波となって通路を突き抜けた。


「うわあああっ!」


「ぐっ……!」


警備兵たちがまとめて吹き飛ぶ。


武器が床へ転がり、

金属音が連続して響いた。


レンが走りながら目を見開く。


「……すげえ……!」


ユカは振り返らない。


倒れた警備兵たちの間を駆け抜ける。


「ピコ!」


「このまま直進です!」


雷の残光を背に、

三人はさらに奥へ進む。


止まれない。


カイを見つけるまで。


コア・データを取り戻すまで。


この街で何が起きているのか、

自分の目で確かめるまで。


砕けた障害を背後に残し、

三人はタワーの“心臓”へと突き進んでいった。



※作者の活動報告に各話の設定や裏話などのコメントを書いています。

https://syosetu.com/userblog/list/


※シリーズ第一弾『フラグメンツ・オブ・トゥルース〜最後の投擲』はこちら。

https://ncode.syosetu.com/n8279mq/


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