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第6話② 「静かすぎる街」

シャリーア・シティに降り立った瞬間。


ユカは、足を止めた。


「……なんだろ、この感じ」


空気が違う。


いや。

空気そのものではない。


音だ。


人はいる。

通りを歩く人もいる。

店も開いている。


なのに、妙に静かだった。


靴音は規則正しく響き、

人々の会話は必要最低限。


遠くで誰かが笑っていても、

その声さえどこか抑えられているように聞こえる。


まるで――


街そのものが、

「騒ぐな」と言っているようだった。


視線を上げる。


建物は無機質な幾何学模様で統一され、

壁の色も白、灰、淡い青が中心。


看板の高さまで揃っている。


道にはゴミひとつ落ちていない。


店先の商品も、

まるで測ったように並んでいた。


乱れがない。


なさすぎる。


「……なんか、キレイすぎない?」


ユカが小声でつぶやく。


隣を飛ぶピコが、周囲をスキャンした。


「秩序レベル、非常に高いです。第3話のサンサーラ・シティとは完全に対極ですね」


「ピコ、メタ発言やめて……」


レンも端末を開きながら街を見回す。


「確かに、“整ってる”っていうより……」


眉をひそめる。


「“管理されてる”って感じだな」


ホログラム上に交通情報が表示される。


「あー……」


「どうしたの?」


「レッド・シティ行きのバス、もう終わってる」


「えーっ!」


ユカが肩を落とした。


「じゃあ今日、ここで泊まり?」


「ああ。明日の始発だな」


ピコが即座にホテル検索を始める。


「では、宿泊施設を――」


そのときだった。


コツ。

コツ。

コツ。


一定の間隔で近づいてくる足音。


制服姿の監視員が、まっすぐこちらへ歩いてきた。


「失礼します」


声にも表情にも、ほとんど感情がない。


監視員はユカを上から下まで確認する。


「あなたの服装は、肌の露出規定に違反しています」


「……え?」


それだけ告げると、

監視員は踵を返して去っていった。


ユカは呆然とその背中を見送る。


それから、自分の服を見る。


胸元の開いたシャツ。


ヘソだし。


短いボトムスから伸びる脚。


「……これ?」


もう一度、自分を見る。


「これ、ダメなの!?」


ピコが淡々と答えた。


「完全にアウトです」


「“完全に”とか言わないで!」


「シャリーア教の戒律では、女性の肌の露出には厳しい基準があります。現在のユカの服装は、適合率ほぼゼロです」


「追い打ちかけないでよ!」


レンが苦笑する。


「どうする? どこかで服、買うか?」


ユカはしばらく自分の服を眺めた。


そして――


にやっ。


「大丈夫!」


「なんだよ、その顔」


「こういうときのための、ナノデータ繊維でしょ?」


ユカは端末を取り出し、素早く操作する。


「えーっと……」


検索画面をスクロール。


「あった。“シャリーア教・標準衣装”!」


決定。


その瞬間――


ユカの服が光の粒子へとほどけた。


「おおっ!?」


レンが思わず声を上げる。


青白い光が身体の輪郭に沿って走る。


分解。


再構成。


光の粒子が次々と布へ変わり、

腕を覆い、

脚を包み、

身体の線を隠していく。


最後に頭部を覆う布が形成され、

顔の大部分まで包み込んだ。


目元だけが残る。


変身完了。


ピコが満足そうに頷く。


「魔法少女の変身シーンみたいですね」


「魔法少女?」


レンが首をかしげる。


「知らないんですか?」


ピコが逆に驚く。


「いや、知らねえよ」


「人生の三割くらい損してますね」


「そんなにか!?」


ユカは自分の姿を見下ろす。


そして――


「じゃーん!」


くるりと一回転。


ゆったりとした黒い布が、ふわりと広がった。


「どう?」


ピコがスキャンする。


「ニカブですね。現地基準への適合を確認しました」


「ニカブ……」


ユカは布の端をつまみながら、自分の姿を確認する。


「おお〜……」


目が輝いた。


「なんか、忍者っぽくない?」


「そうか?」


「いやいや、仮面ヒーローっぽさもある!」


レンが嫌な予感を覚えた顔になる。


「ユカ。まさか――」


「とうっ!」


ビシッ!


ユカがその場で、

無駄にキレのいい決めポーズを取った。


通りを歩く人々が、

ちらりとこちらを見る。


レンは額を押さえた。


「……なんで楽しんでんだよ」


「え?」


ユカは本気で不思議そうにする。


「だって、せっかく着るんだよ?」


目元だけでも分かるほど、

楽しそうに笑った。


「こういうのってさ――」


軽くウインク。


「楽しんだもん勝ちでしょ?」


そして何事もなかったように歩き出す。


レンは呆れながら、その後を追った。


ピコもふわりと続く。


完璧に整えられた街。


一定の速度で歩く人々。


抑えられた声。


乱れのない景色。


その中を――


ひとりだけ妙に楽しそうな少女が、

軽い足取りで進んでいった。



※作者の活動報告に各話の設定や裏話などのコメントを書いています。

https://syosetu.com/userblog/list/


※シリーズ第一弾『フラグメンツ・オブ・トゥルース〜最後の投擲』はこちら。

https://ncode.syosetu.com/n8279mq/


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