第5話⑥ 「朝日の昇る方へ」
ゴーレムが崩れ落ちる轟音を背に、ユカとレンは遺構を駆け抜ける。
砕けた石段を飛び越え、夜明け前の冷たい空気を切り裂くように外へ飛び出した。
その瞬間。
ババババババ――!!
重く低いローター音が、空気を震わせる。
レンが空を見上げた。
「――ヘリだ!」
教団のヘリコプターが、地面を離れようとしていた。
「待てーっ!!」
ユカが叫びながら駆け出す。
だが、間に合わない。
機体はみるみる高度を上げていく。
そのとき。
「……え?」
ユカの足が止まった。
ヘリの後部ドアが開いている。
激しい風に煽られながら、そこから外を見下ろす二人の人物。
見間違えるはずがなかった。
リサ。
そして――トモ。
「……うそ……」
喉から、かすれた声が漏れる。
「リサさん……トモさん……?」
胸の奥が冷たくなる。
ヘリはさらに上昇していく。
二人の姿が、少しずつ小さくなる。
「……知り合いなのか?」
レンの問いに、ユカはすぐには答えられなかった。
ただ、遠ざかっていくヘリを見つめる。
やがて、握りしめた拳を震わせながら口を開いた。
「……昔、一緒に戦ってた仲間」
そして。
「私を……育ててくれた人たち」
レンが目を見開く。
ユカの頭の中に、過去の光景が次々と浮かぶ。
笑っていたリサ。
ふざけていたトモ。
何も持っていなかった自分を迎え入れてくれた人たち。
それが今――
シン統治教のヘリに乗っている。
「でも……なんで……」
ユカは呟く。
「どうして、教団に……」
答えは返ってこない。
ヘリだけが、夜明け前の空を遠ざかっていく。
レンが奥歯を噛みしめた。
「くそ……!」
拳を強く握る。
「もう迷ってる暇はない」
ユカが振り向く。
レンは、ヘリが消えていく方角を睨んでいた。
「教団の本拠地――レッド・シティだ」
ピコがすぐに航路データを展開する。
「ヘリの進行方向も、レッド・シティ方面と一致しています」
「……やっぱりか」
レンの声に、迷いはなかった。
「行くしかない」
ユカはもう一度、空を見上げた。
リサとトモがいる。
なぜ教団にいるのか。
自分たちの敵なのか。
それとも――何か理由があるのか。
何もわからない。
胸の中には、痛みも、迷いも、混乱もある。
それでも。
「……うん」
ユカは前を向いた。
「行こう、レン!」
レンが頷く。
ユカは一歩踏み出す。
「あの人たちを――」
拳を握る。
「それから、奪われたコア・データも取り戻す!」
ピコが二人の横へ飛んでくる。
「次の目的地、レッド・シティですね」
「うん!」
東の空が、ゆっくりと白み始めていた。
暗闇の向こうから光が差し込み、遺構の輪郭を照らしていく。
夜が終わる。
けれど、ユカたちの戦いは終わらない。
むしろ――
ここから始まる。
ユカは朝焼けの向こうへ消えたヘリを見つめた。
そして、その先へ向かって歩き出した。
《第5話・終わり》
次回予告
「シャリーア・シティ――そこは、秩序が行き過ぎた街だった。
服装、食事、信仰。
決められたルールの中で、それでも人は“正しさ”を巡ってぶつかり合う。
全体を救うか。
目の前のひとりを救うか。
正しい答えなんて、ひとつじゃない。
そして、ユカが出会った言葉――“メリオラ”。
それは、“もっと良い方”を選び続けること。
……まあ、本人はケバブ食って、美術館ではしゃいでるけどな。
次回、
『フラグメンツ・オブ・メリオラ〜ユカの旅〜』
第6話「正しさの対立」。
そして夜――
俺にとって最大の試練が始まる。
頼むから――せめて寝かせてくれ」
※作者の活動報告に各話の設定や裏話などのコメントを書いています。
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※シリーズ第一弾『フラグメンツ・オブ・トゥルース〜最後の投擲』はこちら。
https://ncode.syosetu.com/n8279mq/




