第5話⑤ 「Re:リアライズ」
片腕を失ったデータ・ゴーレムが咆哮する。
赤い光が激しく明滅し、残った腕を振り回す。
ユカはクサナギを低く構えた。
「私が撹乱する!」
レンを見る。
「その間に、エネルギー弾をチャージして!」
「ああ!」
返事は短い。
迷いはなかった。
ユカが駆け出す。
右へ。
左へ。
大きく踏み込み、クサナギを振る。
白銀の斬撃が飛ぶ。
ゴーレムが腕で弾く。
今度は逆方向。
「ほら、こっち!」
ユカがさらに斬撃を放つ。
狙っているのは、本体ではない。
視線。
重心。
攻撃の向き。
片腕を失ったゴーレムは、ユカを追って身体を何度もひねる。
背後ではレンの腕輪にエネルギーが集まり始めていた。
「あと少し……!」
ユカがさらに走る。
「鬼さん、べろべろばーっ!」
「だから、鬼さんじゃなくて、ゴーレムさんだって言ってるのに……!」
ピコの声を無視して、ユカは床を蹴る。
ゴーレムの拳が空を切った。
その衝撃が、レンの背後にある石柱を直撃する。
ミシッ。
レンが振り返る。
「……まずい!」
亀裂が走る。
次の瞬間。
ガガガガッ!!
巨大な石柱が崩れ落ちた。
「レン!」
瓦礫がレンの身体を押さえ込む。
「ぐっ……!」
腕を抜こうとするが動かない。
ゴーレムの赤い光が、すぐに標的を切り替えた。
倒れているレンへ向かう。
「くそっ!」
巨大な拳が持ち上がる。
その真下。
逃げられないレン。
「ユカ!」
レンが叫ぶ。
「俺はいい! 今のうちにヤツを倒せ!」
ユカの足が止まる。
レンを助ける。
それとも――。
ゴーレムを倒す。
ほんの一瞬だけ迷う。
そして。
「やだ!」
「……はァ!?」
ユカは走り出した。
「何言ってんだ!」
「だって!」
クサナギを握りしめる。
「“win-win”を目指すんだ!」
レンの目が見開かれる。
「お前……こんなときまで……!」
「こんなときだから!」
ユカは迷わない。
敵を倒す。
レンも助ける。
どちらかを捨てるなんて選ばない。
「両方やる!」
そのとき。
ピコが崩れた柱を走査する。
「ユカ!」
「なに!?」
「柱の支点を使えます!」
AR上に構造図が表示される。
「テコの原理です!」
ユカの目が輝いた。
理解する。
「サンキュー、ピコ!」
走りながら指輪を掲げる。
「リアライズ!」
空間が歪む。
仮想層から巨大な質量体が実体化した。
ゴーレムではない。
ただ重い。
それだけの巨大な塊。
ユカが腕を振る。
「そこ!」
質量体が落下する。
ドンッ!!
崩れた柱の端へ直撃。
その反対側が跳ね上がった。
「うわっ!」
押さえ込まれていたレンの身体が解放される。
同時に。
ユカは跳ね上がった柱を踏み台にした。
「よっ!」
勢いを殺さず駆け上がる。
「ユカ!?」
柱の先端。
ユカが蹴る。
身体が宙へ飛び出した。
髪が舞う。
クサナギの刀身が月光のように輝く。
地上ではレンが転がりながら体勢を立て直す。
腕輪を見る。
チャージ――完了。
「今だ!」
最大出力。
レンの腕輪から、巨大なエネルギー弾が放たれた。
ドォォォォン!!
光が遺構を貫く。
ゴーレムの胸部へ一直線。
「入りました!」
ピコが叫ぶ。
しかし。
ゴーレムが咆哮した。
「オォォォォン!!」
巨体を強引に捻る。
エネルギー弾が胸部をかすめ、そのまま壁へ激突した。
大爆発。
「そ、そんな……!」
ピコが息を呑む。
だが。
レンだけは笑っていた。
「……いや」
ゴーレムが避けた方向を見る。
そこに――。
ユカがいた。
空中。
体を捻りながら、クサナギを振りかぶっている。
レンが口角を上げる。
「避けるのも、想定通りか」
ゴーレムが初めて反応に遅れる。
レンの攻撃は倒すためではなかった。
逃げ道を決めるため。
そして。
その先にユカがいる。
「――チェックメイト!」
ゴーレムが残った拳を突き出した。
空中では避けられない。
巨大な拳が迫る。
それでもユカは止まらない。
クサナギを横へ構える。
脳裏に浮かぶ。
幼いころから何度も教え込まれた剣筋。
足の運び。
重心。
呼吸。
そして――。
セラ博士の声。
『力で斬ろうとしないの。剣の先にあるものまで、まとめて斬るつもりで振りなさい』
ユカの目が細くなる。
「鏡花一刀流――」
クサナギが高く澄んだ音を放つ。
キィィィーン――。
白銀の光。
その周囲に、淡い桜色の粒子が集まっていく。
「奥義――!」
ユカが腰を捻る。
横薙ぎ。
クサナギを一気に振り抜いた。
「《桜花断空》!!」
白銀の斬撃が飛ぶ。
その軌跡を追うように、花弁が舞った。
迫っていたゴーレムの拳。
腕。
胸部装甲。
すべてを一直線に切り裂く。
ズバァァァァン!!
斬撃は胸部中央へ到達した。
赤く輝くコア。
亀裂。
そして――。
ガァァァン!!
コアが砕けた。
「オォォォォォ……!」
ゴーレムの全身から黒いデータ粒子が噴き出す。
赤い光が消える。
巨大な身体が崩れ始めた。
腕。
肩。
胸。
脚。
次々と輪郭を失い、光の欠片になって散っていく。
ユカは空中で身体を回転させる。
クサナギを引く。
そして――。
タンッ。
石床へ軽やかに着地した。
背後で。
データ・ゴーレムが完全に崩れ落ちた。
「……やった」
ユカが振り返る。
ピコが勢いよく飛んでくる。
「やったー!!」
ユカの周囲をぐるぐる回る。
「ユカ! レン! すごいです! 完璧な連携でした!」
「でしょ?」
ユカは得意げに笑う。
その向こう。
レンは崩れた柱の横に座り込んでいた。
「レン!」
ユカが駆け寄る。
手を差し出す。
「大丈夫?」
レンはその手を見る。
そして苦笑した。
「……お前、マジで無茶苦茶だな」
「お互い様でしょ?」
ユカが笑う。
レンも、その手を取った。
立ち上がる。
ユカはふと、薬指を見る。
指輪は淡い光を残していた。
その光に触れる。
(ありがとう……ユナお姉ちゃん)
胸の奥で、そっとつぶやく。
でも。
さっきまでとは少し違う。
ユナに教えてもらった力。
セラ博士に教えてもらった剣。
ピコの助言。
レンとの連携。
全部を借りた。
それでも最後に選び、動いたのは――。
自分だった。
ユカはクサナギを握り直す。
受け継いだ力を。
自分なりのやり方で使う。
それがきっと――。
私の《リアライズ》。
ユカの瞳にはもう、
誰かの戦い方ではない。
確かな“自分の戦い方”が宿っていた。
※作者の活動報告に各話の設定や裏話などのコメントを書いています。
https://syosetu.com/userblog/list/
※シリーズ第一弾『フラグメンツ・オブ・トゥルース〜最後の投擲』はこちら。
https://ncode.syosetu.com/n8279mq/




