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第4話⑥「ひとりじゃない」

レンは盤面を見つめたまま、しばらく動かなかった。


やがて立ち上がり、修復した指輪をユカへ差し出す。


「ほら」


「……!」


ユカは両手で受け取った。


薬指にはめる。


淡い光が走った。


以前のような不安定な明滅ではない。

力強く、澄んだ輝き。


「戻ってる……」


ユカの顔がほころぶ。


「ありがとう、レン」


「ああ」


レンは短く答えた。


「もう協力は求めない」


ユカを見る。


「俺は、俺が正しいと思うことをやる」


昨日までと同じ言葉。


けれど、そこにあった頑なさは少しだけ薄れていた。


ユカはそんなレンを見つめる。


「そっか」


目を閉じる。


そして突然――くるりと回った。


「じゃあ――」


びしっ、とレンを指さす。


「私はあなたの仲間になるわ!」


「……は?」


レンの思考が止まった。


「だから、“協力”とか“利用”とか、そういうのじゃなくて」


今度は親指を立てる。


「“対等のパートナー”として!」


「……え?」


レンの顔が固まる。


わずかに頬が赤くなり、視線が横へ逃げた。


その様子を見ていたピコが、ぼそり。


「……また複雑なフラグを立てましたねえ」


「あれ?」


ユカが首を傾げる。


「私、変なこと言っちゃった?」


「いえ。ユカはそのままでいてください」


「なにそれ?」


本人だけが、何も理解していなかった。


***


ユカの表情が変わる。


「ねえ、レン」


「なんだ」


「教えて」


まっすぐレンを見る。


「あなたが、本当にやろうとしてること」


レンは答えなかった。


視線を店の奥へ向ける。


薄暗い棚。

古びた機械。

修復を待つ遺物。


やがて、低い声で言った。


「……シン統治教だ」


ユカの眉が動く。


「教団が、どうしたの?」


「やつらは、この街の“心臓”を狙ってる」


「心臓……?」


レンがユカを見る。


「“コア・データ”」


「……っ!」


ピコが反応した。


「コア・データを、ですか!?」


ユカが振り返る。


「ピコ、知ってるの?」


「はい」


ピコの声から、いつもの軽さが消える。


「セラフィム・シティの中心部。その地下深層に封印されているとされる、特異データ群です」


「データ……」


「セラ一族がこの星へ到来した際、その“隕石”に残されていた原初のデータ。そう伝えられています」


ユカは昨日見た街を思い出す。


巨大なクレーター。

中心にそびえる螺旋塔。


そして――地下に眠る隕石。


「つまり……」


ユカがつぶやく。


「この星で作られたものじゃない?」


「はい」


ピコが答える。


「その全容は不明です。しかし、扱い方によっては――」


わずかに言葉を切る。


「世界そのものを書き換えかねない」


「……世界を」


ユカは薬指の指輪を見る。


その光が、わずかに揺れた。


「そんなものを、シン統治教が狙ってるの?」


「ああ」


レンの手に力が入る。


「だから止める」


「警察には?」


「とっくに行った」


レンは吐き捨てるように答えた。


「資料も出した。教団の動きも、俺が解析したデータも全部な」


「じゃあ――」


「信じてもらえなかった」


ユカの言葉が止まる。


「“また教団絡みの妄想か”ってな」


レンは目を伏せる。


「何度説明しても同じだった」


拳を握る。


「だから……自分でやるしかなかった」


その言葉を聞いて、ユカはようやく理解した。


なぜレンが、あれほど強さにこだわったのか。


なぜ、奪われる前に奪うという考えにたどり着いたのか。


誰も信じてくれない。


誰も助けてくれない。


だったら、自分ひとりで強くなるしかない。


ずっと――そう思ってきたのだ。


「違うよ」


レンが顔を上げる。


「……何が?」


ユカは一歩、レンへ近づいた。


そして――その手を取る。


「もう、ひとりじゃない」


「……!」


レンの目が見開かれる。


ユカは手を離さない。


「私たちがいる」


レンは何も言えず、ユカを見つめていた。


昨日まで、ひとりで戦おうとしていた。


誰かに頼れば、利用される。

弱ければ、奪われる。


そんな世界しか知らなかった。


けれど――。


目の前の少女は、何も奪おうとしない。


ただ隣に立とうとしている。


「……ユカ」


レンの指が動く。


ためらいながら、ユカの手を握り返した。


「ありがとう」


「うん!」


ユカが笑う。


その横で、ピコが二人の手をじっと見ていた。


「……」


「ピコ?」


「いえ、何でもありません」


「?」


ユカはまた首を傾げる。


本人だけが、やっぱり何もわかっていなかった。


骨董店の外から、風が吹き込んでくる。


遠くにそびえる螺旋塔。


その光がゆっくりと明滅していた。


まるで――巨大な都市の鼓動のように。


そして、その地下深く。


まだ誰も知らない場所で、


“コア・データ”は眠っていた。


《第4話・終わり》


***


次回予告


レンと追いかけた先で見つけたのは、

教団が狙う“コア・データ”。


奪わせない。


その一心で踏み込んだ遺構の奥で、

圧倒的な力を持つ存在が立ちはだかる。


それでも――

私は、もう迷わない。


ユナお姉ちゃんの声。


指輪に宿る力。


そして、隣にいる仲間。


全部を信じて――私は戦う。


次回、

『フラグメンツ・オブ・メリオラ〜ユカの旅〜』


第5話「Re:リアライズ」


“守りたい”その想いが、

新たな力を呼び覚ます。



※作者の活動報告に各話の設定や裏話などのコメントを書いています。

https://syosetu.com/userblog/list/


※シリーズ第一弾『フラグメンツ・オブ・トゥルース〜最後の投擲』はこちら。

https://ncode.syosetu.com/n8279mq/


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