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第1話①「最年少データ修復士」

17歳になった私は、

ちょっとだけ長い旅に出た――


大好きなケーキを食べるために。


***


白く霞んだ世界。


視界の奥で、かつての都市の記録映像が断片的に点滅している。


人々の笑顔。


賑わう通り。


空を覆う、無数の情報の光。


それらは少しずつ分解されていった。


建物も。


人の姿も。


街そのものも。


膨大なデータが光の粒子となって舞い上がり、やがて都市は、溶けるように消えていく。


そして――


白。


ただ、それだけの世界になった。


***


荒廃した都市。


瓦礫の隙間では壊れかけのホログラムが明滅し、空には崩壊したデータ構造の残骸が、雲のように漂っている。


世界が白い光に包まれた、あの日。


“真実”を判定していたシン統治システムは消え去った。


人類が積み重ねてきた膨大なデータは砕け、無数の“ピース”となって世界中へ飛び散った。


人々は、その欠片を集めている。


見つけて。


壊さないように回収して。


失われたデータをつなぎ直す。


世界を、ほんの少しずつ修復するために。


でも――。


それは、簡単な仕事じゃない。


飛散したデータの残滓に触れると、《データシンドローム》と呼ばれる厄介な症状に侵されることがあるからだ。


だから。


ピースを探し。


安全に回収し。


つなぎ直す。


それが――私たちの仕事。


***


世界連合政府の首都、アストラシティ。


天を突く巨大ビル群。


その足元には、復興を終えた街並みと、今も手つかずのまま残された廃墟が入り混じっている。


その一角。


瓦礫に囲まれた回収現場で、防護服姿のユカはピコと一緒に作業をしていた。


ユカの職業は――データ修復士。


世界中に散らばったピースを回収し、つなぎ合わせ、再びデータとして復旧させる専門職。


超難関の国家資格だ。


ユカは、その資格を最年少で取得した。


数ヶ月前からデータ管理省のデータ管理第一課に配属され、正式に働き始めている。


とはいえ――


肩書きは、まだ“見習い”。


実務経験を積み、試験に合格すれば、


三級。


二級。


一級。


そして――特級。


少しずつランクが上がっていく。


でも、それはまだ先の話。


今は目の前の仕事を覚えて、ひとつずつこなしていくだけで精一杯だった。


「よし……」


ユカはARグローブを装着する。


目の前には、淡い光を放つ小さな結晶。


“ピース”。


慎重に。


慎重に。


少しずつ持ち上げ、保護ケースへ運んでいく。


「丁寧に扱ってくださいね〜」


横からピコの声が飛ぶ。


「これはカテゴリーC-7。振動を与えると、すぐ崩壊しますよ」


「わかってるってば! ……たぶん!」


「最後の“たぶん”が非常に不安なんですが」


ユカは聞こえなかったふりをして、さらに慎重に進む。


ゆっくり。


ゆっくり。


その様子を見ていたピコが、しばらくして口を開いた。


「ところで、ユカ」


「今度は何っ!?」


「慎重なのはいいですけど、それでは遅すぎです。このままだと作業が終わる前に日が暮れてしまいます」


「これでも、できるだけ早くしてるんだけど!?」


そう言い返した、その瞬間――


つるっ!


ピースがARグローブから滑り落ちた。


「やばっ!!」


ユカの顔から血の気が引く。


地面まで、あとわずか。


そのとき――


ジャキーン!


ピコの腕が一気に伸びた。


パシッ!


落下寸前のピースを空中でキャッチする。


「…………」


ユカは固まった。


数秒後。


「助かったぁ〜……」


全身から力が抜ける。


「ピコ、ありがとう」


「センサーで不穏な空気を察知していたおかげですね」


「不穏な空気?」


「はい」


ピコが淡々と答える。


「ユカの“うっかりゲージ”が急上昇していましたので」


「なによ、それ〜っ!」


「事実です」


「そんなゲージ、いつできたの!?」


「十年間の観測データから算出しました」


「勝手に変なデータ作らないでよ!」


文句を言いながらも、ユカはピースを慎重に保護ケースへ収める。


好奇心旺盛。


少しドジ。


でも、やると決めたら最後までやる。


そんなユカを、小さい頃からずっと見てきたのがピコだった。


理屈っぽくて。


口うるさくて。


余計なことまで分析したがる。


それでも――


ユカにとっては、十年来の相棒。


そして、大切な親友だった。


***


回収作業を終えた二人は、データ管理省の本庁舎へ戻った。


長い廊下を歩いていると、正面から一人の男がやってくる。


アラン・グレイヴス。


ユカの保護者であるカイ・セイランと、かつて共に戦った仲間。


現在はデータ管理第一部の部長と、データ管理第一課の課長を兼任している。


つまり――


ユカの直属の上司だ。


「ユカ。仕事には慣れたか?」


「はい!」


ユカが元気よく答える。


「今日はピースを三つ回収しました!」


「ピコの完璧なサポートがあってこそですけどね〜」


「もう! ピコは黙ってて!」


ピコを睨むユカ。


その様子を見て、普段ほとんど表情を変えないアランの口元が、ほんの少しだけ緩んだ。


「そうか」


そして、ユカを見る。


「これからも頼むぞ」


少しだけ間を置いて。


「最年少データ修復士殿」


「はい!」


ユカは、ぺこりと頭を下げた。



※作者の活動報告に各話の設定や裏話などのコメントを書いています。

https://syosetu.com/userblog/list/


※シリーズ第一弾『フラグメンツ・オブ・トゥルース〜最後の投擲』はこちら。

https://ncode.syosetu.com/n8279mq/


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